認定司書への道

連載「認定司書への道」

日本図書館協会認定司書事業委員会
 

 日本図書館協会による認定司書事業は2010年度より開始され,第1期として37名が認定されました。この審査報告と認定司書名簿は,認定司書審査会によって『図書館雑誌』2011年7月号に公表されました。また,第2期にあたる2011年度の審査もすでに終わり,本年5月には第2期の認定司書名簿が公表される予定です。

 しかし,いまだに図書館関係者の間で認定司書制度の認知度は必ずしも高くありませんし,第2期の申請件数も前年度ほどの申請件数には届きませんでした。

 そこで,認定司書事業委員会として,この制度の普及を図るとともに,制度の理解を深め,今後より多くの方々に申請していただくため,本誌上で6回にわたる連載「認定司書への道」を企画いたしました。

 この連載では,問い合わせの多い「自己研鑽ポイント」に関する解説や審査段階で要件不足とされることが多い「著作(論文執筆)」に関するアドバイスなどを取り上げます。また,認定司書による座談会やこの制度の意義を広い視点から論じる識者の文章など,多彩な内容を予定しております。

 なお,2012年度(第3期)の認定審査は,例年通り11月に申請書類を受け付けますが,その詳細(募集要項)は本誌10月号でお知らせします。それまで続くこの連載「認定司書への道」をお読みになって,一人でも多くの司書の方々に申請を検討していただけますようご案内申し上げます。

連載一覧

第1回 〔座談会〕認定司書と理事長を囲んで

出席者:伊藤明美さん(認定司書第1005号,浦安市立中央図書館資料第一係長)
湯川康宏さん(認定司書第1032号,飯能市立図書館副館長)
塩見 昇(日本図書館協会理事長)
司 会:糸賀雅児(日本図書館協会認定司書事業委員会委員長)
場 所:日本図書館協会会館(2012年1月26日)

認定司書制度の意義

塩見理事長(以下,理事長) いまの図書館は管理運営問題がなかなか難しい状況にあります。結局は職員の問題に収斂していくのですが,決して明るい方向ではなく,職員にいろいろなしわ寄せが行っています。そのような状況の中で10年という長い図書館勤務年数を前提としている認定制度なので,はたして該当者がどれだけあるかが一つの懸念材料でした。

 正規の職員の公募採用は激減しているし,正規の司書職員自体も非常に少なくなってきています。その中で認定制度開始の決断をして,皆さんが第1期認定,そして先日第2期審査があったと聞いていますが,優れた司書を大事にしたいと思うし,こういう司書が増えることが,図書館事業そのものの発展につながっていくというアピールの意味合いもあります。私が昔図書館に勤めていた頃はもっと余裕がありましたが,現在は大変に忙しく,ゆとりを持って仕事をすることが大変難しくなっています。そのような中で論文を書いたりするためには,一度どこかで決断をしないと難しいものなんですよね。

 毎日やっている仕事そのものが図書館情報学の大事な出発点ですが,それを日常業務からいったん切り離して脇に置いて,対象化して見てみるというのは大事です。これは社会人大学院に行ったりすることと同様に大事なことだと思いますし,司書の生涯学習としても必要なことだと思います。自分の日常を対象化してとらえる,そのチャンスとして,結果的に認定されようがされまいが,申請してみようかと考えることが重要でしょう。この制度と認定された司書たちの将来というのを,同時に育てていく役割を協会は担っていかないといけないと考えています。

糸賀委員長(以下,糸賀) 日本図書館協会(以下,協会)が認定司書制度を実施するということは,司書一人ひとりの成長を後押しするとともに,図書館を設置する地方自治体に対してアピールする意味合いもあると思います。そのあたりのお考えもお聞かせください。

理事長 とても大事な視点だと思います。基本的に司書を大事にしないということがあらゆる館種に見られますから,設置母体に対して「こういう人が司書なんだ」「こういう人たちがいることによって図書館の事業が成り立つんだ」ということをアピールすることは重要でしょう。それに対して何ができたかと言われれば,まだ十分ではないが,確かにその点は課題です。これから協会の新年度の事業計画を作っていきますが,そういった視点も入れていく必要を感じています。

糸賀 専門職としての質のコントロールがきちんとできてこその専門職だと思います。司書資格を大学なり講習なりで一度取れば有効というのは,もはや今の時代通用しません。そういう意味では職能団体,専門職団体が,専門職の質のコントロールを一定程度やっていることを示すのは,顧客(利用者)を含めた外部の人たちに対してセルフ・コントロールができている業界であることをアピールする意味もあると考えています。

認定司書の申請動機

糸賀 まずは認定司書のお二人が担当する業務と申請の動機をお聞かせください。

伊藤 現在は,資料の受入れ発注を主に担当しています。児童担当も長かったですし,ハンディキャップや分館係長などもやってきました。

 図書館業務のスキルは現場経験を積むことで培われますが,認定司書制度はそれを評価してくれること,また長く司書として勤務するなかで,一度ここで自分を振り返って,客観的に見てみたいと思ったのが動機です。それと,申請の要件に研修受講というのがあるのですが,公費で受けさせていただいた研修もカウントされます。図書館員としての専門性を認定司書という目に見える形にすることで,地域や今までお世話になった方々に還元できるのであればと考え,申請しました。

湯川 埼玉県立図書館に採用されて,児童サービスを除けば,ひと通りの業務をやってきました。数年前に県内の町立図書館に3年間副館長として出向しました。その後いったん県立に戻ったのですが,昨年から再び,県内の市立図書館に新館をオープンさせるということで勤務しています。

 志望動機は,「目に見える形にする」という点では伊藤さんと共通しています。図書館に入る前に不動産関係の仕事をしていまして,宅地建物取引主任者などの資格を持っていると,周囲からは専門知識があるということで頼りにしてもらえました。司書資格だけでは,まだまだそのように見てもらえません。いろいろな研修を受講することで確かに履歴は残るのですが,社会が認めてくれるような制度が何かないかと探していたところ,認定司書制度に出会ったので申請しました。

糸賀 単に司書の資格だけでは図書館に長く勤められないという危機感はありましたか。

伊藤 私の勤める市では,司書は行政職採用ですから,異動しないという保証はありません。

湯川 私は司書として採用されていますが,県立図書館の数が減るなど状況も変わってきています。人が余ってくるという状況になった時に,自分がいたい部署にいられるためには,やってきたことを見える形にしておけばいつか役に立つのでは,という気持ちがありました。

認定司書に期待すること

糸賀 理事長は,認定された司書にどんなことを期待されますか?

理事長 図書館がどういったものか,図書館の良さを広く社会に伝える必要があると思いますが,われわれが書いたり話したりするだけで変わるわけではありません。認定司書の皆さんに良い仕事をしていただいて,図書館サービスの実態から世の中に伝えていくことが大事です。身をもって司書の有り様を普及させていく中心的存在として,リーダーシップを発揮されることを認定司書の方々には期待しています。

糸賀 司書集団の中でのリーダー格は果たしてもらいたいですね。ご自身の勤務する図書館の中であとにつづく若手司書の模範であったり,教育委員会やその外側の人たちに図書館はこう頑張っているんだということが見えたりするような仕事をしていただきたい。自分が良ければよいということではなく,専門職として評価される司書を増やしていくという視点に立って,ご自身の図書館の内外で活躍していただきたいと思います。

理事長 申請のために初めて論文を書いた人がいる1)と思いますが,図書館の世界には書く材料はいっぱいあるし,発表の場も多いです。協会の『図書館雑誌』や『現代の図書館』に2?3年に一度くらいは自分の活動を対象化して,書くことを続けてほしいものです。そうすれば図書館界の雑誌も元気になりますし。

認定司書としての抱負

糸賀 理事長から認定司書への期待が寄せられましたが,お二人には認定司書としての抱負をお話し願います。

湯川 いまのお話に出ていたように,できれば人を育てるような方向でお手伝いができればと思っています。研修の講師とまではゆきませんが,実務で培ってきたものを教えることはしているので,できるだけそういう「育てる」というところで,経験を広く伝えていきたいと思います。

糸賀 それをもう少し外にも見えるような形で,やっていただけるとありがたいと思うのですが。実際,埼玉県で認定される司書を増やすとか,そのあたりどうですか。

湯川 私以外に誰も受けないとは思っていませんでした。県立図書館には私より優秀な人が大勢いるにも関わらず,受ける人が少ないというのは残念でなりません。

糸賀 司書は何か控えめというか,遠慮がちというか,自分で手を挙げようとしないので,湯川さんにもご尽力いただいて,ご自身の周囲でもぜひ多くの認定司書を出していただければと思います。伊藤さんはいかがでしょうか。

伊藤 もちろん職場で仕事をがんばって,市民の皆さんに恩返ししたいというのはあるのですが,認定司書連絡会2)として館種や専門領域が異なっても,日本の司書の地位を少しでも高めるための政策提言のようなものができるようになれればと思っています。

糸賀 それはぜひともやっていただきたいですね。

伊藤 最初に理事長がおっしゃったように,図書館界はたいへん厳しい状況にありますね。いま自分は異動しないから大丈夫だ,っていう状況にはどこの職場もないと思います。たまたま自分のしたい仕事を図書館という職場でできているという幸せな状態を,これからあとに続いていく人たちのために確立していくというのが大事な仕事だと思います。

申請を躊躇している司書へのメッセージ

糸賀 十分要件は満たしているはずなのですが,申請するのをためらっている司書も多いようです。そういう認定申請を躊躇している方たちの背中を押してあげるようなメッセージをお願いします。

伊藤 私は“司書の社会的使命とは,自らが働く自治体に対して負うだけのものではないはずである”3)という一文に共感を覚えました。自分の地位だけを守ればよいのではなくて,図書館や読書を通じて,人々の生活が幸福になることのお手伝いをするのが,司書だと思います。ですから,自分たちの地域だけではなくて,その周りにもそうなってほしいと。図書館員全体の地位向上のためにも,あるいは,外の地域の人たちにもっと良い図書館サービスを経験していただくためにも,まずは認定司書に申請しませんか,とお伝えしたいですね。

湯川 伊藤さんのおっしゃるとおりですが,それでもお尻の重い方は動かないんですね(笑)。苦労して認定されても何かメリットがあるの?というような自分本位の発想が先に立ちますから。しかし,ベテランとは,自分だけではなく後輩を育てていかなければならない,そういう段階にいる者だと思います。つまり,損得を抜きにして,そういうことをやらなければならない社会的立場にいるわけです。だからこそ認定司書に申請してほしいのです。利己的な動機でもよいと思います。申請することで必ず何かが変わるということが経験的に言えます。申請するという行為自体が自分だけではなく司書全体のためにも役立つはずです。ですから,立派な志がなくても申請するという勇気自体が立派なことで無駄にはなりませんよ,とお声がけしたいです。

糸賀 図書館に勤め始めたきっかけは,本が好き,図書館が好きということかもしれませんが,もう少し周囲や社会全体に対する目も開かれていって当然だと思います。そんな使命感をもった司書が増えるように私ども認定司書事業委員会も努めていきたいと思います。

認定司書制度の今後

糸賀 最後に,協会理事長として,この認定制度を今後どういう方向で育てていくか,お聞かせください。

理事長 日本図書館協会は純然たるプロの団体というわけではないですけれども,図書館の社会的地位向上は大きな課題だし,図書館で働いている人やそのもののもっている良さがまだまだ理解されていない,伝えきれていないと感じます。その点も含めて図書館の存在意義を社会的に強めていくのが,協会の重要な仕事としてあるはずです。それを支えているのが司書で,その中心に認定司書がいるということをわれわれ自身が確認し,それを広げていく姿勢を強調することによって協会の基本的使命の中に認定司書を位置づけてとらえていく必要があると思います。認定された皆さんには,ぜひとも職場の仲間から,利用者の人たちから,司書として信頼を得られるはたらきをお願いします。

 今日はいろいろなお話を聞かせていただいたので,皆さんのお仕事に期待したいし,それが協会の力になるようにお知恵も貸していただきたい。そして,ぜひ協会への積極的な参加をお願いしたい。認定司書連絡会に今日のことも伝えていただいて,協会を身近に感じる機会につなげていただければと思います。皆さん,ありがとうございました。

1)第1期認定時で,申請のために書き下ろした論文で認定された司書は11名(全体の30%)
2)認定司書の間で自主的な連絡・情報交換のために設けたネットワーク上の組織名
3)“認定司書制度の開始にあたって”図書館雑誌,104巻,7号,p.424,2010年.

[NDC9:013.1 BSH:図書館員]

第2回 論文の書き方(その1)-テーマの選び方- 

なぜ認定司書に「論文」が必要か

 日本図書館協会認定司書とは,図書館の実務経験や実践的知識・技能をもつだけではなく,図書館経営の中核を担いうる司書であることを公的に認定する(認定司書審査規程第2条)ものです。そのための条件のひとつとして「ことば」による自己の表現力が挙げられます。

 図書館に対する見方や考え方,さらには行動や判断が適切かつ妥当であることを周囲に理解してもらうためには,しばしば「ことば」によって,それを適切に表現することが求められます。その意味で,図書館の業務やサービスなどのあり方について,本人が「ことば」を吟味して書いたもの,すなわち「論文」(もしくは著作)を認定要件のひとつとしています。

「論文」に求められる要件とは

 審査会内規第15条で,概ね次のように規定されています。

(1)単一又は複数(5点以内)の著作の文字数の合計が,8,000字以上であり,複数の著作については,それぞれが一定の著作として成立する。

(2)図書館の業務,運営等図書館経営に資する内容を含む。ただし,勤務する図書館の単なる事例紹介は除く。

(3)文章に論理的な整合性がある。

 実際に,これまで認定された方々は,申請の際に複数の著作を用意した方もいれば,ひとつだけ,それも申請を機に書き下ろした論文だけという方(これまでの認定司書52名中19名が該当)もいます。ですが,1本の論文だけで十分に水準に達していた方が多く,複数の著作で合計8,000字を越え,その全体で著作要件を満たす方はあまり多くありませんでした。

テーマの選び方

 認定司書に求められる「論文」は学術論文ではありません。実務経験や業務知識にもとづいて,実践的な課題を取り上げるほうが良いでしょう。ただし,上でも挙げたように,勤務館の単なる事例紹介では論文と言えませんし,認定される司書として,自分の図書館のことしか考えられないようでは困ります。その意味で,テーマ選びは,自分が直接関わる仕事と向き合いながらも,広く現在の図書館界を見渡したときに,どういう「問い」を立てて,その「問い」に自分はどんな「答え」を見いだそうとするのか,を考える作業でもあります。

 例えば,図書館で地域資料を担当する司書が,自身の業務上の必要もあって,時間をかけて地域資料の収集マニュアルを作成したとしましょう。苦労して出来上がったマニュアルは,ある意味で「著作」と言えるかもしれませんが,ここで求められる「論文」とは違います。これだけでは,自館で役立つにすぎず,広く図書館経営に資する内容とは言えないからです。

 ですが,どのような収集マニュアルが優れたマニュアルなのかを考え,多くの図書館にとって充実した地域資料のコレクションを作り出すために必要な手順とは何かを論じた文章は「論文」に近づきます。つまり,自分の仕事を相対化し,多くの図書館員の間で共有できるような「問い」へと一般化させ,それへの「答え」を自己の経験と客観的な根拠をもとに説明していくことが「論文」には求められるのです。

 こうして書かれる実践的論文は,多くの図書館員の間で読まれ,それぞれの職場で参考にされるでしょう。そして,そういう「ことば」で図書館を語れることも,司書が自治体や社会のなかで専門職として認められていくうえで必要なのではないでしょうか。

 [NDC9:013.1 BSH:1.図書館員 2.論文作法]

第3回 論文の書き方(その2)-文章の構成法- 

全体のアウトラインを考える

 「論文」というからには,論理的な文章の展開になっていて,読む人が多少なりとも納得できることが求められます。そのため,論文を書き始める前に全体のアウトライン(あらすじ)を考えて,論理の運びを確認することが重要です。一般に「起承転結」と呼ばれる構成法は漢詩の作法ですが,論文を書く場合にも応用できます。

 「起」でテーマ設定(問いのたて方)について説明することから書き始めるのが一般的です。職場の状況や自分自身の問題意識から,そのテーマを取り上げる意義を述べます。実務に関わる現場の司書が書く論文であれば,たまたま今,図書館界でこの問題が関心を集めているから,という単純な動機でも良いでしょう。

 次に「承」で,そのテーマがこれまでどのように受け止められ,扱われてきたのかを,少し周囲を見渡しながら展開していきます。ここでは,これまでに発表された文献や資料を探して,問題の所在を再確認することも有効です。これで論文を書く人の「立ち位置」も明確になります。

 そして,「転」で自分自身の経験や論理にもとづいて,テーマとして掲げた「問い」への「答え」を導き出していくことになります。その際に,独自に実施した調査や作成したデータによる裏づけがあると,より説得力が増します。

 最後に「結」で,自分の意見や結論を要領よくまとめ,読む人に伝えたいことがわかるようにします。場合によっては,今後に残された課題を挙げても良いでしょう。ただし,これは模範的な流れを説明したもので,これに従っていないと審査会が認定しない,というわけではありません。要は,問いのたて方が明確で,それに対する自分の考えがわかりやすく書かれていれば良いのです。 
 

接続表現をうまく使う

 前回の連載でも触れましたが,論文に求められる要件のひとつに“文章に論理的な整合性がある”ことが挙げられています。事実と論理にもとづいて,意見や考えを展開していけば良いのですが,日頃からこのように書く習慣を身に付けていないと,なかなか難しいものです。ですが,これを簡便に行う方法は,文章中で用いる接続表現をうまく使うことです。

 例えば,順接の接続語として,したがって,そして,だから,ゆえに,…ので,等があります。また,逆接には,しかし,ところが,だが,…であるが,等が用いられます。さらに,言い換えや要約の場合には,すなわち,つまり,要するに,といった接続表現がとられます。こうした接続表現は,前の文章とそれに続く後の文章の関係を明確にしますから,これらを適切に使い分けることで,文章相互の論理関係がはっきりしてきます。

自分の意見と他人の意見を区別する

 読み手に自分の意見をうまく伝えるには,文献やウェブサイトなどを読んで知った他人の意見や事実と,自分の独自の意見とを区別して書くことがきわめて重要です。他人の論説を,自分の意見や主張の拠り所として引用する場合にも,そのことがはっきりと分かるよう,区別して書かなければいけません。こうした「論文の作法」を説いた解説書もいろいろありますから,図書館で探して活用してください。

 もちろん,職場の上司や知り合いのベテラン司書に読んでもらったり,図書館関係の専門誌に投稿し査読(審査)を受けたりすることで,優れた論文に仕上げていくのも良いでしょう。社会人を対象にした大学院などに通えば,論文の書き方の指導を受けることもできます。

[NDC9:816.5 BSH:論文作法]

第4回 認定司書制度への期待(文部科学省生涯学習政策局社会教育課) 

文部科学省生涯学習政策局社会教育課

 昨今,図書館は,住民の身近にあって,図書やその他資料を収集,整理,保存し,その提供を通じて住民の学習を支援するという役割に加え,地域が抱える課題の解決を支援するための図書館サービスを行うことが求められている。

 このような中,地域を支える知の拠点として必要な機能を備えた「これからの図書館像」を実現し,図書館の改革を一層進めるためには,その中核を担う司書の資質向上が不可欠であり,その意識と行動にかかっていると言っても過言ではない。

 司書に求められる資質・能力については,「これからの図書館の在り方検討協力者会議」の報告1)等の中で指摘がなされている。その中では,地域社会の課題や人々の情報要求に対して的確に対応できるよう,図書館に関する基礎的な知識・技術とともに,課題解決を支援するための行政施策・手法や図書館サービスの内容と可能性を理解していることが必要であり,また,情報技術に関する知識,法制度や行政に関する知識,図書館の経営能力を身につけ,特にコスト意識や将来ビジョンをもつことも重要であるとされている。

 このように司書の役割が高度・多様化している昨今,社団法人日本図書館協会(以下,「日本図書館協会」とする。)が創設した「認定司書制度」に注目している。図書館経営の中核を担いうる司書を専門職員として認定することを趣旨としており,所定の要件を充足した司書を日本図書館協会が評価・認定するものである。司書の専門性向上にとって,図書館での実務経験とそれに伴う実践的な知識および技能の継続的な修得が不可欠であるという認識に立ったものであり,司書の資質向上のみならずキャリアパス形成にも資するものとされている2)。

 現在,中央教育審議会生涯学習分科会において,社会教育の推進を支える人材の在り方について議論がなされており,大学や民間団体等による,さまざまな地域の人材を教育支援人材等として認証する資格認証制度にも着目した内容となっており,日本図書館協会の「認定司書制度」も,我が国の図書館の振興はもとより,これからの社会教育の推進を支える専門人材の育成・活用手法等の一つとして,文部科学省として大いに期待している。

 社会の変化に伴い,国民の図書館に対する期待はますます高まっており,司書はその中核人材としての職責を果たしていくことが求められる。新しい図書館に対する展望を持ち,現況を積極的に改革できる司書こそが,日本の図書館の未来を担っていくことになり,ひいては社会教育の推進を支える人材となるであろう。その司書の資質向上とキャリアパス形成を併せて実現することを目的とした日本図書館協会の「認定司書制度」の動向にはこれからも注目していきたい。


1)『図書館職員の研修の充実方策について』(平成20年6月),『司書資格取得のために大学において履修すべき図書館に関する科目の在り方について』(平成21年2月)これからの図書館の在り方検討協力者会議
2)糸賀雅児「認定司書制度の開始にあたって」『図書館雑誌』2010年7月号
 

[NDC9:013.1 BSH:1.図書館員 2.図書館行政]

第5回 認定司書の活躍に期待する(片山善博) 

片山善博

  日本図書館協会が認定司書制度を始めて既に50人を超える認定司書が誕生した。その中には,筆者が知事として直接その仕事ぶりに接し,その能力を高く評価する司書も含まれる。また,最近お目にかかった方も何人かおられる。

 いずれも実務経験や実践的知識に富み,かつ,意欲的に職務に取り組んでおられる様子がうかがわれる。今後新たに認定される方も含めて,認定司書の皆さんには自己研鑽に努められるとともに,これからの図書館経営の中核として大いに力を発揮していただきたい。

 ところで,この認定司書制度の将来を見据えたとき,そこにはいくつかの課題がある。例えば,組織の中で認定司書の存在は適切に認識されているか。認定司書に限らず自治体においてよく聞かれるのは,職員が何らかの資格を取得した場合,あるいは取得しようとする場合,その職員が属する組織の管理職がそれを必ずしも評価しようとしない傾向がまま見られることである。

 もちろん認定司書の申請をすることについてあらかじめ組織の認知を得て,挑戦のための時間的,経済的負担を組織内でサポートしてもらっているケースは問題ない。しかし,組織の認知も支援もないまま(現時点ではこのケースが多いと推測する)申請して認定された場合,上司や同僚から喜んでもらえるのかと思いきや,逆に疎んじられるようなことがありはしないか。「仕事の手を抜き,マニアックに資格試験に力を入れている」などと曲解されていないかと案じられるのである。

 こんなありさまだと,折角の認定司書の制度が却ってアダになりかねない。そこで,日本図書館協会をはじめとした関係者が早速にも取り組まなければならないことは,主として自治体の首長や人事当局者に認定司書制度の意義を十分理解してもらうことである。

 自治体には,認定司書に挑戦する司書に便宜を図ってもらいたい。できれば申請に要する経済的負担について公費による支援制度を設けていただきたい。もとよりそれを職員の研修プログラムの一環として位置付けることは可能である。その上で,認定司書を職員の人事管理上の資格の一つに加え,その後の処遇に反映させることも自治体には強く求めたい。

 また,認定司書が今後増えることにかんがみると,今の段階から一般の司書と認定司書との役割の違いについて明らかにしておくことが望ましい。両者の役割に何らの差もなければ,モラール(士気)の向上にはつながりにくいし,認定司書の効用もわかりづらいからである。

 この点で多少参考になりそうな事例を紹介しておく。かつて鳥取県では学校事務職員は全員一様の役割を担っていた。それをある時,経験豊富で識見もある事務職員をシニアの職に任命し,新たな役割として近隣の学校の若手の事務職員から相談を受け,指導する役割を与えることとしたのだが,それによって貴重な経験が広く共有されるようになっただけでなく,シニア職自身の意欲を向上させることにもつながった。

 こうしたシニアの役割にとどまらず,自治体では認定司書の中から選抜して,教育委員会事務局に是非登用してもらいたい。教育委員会の中に図書館のことに精通した優秀な司書が配置されることによって,図書館に正当な位置づけが与えられるようになるに違いないと考えるからである。

 以上認定司書への期待の一端を述べたが,それは図書館自体の将来にも大きく影響するはずだ。

(かたやま よしひろ:慶應義塾大学法学部教授,第2期認定司書審査会審査委員)
[NDC9:013.1 BSH:図書館員]

第6回(最終回) 自己研鑽のポイント化

日本図書館協会認定司書事業委員会

自己研鑽ポイントとは

 図書館法第7条の趣旨からも司書は自己研鑽を重ねることが求められています。認定司書に認定されるためには,自己研鑽ポイント一覧の表(末尾参照)で指定されているポイント数に換算して合計20ポイント以上が必要です。  
 

研修の受講経験

 研修・研究集会に全体の8割以上参加を前提として,半日単位(正味2時間から3時間)の受講で1ポイント,1日すべて(正味4から6時間)の受講で2ポイントとなります。複数日にまたがる場合は,1日ごとに正味の時間を算出し,合計してください。

 基本的に全国各地で開催されているすべての研修はポイントとして認められることになりますが,次の場合には認められません。1)職位に応じた行政研修,2)公務員として知っておくべき一般的トピックに関する研修,3)館内・内輪でのみで行われ,外形的な証拠もなく,外部から実施を確認できない研修。3)については,いいかえれば,外形的に研修の実施が確認できるならば館内研修の受講も認められることになります。 
 

研修の講師経験

 研修で講師を担当した場合は,受講ポイント数の2倍を上限としてプログラム全体への関与に応じてポイント数が認定されます。ごく短い時間だけ講師を担当する場合も,図書館関係学協会の研究大会での口頭発表,実践報告発表等(表の5)学協会活動)としてポイント認定の対象になりますのでそちらもご参照ください。また,館内研修でも外形的に確認できる場合には研修講師経験が認定されることになります。

社会的活動

 司書としての専門性に立脚して社会に貢献する活動を行っていたり,図書館界の振興に寄与する活動を行っていたりする場合には,社会的活動としてポイント認定の対象となります。ただし,司書としての専門性に立脚しない社会参加が認められませんし,一個人としてのボランティアへの参加も対象外になります。

 また,図書館関連団体の役職経験もポイントの対象となります。段階の規模・活動等を踏まえて審査会が認定することになりますので,ご注意ください。

連載の終わりに

 論文・自己研鑽ポイントについては,申請期間に公表される最新の「日本図書館協会認定司書制度申請書類記入マニュアル」でご確認ください。また,認定要件の充足に関わる個別具体的な問い合わせには審査会が審査することになるため,認定司書事業委員会ではお答えすることができません。ご了承ください。

 『図書館雑誌』10月号では,第3期の申請の募集要項が公開されます。一人でも多くの方が認定司書審査に申請していただくことを期待してこの連載を終了いたします。

表 自己研鑽ポイント一覧(日本図書館協会認定司書審査会内規より)

 活動の種類ポイント数
1)研修(*1)の受講経験半日(2~3時間程度)+1(*2)
全日(4~6時間程度)+2(*2)
2)講師経験1)に規定される研修の講師経験講習受講で獲得するポイントの2倍を上限に内容に応じて審査会が認定
司書課程もしくは関連諸領域講義科目の講師経験担当科目単位数の3倍を上限に内容に応じて審査会が認定
3)社会的活動図書館関連団体(*3)の役職経験1期(2年)で6ポイントを上限に活動期間・団体規模・内容に応じて審査会が認定
上記以外の図書館振興のための社会的活動活動の内容に応じて審査会が認定(*4)
4)単位・学位取得大学院における図書館情報学関連の単位・学位等取得+1~+20(内容に応じて審査会が認定)
5)学協会活動学協会の研究大会での口頭発表,実践報告発表等内容に応じて審査会が認定
6)その他その他研修修了の認定に資するもの審査会が申請に基づき内容に応じて認定

*1 図書館法第2条にいう図書館の業務に関わる研修であること。
*2 当該研修の8割以上の時間を受講していること。
*3 図書館法第2条にいう図書館に関連する団体であること。
*4 個人的な奉仕活動は含まない。図書館の専門的職員として有する専門性を活かした活動であること。

[NDC9:013.1 BSH:図書館員]