第16回図書館利用教育実践セミナー in 京都のご報告

情報リテラシー教育の実践―すべての図書館で利用教育を
  

赤瀬美穂(甲南大学)

JLA図書館利用教育委員会による第16回図書館利用教育実践セミナーが,3月12日(土)9時30分から13時まで、JR京都駅前のキャンパスプラザ京都で行われた。関西での実施もすでに6年目となり,毎年春の催しとして定着しており,多くの図書館員、図書館職などの皆さんから待たれるようになった。

 

とくに今年は,3月11日の東日本大震災の翌日でもあり,関東からの講師の到着が危ぶまれたが,発表順序を変更するなどで乗り切り,ぶじ予定通りの内容で行うことができた。当日,参加者の皆さまには大変ご心配をおかけしたが,最終的に114名の方々が集い盛会であった。

昨年は当委員会が設置されてから20周年の節目の年であり,また,昨年3月にJLA図書館実践シリーズの1冊として,『情報リテラシー教育の実践―すべての図書館で利用教育を』が当委員会編で刊行されたこともあり,書名と同じテーマで企画した。プログラムについての参加者の評価は,5段階評価で総合評価4.41点であり,個々の発表についての満足度も高かった。

 

当委員会委員長の野末俊比古さん(青山学院大学)による基調報告「英国における情報リテラシー教育をめぐる最近の動向―ヨークシャー地方の大学図書館における実践から日本へのヒントを考える」では,英国の情報リテラシー教育の最新事情をうかがい知ることができ,また,研究生活で英国に滞在中に収集した資料(写真)を駆使した発表内容から,利用教育を考える具体的なヒントが得られたと好評であった。

 

福田博同さん(当委員会委員/跡見学園女子大学)による動向紹介「アクセシビリティを考慮した図書館利用教育ウェブサイトの作成法:JIS X8341-3改訂の動向」では,「図書館利用教育委員会サイトはなぜ青地白文字になったか?」という参加者への問いかけから,HPのバリアフリー化に対応する必要性について述べられ,読み手への配慮について新たな視点と指針が得られる内容であった。

今回のセミナーの目玉企画は,公共・大学・学校の3つの館種が揃った実践報告である。

 

1)公共図書館の藤田章子さん(大阪府立中央図書館)による「大阪府立中央図書館における図書館利用教育」では,公共図書館の「学校支援サービス」などの多様な取り組み事例に参加者の関心が高く,公共図書館の新たな可能性を感じたとの意見もあった。

2)大学図書館の赤井規晃さん(大阪大学附属図書館)による「教員との共同によるライティング指導の試み―大阪大学附属図書館の事例」では,図書館によるライティング・サポート企画として「レポートの書き方講座」や「論文の書き方・読み方 プチ・ゼミナール」を,教員との協働により開催した事例から,実践的なノウハウが得られたこと以上に,大学教育に関わる今後の図書館員のあり方についても示唆に富む内容であった。

3)学校図書館の天野由貴さん(当委員会委員/椙山女学園高・中図書館)による「問いをつくるスパイラル―考えることから探究学習をはじめよう!」では,探究学習において問いをつくることの重要性を力説されたことが共感を呼び,参加者からもっと具体例を知りたいと熱望された発表であった。なお,この当時,天野さんを含む当委員会図書館利用教育ハンドブック学校図書館(高等学校)版作業部会により原稿作成中であった同名の図書が,2011年7月にJLAから刊行された。

 

委員会の手前味噌で恐縮だが,「毎回、京都で何かを持ち帰ることができる貴重な機会」,「収穫の多いセミナー。新たな視点が得られ,自館での実践を更新できそう」,「新鮮なテーマで実践例が発表されるので活動の刺激になる」,「毎年楽しみにしている」などの声を参加者からいただくと,来年もまたがんばって開催したいと思う。