船橋市西図書館の蔵書廃棄問題について

2002年6月5日
   社団法人日本図書館協会
 

 昨年8月に船橋市西図書館が除籍・廃棄した図書に、「新しい歴史教科書をつくる会」の会員の著書が集中的に含まれていることが、今年4月12日に新聞報道され、その後船橋市教育委員会が調査、5月10日にその事実を確認・公表し、5月29日には関係者の処分も行いました。日本図書館協会は、ことの重大性に鑑み、新聞報道後直ちに調査を申し入れました。図書館の自由に関する調査委員会関東地区小委員会が5月14日に船橋市西図書館に訪問調査を行ない、さらに関係者からの事情聴取を続けています。  

 わが国の図書館には、戦前・戦中における公権力の思想統制強化の中で、自主規制を進め、思想善導機関の役割を担っていった歴史があります。日本図書館協会が1954年に採択し、1979年に改訂した「図書館の自由に関する宣言」(自由宣言)は、かつての誤りに陥ることなく、国民の基本的人権のひとつである「知る自由」を資料提供によって保障することが図書館の基本的使命であり、そのために力を尽くすことを内外に約束したものです。  

 私たちは、自由宣言第1「資料収集の自由」の第2項において「多様な、対立する意見のある問題については、それぞれの観点に立つ資料を幅広く収集する」として、社会で問題として取り上げられることがらこそ、図書館が資料・情報を収集して国民の関心に応えることの重要性を確認しています。そして自由宣言第2「資料提供の自由」において、「図書館は、正当な理由がないかぎり、ある種の資料を特別扱いしたり、資料の内容に手を加えたり、書架から撤去したり、廃棄したりはしない」として、寛容と多様性の原理に基づく図書館は、排除の論理とは無縁であることを表明しています。  

 広く社会の論議を呼び注目を集めた歴史観に関連した資料を提供することは、図書館への社会の期待に応えるものであり、図書館の責務です。船橋市西図書館が、これらの蔵書を廃棄したことは、自由宣言の思想に反し、これを踏みにじるものと言わざるをえません。  

 日本図書館協会は、船橋市西図書館および関係者のみなさんが、問題の再発防止に取り組むことはもとより、図書館の管理・運営・サービスの基本にたちかえって、市民の信頼回復に努められることを求めます。  

 そして、今回の問題を図書館界全体の問題として受け止め、自由宣言の理念を学習し、再確認することを全図書館員に要請するとともに、今後、図書館界と社会に対して、自由宣言のいっそうの普及に力を尽くすことを改めて表明します。




図書館の自由に関する宣言

 

 図書館は、基本的人権のひとつとして知る自由をもつ国民に、資料と施設を提供することを、もっとも重要な任務とする。 この任務を果たすために、図書館は次のことを確認し実践する。  

 第1 図書館は資料収集の自由を有する。  

 第2 図書館は資料提供の自由を有する。  

 第3 図書館は利用者の秘密を守る。  

 第4 図書館はすべての検閲に反対する。  

 図書館の自由が侵されるとき、われわれは団結して、あくまでも自由を守る。