アウトソーシング計画と図書館のコアコンピタンス

 

                                牛 崎 進(立教大学図書館)

 

 

1 立教大学図書館・図書館業務の変遷

1959  法学部開設に伴い、法学部図書室が図書業務独立型で開館(5学部)

1960  図書館本館開館

1982 新座保存書庫開館。運用課設置

目録業務にUtlasを利用開始

1988 閲覧・蔵書管理システム汎用機導入(独自開発)

1995 図書館システムRISM運用開始

       情報システム課(新設)・情報管理課(旧整理課)の組織再編

NACSIS-CAT参加

   1998  観光・コミュニティ福祉学部設置に伴い、武蔵野新座図書館開館

   2000  図書館隣接の教室を改修しメディアライブラリーを本館に併置

   2001 自然科学系図書館・社会科学系図書館開館

   2002 人文科学系図書館開館

2003 旧江戸川乱歩邸と蔵書を購入し、蔵書管理が図書館に移管

2004 遡及入力4年計画後の書誌データ整備3ヵ年計画終了

NACSIS-ILL参加

2006 現代心理学部設置に伴い、武蔵野新座図書館を増改築して新座図書館開館

  

2005年4月1日現在の図書館概況

○図書館数    6(池袋キャンパス−図書館本館、学系図書館3(人文・社会・自然科学)

武蔵野新座キャンパス−武蔵野新座図書館、新座保存書庫)

     ○課の数     7(事務課、情報管理課、閲覧課、学系図書館3、武蔵野新座図書館)

   ○図書館職員数   41名(専任、うち司書職採用者6名、司書有資格者12名)

     ○蔵書数      160万冊

   ○図書予算     4.7億円

   ○年間受入図書 46,268冊(2004年度)

   ○学生数      16,354人(大学院生1,319含む)

 

2 図書館の課題

1)教育支援への継続的取り組み

■情報リテラシー教育の強化

授業内ガイダンスと個別ガイダンスの充実、ホームページによる利用者支援強化

2)組織再編

■職員数減員

財政改革の一環として、支出に占める人件費比率を削減し教育研究経費へ振り向ける政策への協力。1〜2年後の新理事会体制の発足に伴い、新人事政策が提示される予定。

3)新図書館建設

■書庫と利用者スペースの狭隘に端を発する池袋キャンパスの新図書館建設ビジョン

4)要員と予算の再配置

  上記1〜3を実現するためには、以下の点を総合的に検討する必要がある。

@図書館のコアコンピタンスとは

A図書館経費の再配分

図書予算や運営予算の再配分と補助金などの外部資金獲得

  B人事政策

採用・異動・養成に係わる図書館の関与

 

3 アウトソーシング計画

1)現状

雑誌の製本業務及び短期プロジェクトを除くアウトソーシングの現状を以下に列挙する。

1996  図書館の学術情報システムのシステム業務補助1名委託                        【A社】

1998 遡及入力(4年計画)業務全面委託(2001年度終了)                          【B社】

武蔵野新座図書館の資料組織業務全面委託                                  【C社】

図書館データ(発注・受入・チェックイン・製本等)関連業務委託            【A社】

2001  夜間休日開館業務(5館中1館は夜間のみでE社に委託)             【D社】【E社】

池袋キャンパスの資料組織業務委託                          【C社】

2002 書誌データ整備(3年計画)業務全面委託(2004年度終了)                   【B社】

2004  夜間開館業務の委託館も【D】社に変更

図書館本館の閲覧課昼間定型業務を委託                                  【D社】

電子図書館コンテンツ入力業務委託                                        【F社】

    2005  新座保存書庫業務全面委託                                                 【B社】

2)アウトソーシングが進行する事情

 ■図書館業務の標準化(NIIを媒介とする標準化、図書館システムパッケージの標準化など)

■受託業者の実績の積み重ね、人材派遣業の競争

司書有資格者の求職状況と「司書専門職」のマーケットの過度のアンバランス

 ■大学財政の出動(収入の固定化、大学個性化のための投資の必要性、人件費抑制など)

3)アウトソーシングする上での留意点

■受託候補会社の評価

■会社のスタッフに対する処遇

■大学スタッフと会社スタッフのパートナーシップ

4)アウトソーシングの評価

 ■利用者の評価(利用者アンケートの活用など)

■スタッフの定着性

■会社・スタッフの提案力

■会社・スタッフの応用力

 

4 図書館のコアコンピタンス

 発表者が図書館のコアコンピタンスと考える以下の項目は、大学の教学・財政・人事政策との兼ね合いから、その必要性が認知されたり、また、その取り組みも大学図書館によっては専任職員の配置などに濃淡が生じるものであろう。

@図書館諸政策の企画・実行・評価

A提供する広範なサービスへの利用者満足度の評価・改善

B蔵書構築(収集・廃棄・保存)

C情報環境の整備(オンラインジャーナル・データベース、ホームページ)

D情報リテラシー教育(教務部・キャリアセンター・メディアセンターとの連携)

E情報発信(公開する責任を負うコレクションのデジタル情報の提供など)

F図書館間協力への責任(協力には提供する責任が伴う)

 本学図書館は、図書館の一貫した政策によって目的的にアウトソーシングを活用してきたわけではない。図書館が提案したものも多いが、大学トップの意向で開始したアウトソーシングもある。今後、アウトソーシングを検討する際には、大学の財政・人事計画と調整しながら、専任職員の人材養成や世代交代を念頭に置きつつ、重点政策として取り上げるコアコンピタンスを選択することになるものと考えている。基本は、社会に出てゆく学生たちを図書館としてどのように支援できるかに尽きている。

 

5 アウトソーシング展望−集中処理機構の可能性−

選書後の図書資料の配架に至るまでの諸業務や各種のサービス業務を受注する共同処理機構の発足を提案する。

共同処理機構を構想する目的は以下である。

@委託契約のたびに会社が代わってしまうリスクを回避する。

A会社の一律な処遇によるスタッフの不安定性や閉塞感を緩和する。

Bコンピュータシステム更新のたびに発生する業務マニュアルの変更を最小化する。

C会社スタッフに図書館での経験者採用への道を開いたり、専門的スキルを持つ退職者に再雇用への機会を確保する。

構造としては、NIIが参画し、取次や書店、コンピュータメーカ、運輸業者が広く出資できるNPOタイプのサービスセンターである。このセンターを活用することで要員と業務スペースを本格的にアウトソーシングできることになり、各大学図書館がコアコンピタンスと定義する業務に専任職員を集中配置できるようにならないかと考えている。