『日本目録規則1987年版改訂2版』第2章および第3章の和古書・漢籍関連条項の改訂について


JLA目録委員会


1.経緯

 和古書・漢籍の書誌記述について,『日本目録規則1987年版改訂2版』は,第2章図書および第3章書写資料の中で,その特徴を考慮して現代の資料とは異なる扱いが必要な部分について言及している。

 国立情報学研究所においては,和古書・漢籍の書誌記述にかかわるNACSIS-CAT入力運用基準の検討が,2001年1月から開始された。その成案は,本年6月に「和漢古書に関する取扱い及び解説」と「コーディングマニュアル(和漢古書に関する抜粋集)」(http://www.nii.ac.jp/CAT-ILL/contents/ncat_manu.html)として公開され,書誌レコードの作成が本格稼働した。

 NACSIS-CATにおける書誌レコードは,日本語資料および中国語資料については日本目録規則に準拠している。しかし入力運用基準の検討過程で,和古書・漢籍に関しては,これまでの日本目録規則での取り扱いを上回る,より詳細な記述が必要であることが明らかになった。このため基となる日本目録規則の欠落を補うことへの要請が,国立情報学研究所より日本図書館協会目録委員会にあり,これを受けて本委員会は,和古書・漢籍の書誌記述にかかわる多くの特徴や,これまでの取り扱い方の問題点等を受け止め,かつ,目録規則全体の流れの中での継続性を考慮しつつ,改訂および増補作業を2002年3月から進めてきた。

 このたび,その改訂のポイントをここに提示し,この領域の仕事に携わっている多くの方々のご意見をいただきたいと考える。

2.改訂のポイント

(1)記述の作成単位

 和古書・漢籍は,現代の資料とは異なる,画一的ではない製作方法や,長い伝来の間にその装丁の特徴から改変が行われる可能性があることなどのため,手元の記述対象のみからでは,他の書誌的記録との同定識別等の判断が非常に困難である。また,同版ごとに書誌記述を共有できる現代の資料と異なり,同版の諸本全体に対する妥当な記述を行うことが困難なので,記述対象ごとに別の記述を作成することとする。

(2)各書誌的事項の情報源

 記述対象により,時代・ジャンルや造本等の違いの影響を受ける場合があるので,情報源の規定に柔軟性をもたせ,その資料全体を情報源として総合的に判断できるようにする。

(3)出版・書写に関する事項

 現代の資料との違いが最も顕著な出版・書写事項について,和古書・漢籍の特徴を考慮した詳細な記述を行う。
  • 出版地・出版者 複数の出版地に関する情報が有効であることから,出版地ごとに出版者を記録することとする。出版者が複数ある場合の優先順位については,出版の際に最も重要な役割を果たした出版者を選ぶべきであるが,その判断が困難なときには,出版地ごとに最後に記載されているものを代表者として記載する。
  • 古地名の記録 表記された地名の転記を原則とし,補記の方法についても規定する。
  • 書写者 書写資料の場合,これまでは原則として書写者は記録しないとしてきたが,自筆か転写かにかかわらず重要な情報であるためすべて製作事項として記録することとする。
  • 出版者名の形 出版者名を記録する場合,記述対象に表示されている名称をそのままの形で記録する。したがって,これまで屋号のあるものは続けて姓名の表示がある場合に,姓を省略することとしていたが,それを省略せず記録する。
  • 出版年 刊本については,刊行年が判明した場合,「刊」という用語を付して記録する。別に印行年が判明した場合は,「印」という用語を付して,双方を書き分けることができるようにする。
  • 出版年・書写年の記録の方法 記述対象に表示されている場合,多くは元号と年数であることから,和古書・漢籍の伝統的な目録の慣習と利用者の便宜を考えそのまま記録し,西暦年を補記する。また,干支による表示も多く見られるが,可能であればそれに相当する紀年(元号と年数)に読み替えて記録することとする。

(4)書誌的巻数の記録方法

 和古書・漢籍の伝統的な目録法においては,資料の巻数を書名に続けて記録する慣習がある。この巻数は,著作の成立により近い時点の巻数であり,書誌的巻数というべきものである。これまではタイトルのあと,カンマ,スペースに続けて記入したが,伝統的な目録の慣習により近い,スペースを置いて記入することとする。

(5)責任表示への付記

 漢籍目録の慣習に従い,情報源上での記述の有無にかかわらず,識別上必要な王朝名の付記を任意に行うことできるようにする。

(6)形態に関する事項

 和古書・漢籍については,個々の資料について,より詳細な記述が必要になるため,センチメートルの単位で小数点以下1桁まで記録することとし,また縦×横の形でも記録できるようにする。さらに,伝統的な目録の慣習を考慮し,半紙本,美濃判等資料の大きさを紙型として示した用語による表現が可能なものについては,それを任意に付記できるようにする。

(7)注記に関する事項

 これらの改訂に加えて,個々の図書の識別に重要な役割を果たす注記についても,適切で詳細な記述を可能にするため,多くの例示を用意する。また,伝来(蔵書印記や旧蔵者)や残欠,あるいは和古書・漢籍に特有の印刷技法や書き入れにかかわる注記などを整理し,増補する予定である。

 なお,和古書,漢籍固有の条項については,まとめて別立てにすることはしないが,利用者の便を考慮し「和古書・漢籍については」等,各々の冒頭にその旨を明示する。一方,注記に関する事項については,すべての注記の最後に和古書・漢籍に関する注記をまとめて示す形式とする。

3.今後の予定

 今後も,目録委員会において検討を継続し,改訂案を固めてゆく。そのための参考として,多方面からご意見・ご提案等をいただきたい。なお,改訂の原案については,年内に本委員会ホームページに公開することを予定している。

(文責・増井ゆう子 : JLA目録委員会委員,国文学研究資料館)
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