第93回全国図書館大会東京大会報告

「みんなで創ろう図書館利用教育!―実践アイディア交流広場―」
 10月30日(火)9時30分〜16時30分(於:国立オリンピック記念青少年総合センター 1階102号室)
参加者:81名

本分科会は,ポスターセッション(9時30分〜12時30分,13時30分〜14時)とパネルディスカッション(14時〜16時30分)の二部構成をとった。以下では,それぞれの概要を報告する。

1.ポスターセッション
 ポスターセッションでは,大学図書館,医学図書館,公共図書館,学校図書館,専門図書館での利用教育の実践例を展示し,気軽に発表者と情報交換ができる交流広場をつくった。 大学図書館に関しては,次の3件の発表が行われた。@天野絵里子氏(京都大学附属図書館)による「京都大学における図書館利用教育:学生と図書館員との知識・技能の連環をめざして」,A渡邊愛子氏と藤澤こず江氏(東北大学附属図書館)による「「東北大学生のための情報探索の基礎知識」のあゆみ」,B市古みどり氏(慶應義塾大学信濃町メディアセンター)と上岡真紀子氏(同大学理工学メディアセンター)による「慶応義塾大学におけるKITIEとPATHを利用した情報リテラシー教育」である。医学図書館に関しては,松本直子氏(聖路加看護大学図書館)が「聖路加看護大学図書館の事例:『図書館利用教育ガイドライン−大学図書館版−』10項目による評価の試み」と題して発表を行った。公共図書館に関しては,森谷芳浩氏(神奈川県立川崎図書館)が「プロモーション・スライドと新たな利用支援」と題して発表を行った。学校図書館に関しては,松田ユリ子氏(神奈川県立相原高校)と宮永敏明氏(同県立小田原城東高校)が「LibraryNAVI(ライブラリー・ナビ)を使った情報リテラシー教育」と題して発表を行った。専門図書館に関しては,青木玲子氏(埼玉県男女共同参画推進センター)が「利用者と共に創る女性センターの利用教育:KNOW-HOW会議MEXICO・グラスゴー女性図書館の事例から」と題して発表を行った。
 このほか,図書館利用教育委員会に関する展示も行われた。具体的には,当委員会の活動の歴史に関する資料の頒布,『利用教育委員会通信』の復刻版の展示と頒布,紀伊国屋書店による当委員会編集・監修の『情報の達人』などの映像教材の上映や関係資料の展示を行った。

2.パネルディスカッション
 パネルディスカッションでは,コーディネーターの丸本郁子氏(大阪女学院短期大学名誉教授,元図書館利用教育委員会委員)による概要説明ののち,パネラーによる利用教育の実践例の発表と全体討議が行われた。

2.1 パネラーによる利用教育の実践例の発表
 各パネラーから10分ずつ利用教育の実践例の発表が行われた。パネラーは,ポスターセッションの発表者の松田氏,森谷氏,渡邊氏,天野氏,上岡氏である。
 松田氏は,LibraryNAVI(ライブラリー・ナビ)を使った情報リテラシー教育の実践例を紹介した。LibraryNAVIとは,神奈川県内の学校図書館員からなる神奈川県学校図書館員研究会の県央地区会B班が2002年から5年越しで開発してきた,まったく新しい形の情報ツール・メディアである。その基本形は,A4の用紙を横長にし,それを斜めに2分割し,6つに蛇腹折したものである。製作上のルールは,「LibraryNAVI」(以下,LNという)のロゴを表紙に入れること,裏側の右下に自分のマークを入れることである。コンテンツには,資料の探索法,How toもの,Whatもの,その他がある。例えば,「本の探し方」LN,「インターネットどうやって調べるの?」LN,「What is 『Library NAVI』」LN,「学校図書館トリビア」LNなど,250種類以上ある。松田氏は,このLNを使った情報リテラシー教育の実践例として,(1)高校の新入生を対象とした図書館ガイダンスでの活用,(2)高校の授業とのコラボレーション,(3)図書館員や教員,生徒を対象としたLNを作るワークショップを挙げられた。
 森谷氏は,神奈川県立川崎図書館で作成した「プロモーション・スライド」について紹介した。同館は,理工学分野の資料のみを収集対象としている公共図書館である。同館では,図書館をふだん利用していない人たちに対して,図書館の存在とその利用価値を認めてもらうために,映像による「プロモーション・スライド」を作成した。森谷氏は,このスライドを作成するにあたって,次の二点に留意したという。第一は,メッセージ性の強化である。利用案内パンフレットの単なる映像版に終わらせないために,「科学技術」「産業とビジネス」というようなテーマを設定し,図書館の特徴を紹介した。また,「知る」「学ぶ」「相談する」というように,図書館への主体的な関わり方を表現する述語をキーワードとしてサービスを紹介した。第二は,作成しやすい環境である。作成ソフトは,標準的なプレゼンテーションソフトであるPower Pointとし,シーンの入れ替えなど編集が容易に行えるようにした。また,画像は,センスが求められる動画ではなく,デジカメ等で写した静止画を使い,アニメーション機能によって動きを与えた。このスライドは,企業の見本市や展示会など,図書館以外の場所で上映され,新たな利用者の開拓を行っているという。
 渡邊氏は,東北大学の図書系職員が執筆している『東北大生のための情報探索の基礎知識』(以下,『基礎知識』という)のあゆみを紹介した。『基礎知識』は,全館での講習会の内容を均質化させること,学生が自学自習できる教材を作成することを目的として,2003年に刊行された。その後,2004年には,論文を書くという視点を取り入れて『基本編』を刊行し,新入生やその他希望者に無料配布している。なお,『基本編』は2006年と2007年に改訂を行っている。2005年には『自然科学編』を刊行した。翌2006年にはこの『自然科学編』を一般向けに改訂し,『理・工・医・薬系学生のための学術情報探索マニュアル:電子ジャーナルから特許・会議録まで』と題して販売した。2007年には,『人文社会科学編』と『基本編』の英語版(ダイジェスト)を刊行した。『基礎知識』シリーズ刊行の効果としては,(1)冊子体,web版だけでなく,オープンソース(word文書)として全国の図書館に配布することで,多くの図書館員と情報の共有ができていること,(2)図書館の初任者研修用にも利用していること,(3)全学授業「大学生のための情報検索術」を担当することになったことなどが挙げられる。今後は,冊子体の刊行を継続するとともに,e-learningの教材の開発を検討したいという。
 天野氏は,京都大学附属図書館が行っているさまざまなリテラシー支援教育の取り組みのうち,全学共通科目「情報検索入門」への参画と,講習会「論文・レポートを書くための文献収集講座」(以下,文献収集講座という)の実施の2点を紹介した。まず,「情報検索入門」は,分類,目録,参考,インターネット/データベースの4つのテーマで,それぞれ異なる教員が講義を担当し,次の週にテーマに応じた演習を行う半期の科目である。この科目で,図書館員は,演習での学生のサポートや演習課題の作成等を行っている。これらは,若手職員にとって必須の研修と位置づけられている。若手職員は,日常業務とは別に,限られた時間で教員のガイダンスのもとに一つの授業を作り上げる中で,チームワーク,利用指導やテキスト作成のテクニック,プレゼンテーションのスキル向上をめざしている。次に,「文献収集講座」は,主にこれから卒業論文に取り組む学部3・4回生を対象に附属図書館が行っている独自の講習会である。その主な内容は,OPACやCiNiiなど基本ツールの紹介,Googleの便利な検索・使い方を通じたインターネット検索の特徴,Endnote Webなどによる文献整理の方法である。「情報検索入門」と「文献収集講座」では学生に対してアンケートを実施している。学生からの回答内容は,図書館員の仕事にとって役立つ情報の宝庫であり,成果や改善点などが見えてくる。図書館員は,それらを次の利用教育の機会に活かし,学生に還元できるように努力していると述べられた。
 上岡氏は「Keio Interactive Tutorial on Information Education」(KITIE)と「Passage for Academic Training Help」(PATH)の紹介を行った。まず,KITIEは,大学の1・2年生を対象に,情報リテラシー習得を目的としたウェブチュートリアルである。米国大学研究図書館協会(ACRL)による情報リテラシー能力基準をもとに,「レポートを書く」「情報の種類と特徴」「情報を収集する」「情報を評価する」「情報を活用する」「プレゼンテーションをする」の6章と,プレテスト,ファイナルテスト,資料集,用語集で構成されている。次に,PATHは,1・2年生のために,KITIEよりも易しく基本的な内容を,動画で学習することができるチュートリアルである。これは,KITIEの内容が大学1年生にとっては少々難しい,400ページもの教材を読むのはきついという教員からのコメントをきっかけに開発された。PATHは,「大学における学び」「各キャンパスのメディアセンター」「検索のテクニック」「KOSMOS(蔵書検索)」「記事索引データベースを使う」からなる。KITIEとPATHは,ともに講義の補助教材として活用されている。また,知識・スキルの伝達による情報リテラシー教育には限界があるため,レファレンスデスクでの学生との対話も重要であると指摘された。

2.2 全体討議
 全体討議では,コーディネーターの丸本氏を中心に,下記の点が話し合われた。 (1)図書館内における図書館利用教育実施に向けての環境づくり(学内での合意形成や人員の確保など)について  (2)公共図書館における利用教育について  (3)高校時代に情報科を履修している大学新入生の図書館利用について。高校時代に情報科を履修していない大学生との違いについて  (4)大学図書館が実施する講習会において,学生が集まりやすい曜日や時間帯はあるかどうかについて  (5)参加者による静岡県の学校での読書活動推進の取り組みの紹介(静岡県教育委員会社会教育課「読書県しずおかBookサイト」静岡県教育委員会(オンライン),入手先,(URL最終確認:2007-12-07).)

3.実践の交流を!
 本分科会には,各館種の図書館員を中心に81名が参加した。参加者に対するアンケートの集計結果について,ポスターセッションは,参加して「大変良かった」が45%,「良かった」が14%である。パネルディスカッションは,参加して「大変良かった」が9%,「良かった」が46%である。両者とも,アンケート回答者の半数以上から,良かったという高い評価を得た。 参加者は,ポスターセッション,パネルディスカッションともに,アットホームな雰囲気の中で情報交換することができた。 単なる知識の学習や先進事例の紹介だけではなく,今後は,図書館員が中心となって,図書館実践の交流とともに,図書館員間でコミュニケーションできる場を積極的につくっていく必要があると考える。


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最終更新:2008(平成20)年3月24日
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