『日本目録規則1987年版改訂版』第9章の改訂について

JLA目録委員会


1 経緯

 『図書館雑誌』1998年5月号に公表した「『日本目録規則1987年版改訂版』第9章コンピュータファイルの改訂について(案)」(以下「原案」という)において,当委員会は,図書館資料として扱うべき多様化したコンピュータファイルおよびリモートアクセス可能な情報資源の目録作成の必要性に対応するため,第9章の改訂が必要であることを示した。

 この原案は,IFLA(国際図書館連盟)によるISBD(CF)(国際標準書誌記述(コンピュータファイル))第2版草案(1995年刊行)との整合性を図り,併せてAACR2(英米目録規則第2版)の変化にも目を配った内容だった。しかし,原案とほぼ時を同じくしてISBD(CF)自体がさらに改訂されISBD(ER)(ERはElectronic Resourcesの略)として刊行されるに至り,なお一層の見直しが必要となった。

 今回,章名の変更を含め,新たな改訂案として,第9章「電子資料」(案)(以下「新案」という)という形で世に問う次第である。

2 第9章の位置付け

 原案の段階では第9章のみを対象に検討を進めてきたが,新案の作成は,目録規則自体の再検討にも及ぶことが明らかになった。

 すなわち,従来の目録規則の体系は主として媒体の違いや刊行形態という観点から構成されてきたが,電子資料は別の次元で捉えられるべきものであり,第9章の内容も,この点を意識したものとなった。例えば,電子雑誌を第9章で取り扱うこと,版表示の範囲を変更したこと等である。

3 「コンピュータファイル」から「電子資料」へ

 章名の変更は,専ら記述対象を的確に示すために行ったものであり,過大に捉えるべきものではない。ただし,章名は「資料種別」として用いられるほか,他の章での言及を含めると,かなりの箇所に影響を及ぼすものとなる。

 新案の作成に当たって特に問題となったのは,Electronic Resources に相当する日本語の表現である。委員会の検討の場では,直訳的な「電子的(情報)資源」のほかに,「電子的資料」,さらに「電子出版物」等の案が出された。「電子出版物」は,ISBD(ER)の条文中に「リモートアクセスされるElectronic Resources はすべて出版されたものとみなし」という表現があることにちなむが,意訳にすぎるとの指摘があり,早々に候補から外れることになった。

 インターネット情報資源をも目録の対象となるに至り,それに即した新しい規則を望む観点から「電子的資源」を推す声も強かったが,従来から用いられてきた「図書館資料」と「資源」の間にはかなりの隔たりがあるのではないかという懸念もあった。

 新案で「電子資料」というある種簡潔な表現に落ち着いたのは,インターネット上に公開されている各種OPAC等での使用実績,国立国会図書館における資料種別としての適用等を勘案した結果である。

4 新案のポイント

 原案提示時の内容と重なる箇所もあるが,改めて現行の第9章との相違を中心に,新案のポイントを示す。

(1)章名の変更

 前述のとおり,資料種別の変更でもある。

(2)ローカルアクセス/リモートアクセス

 2つの概念の導入は,パッケージ系資料(CD-ROM,DVD等)とネットワーク系情報資源(オンラインジャーナル,インターネットホームページ等)に対応するものと捉えることもできるが,ネットワーク環境でパッケージ系資料を扱う場合がある等,様相は単純なものではない。新案における両者の差異は,記述対象を利用する際に記録媒体を必要とするか否かの違いに起因する。すなわち,形態に関する事項の記述が必要か否かという点で,両者は区別されることとなる。

 ローカルアクセスの場合,目録規則の他の章と同様,形態に関する事項を記録することによって,当該資料の利用・管理に必要な情報が得られる。他方,リモートアクセスの場合は,記述すべき媒体が存在しないため,形態に関する事項は記録しない。そのかわり,アクセス方法の注記が必須となる。

(3)内部情報源の優先

 ローカルアクセス,リモートアクセスを問わず,電子資料に関する「記述の情報源」として内部情報源を採用する。リモートアクセスの場合は,手元にその「資料」が存在しないため,必然的な規定である。ローカルアクセスの場合も,記述の一貫性,安定性等の観点から内部情報源を優先させる必要がある。

(4)版表示の記録と範囲

 リモートアクセス可能な資料で更新が繁なものは,版に関する事項は記録しないこととした。

 また,物理的キャリア,電子資料の利用に必要な応用プログラムを表す特定名称などは,本来の版表示とは異なるものである。新案では,この点を考慮して版表示の範囲を定め,従来の規定は別法として許容することとした。

(5)ファイルの特性

 新案では,ファイル内容,ファイルの数量と大きさのみを扱い,現行の第9章にあるプログラミング言語等,適用機種,オペレーティング・システムは注記として記述することとした。

 ファイル内容として記録すべき用語は,ISBD(ER)に倣い3段階に分けて示した。これは,電子資料の取り扱い量に応じて,各図書館が選択できるようにとの規定である。(データの例:データ,テキスト・データ,電子ジャーナル)(プログラムの例:プログラム,アプリケーション・プログラム,表計算ソフトウェア)

(6)特定資料種別

 代表的な名称については具体的に列挙したが(例 : CD-ROM,DVD),今後も新しい媒体が出現したときに対応が可能となるよう,列挙した用語以外の記録方法にも言及することとした。

(7)注記

 システム要件,アクセス方法,最新アクセスの日時など,電子資料特有の注記に関する規定を設けた。

5 改訂条文について

 紙幅の都合により,本稿では改訂条文の掲載は差し控える。改訂条文全文は,検討会「電子資料の組織化 : 日本目録規則(NCR)1987年版改訂版第9章の改訂とメタデータ」(11月20日 日本図書館協会研修室で開催)において配布するほか,後日何らかの形で公開することとしたい。

(文責・横山幸雄/よこやまゆきお : JLA目録委員会委員,国立国会図書館)