2002年7月11日

子どもの読書活動の推進に関する基本的な計画(案)について

社団法人日本図書館協会
  

 文部科学省は6月26日、「子どもの読書活動の推進に関する法律」(以下「法」)第8条の規定に基づいた「子どもの読書活動の推進に関する基本的な計画(案)」(以下、「計画案」)を発表し、これに対する意見を募集している。日本図書館協会は、法案に対する見解(2001年11月)、基本計画策定に関しての要望(2002年2月)を提出した経緯を踏まえ、以下のとおり計画案についての見解、意見、要望等を明らかにする。

1 計画案について

  1 読書は本来、自由で自主的な個人的な営為であり、行政施策はあくまでもそのための環境整備にある。子どもたちに読書を強制するようなことは排されるべきである[「アメリカ版親子読書25箇条」竹内セ訳 参照]。 基本計画の目的は、法第2条に明記され、計画案の第1章に記されているとおり「すべての子どもがあらゆる機会とあらゆる場所において、自主的に読書活動が行うことができるよう、積極的にそのための環境の整備を推進」するための施策の具体化にある。つまり子どもが「本と親しみ、本を楽しむことができる環境づくり」(衆議院付帯決議)を図るための年次計画である。法第8条に基づく本計画は、政府として実施する子どもの読書環境整備5か年計画である。しかし計画案に掲げられた政府自らが実施する施策については、全体として具体性に乏しく、わずかに公立図書館および学校図書館に対する地方交付税措置による資料整備と、「子どもゆめ基金」による助成措置を見るのみのようである。 法第9条では、政府の計画は自治体が策定する推進計画の基本とするとしているが、これでは自治体にとって拠りどころとすることは極めて困難である。自治体が内容豊かな計画を策定できるよう財政的支援を織り込んだ計画案とするべきである。  

 2 法第9条により本計画は、自治体の推進計画の基本として位置付けられている。政府の計画を「基本と」して自治体が計画を立案、施策を実施することは、地方分権の視点との関連でどう捉えるべきか、別途検討が必要と思われる。 計画案に掲げられている項目のほとんどは、自治体が実施すべき項目であり、ある意味では指針の役割を果たしている。自治体における図書館経営、人事管理の現状からすると、提起されている項目には多くの積極的な内容がある。それぞれの自治体が実状に即して、その具体化を図る工夫が必要となる。同時に指針を示した政府には、具体化の努力をしている自治体に対するより有効な支援策が必要とされる。  

 3 計画案は5か年計画とされているが、その達成目標が明確となっていない。数値については皆無に等しく、達成の水準が明確ではない。例えば学校図書館の蔵書冊数については平成5年に文部省(当時)は「学校図書館図書標準」を示し、その整備すべき目標数値を明らかにしているが、5か年でそれをどこまで整備するか、どこまで実現するか、などの目標を示すことは必要なことである。   

 4 図書館における司書など専門的職員、および担当職員について、その重要な役割を示し、その配置を促していることは極めて重要である[「公共図書館・児童サービス担当図書館員の専門的能力について」竹内セ訳 参照]。とりわけ学校図書館担当事務職員(学校司書)の配置促進を述べていることは、大事な提起である。

2 政府として実施すべき内容

 1 図書館法第20条に基づく図書館の施設、設備に要する経費等の補助事業を実施する。これは法律に明記された補助事業であり、政府に課せられた施策である。とりわけこの事業は、図書館未設置市町村の解消には極めて有効な施策である。   

 2 地方交付税の内容を豊かなものとする。公立図書館における地方交付税措置には、例えば市町村の図書館長の人件費が積算されていなかったり、いまや8割以上の図書館に導入されているコンピュータの経費についても積算されていない。学校図書館も施設設備の拡充のための経費を積算すべきである。計画案では公立、学校いずれの図書館についても資料整備の経費しか言及しないのでは不十分である。またその図書整備についても高等学校には措置されていないので、これも積算すべきである。   

 3 司書教諭の発令は教育委員会が行うよう促す。学校図書館法改正に基づく司書教諭の発令が本格化しようとしている。司書教諭の働きを豊かなものとするためにも、単なる校務分掌ではなく、教育委員会発令を明確にする。さらに司書教諭の専任化を目指す。   

 4 障害児の読書環境を維持、充実させるためには、盲人用郵便物の無料制度、障害者用冊子小包の割引制度の存続が極めて重要である。   

 5 学校図書館の施設設備の整備計画を策定する。

3 個別的事項

 計画案には、指摘し意見を述べるべき項目は多数ある。ここでは先に提出した要望の内容に即して重要と思われる点を述べる。  

 1 子どもたちに読書冊数を競わせることや、現場の状況を考慮せず全校一斉の読書活動を行うなど、読書嫌いにさせかねない過度の取り組みについては排除されるべきである。  

 2 図書館がないなかでブックスタートを構想したり、児童館、保育園などに図書館の児童室の肩代わりをさせることのないよう、図書館が子どもの生活圏に設置されるようにする。  

 3 子どもにインターネットを活用した情報活用能力を身に付けるための司書の役割についてふれる。  

 4 在日外国人の子どもたちの読書環境整備を図る。親の母語、親が育った国の文化を子どもに伝えることの出来るよう資料の整備や人的態勢を整える[「みんなで元気に生きよう―多文化サービスのためのブックリスト137―」 日本図書館協会 参照]。  

 5 障害児のための布の絵本、おもちゃなど多様な資料の作成、収集について述べる。  

 6 地域において子どもの読書に取り組んでいる団体、グループに対する支援は、場の提供だけでなく、それぞれの要求にしたがった多様な方策を採るようにする。  7 自治体における本事業の所管は、教育基本法の理念に基づいて実施できるよう教育委員会とする。

以上/DIV>