種々な再生ツールを用いたアクセシブルな電子版のデモンストレーション 日本図書館協会障害者サービス委員会 大阪府立中央図書館 杉田正幸 1. はじめに  アクセシブルな電子版(EPUB3)の作成と検証:特定非営利活動法人支援技術開発機構「ATDO」、日本図書館協会障害者サービス委員会  作成方法:Word版の原稿に写真や図の解説を入れたものをデジタル出版物制作Webサービス「CAS-UB」で編集し、EPUB形式のリフロー型のEPUB3書籍を作成  検証:Windows 10やiOSなどのOSを中心に複数のEPUB再生ツールにより読み上げソフトでの検証も行いながら誰もが利用可能な電子書籍を目指した  発売:ダウンロード版はアンテナハウスオンラインショップより2018年12月、メディア版は日本図書館協会より2019年2月に発売 2. アクセシブルな電子書籍とは  アマゾンのKindleやアップルのiBooksなど既に視覚障害者に利用可能な音声読み上げ対応の電子書籍は存在しているが、それらにないものは以下の通りであり、今回のアクセシブルなEPUB作製の特徴として考える。 (1) DRM(デジタルコンテンツの著作権を保護するために、その利用や複製などを制限する技術)をかけていない(機器やソフトに関係なくEPUB閲覧環境があれば利用可能、音声読み上げや画面拡大・点字表示が可能) (2) 視覚障害者もわかるよう、図や写真には代替テキストで説明がついている (3) 原本のページ情報をつけているので、読みたいページに簡単にジャンプできる 3. Windows 10のPCでの読み上げ (1) スクリーンリーダーとして「Windows 10 ナレーター」(マイクロソフト・無料)とデスクトップ & モバイル向け Web ブラウザ「Microsoft Edge」(マイクロソフト・無料)の組み合わせ  https://www.microsoft.com/ja-jp/windows/microsoft-edge  晴眼者でも視覚障害者でも無料でEPUBが利用できる。 「ナレーター」には、「標準」と「レガシ」の2つのキーボード レイアウトがあるが、今回のセミナーでは「標準」で紹介する。 キーボードは、標準レイアウトがデフォルト。変更する場合は、[設定]、[簡単操作]、[ナレーター]、[レガシ] レイアウトの順に選択。また、Windowsキー + Ctrl + N を押して、ナレーターの設定に移動することもできる。 ナレーター キー:ナレーター コマンドで使用する修飾キーは、自分で選択することができる。106 日本語キーボードを使用する場合、既定のナレーター キーは Insert キーと無変換キー。   ナレーターを起動または停止する Windows + Ctrl + Enter  ナレーターの設定を開く Windows + Ctrl + N 次の項目に移動する ナレーター + 右方向キー 前の項目に移動する ナレーター + 左方向キー ビューを変更する ナレーター + PageUpまたはナレーター + PageDown 音声の音量を上げる Ctrl + ナレーター + 正符号 (+) 音声の音量を下げる Ctrl + ナレーター +負符号 (-) 音声のスピードを速くする ナレーター + 正符号 (+) 音声のスピードを遅くする ナレーター + 負符号 (-) 読み上げを停止する Ctrl  項目を読み上げる ナレーター + Tab 項目の綴りを読み上げる ナレーター + Tabキーをすばやく2回 項目の詳細を読み上げる ナレーター + 0 (ゼロ) ウィンドウ タイトルを読み上げる ナレーター + T  ウィンドウを読み上げる ナレーター + W フレーズを繰り返す ナレーター + X カーソル位置からの読み取り ナレーター + R ドキュメントの読み上げを開始する ナレーター + 下方向キー ドキュメントを読み上げる ナレーター + C 先頭からカーソルまでテキストを読み上げる Shift + ナレーター + J 前のページを読み上げる Ctrl + ナレーター + U 現在のページを読み上げる Ctrl + ナレーター + I 次のページを読み上げる Ctrl + ナレーター + O 前の段落を読み上げる Ctrl + ナレーター + J 現在の段落を読み上げる Ctrl + ナレーター + K 次の段落を読み上げる Ctrl + ナレーター + L 前の行を読み上げる ナレーター + U 現在の行を読み上げる ナレーター + Iまたはナレーター + 上方向キー 次の行を読み上げる ナレーター + O 前の単語を読み上げる ナレーター + JまたはCtrl + ナレーター + 左方向キー 現在の単語を読み上げる ナレーター + K 次の単語を読み上げる ナレーター + LまたはCtrl + ナレーター + 右方向キー 前の文字を読み上げる ナレーター + M 現在の文字を読み上げる ナレーター + コンマ 次の文字を読み上げる ナレーター + ピリオド 次の書式設定情報グループを読み上げる ナレーター + F 前の書式設定情報グループを読み上げる Shift + ナレーター + F テキストの先頭に移動する ナレーター + B テキストの末尾に移動する ナレーター + E 次の見出しに移動 H 前の見出しに移動 Shift + H 次のリンクに移動 Tab 前のリンクに移動 Shift + Tab 選択内容を読み上げる ナレーター + Shift + 下方向キー リンクの一覧 ナレーター + F7 見出しの一覧 ナレーター + F6 ナレーターの詳細なガイド - Windows Help https://support.microsoft.com/ja-jp/help/22798/windows-10-complete-guide-to-narrator (2) スクリーンリーダー「PC-Talker 10」(高知システム開発・41,040円)と総合読書システム「MyBookX(マイブック ファイブ)」(高知システム開発・41,040円)の組み合わせ http://www.aok-net.com/products/mybook.html 「MyBookX(マイブック ファイブ)」は、サピエ図書館、国立国会図書館、デイジー図書、小説を読もう、青空文庫、一般図書、点字図書 対応、 iPod・クラウドストレージ対応でPC-Talkerと組み合わせて利用できる視覚障害者用の総合読書ソフトウェア。 MyBookXのメインメニューから「イーパブ デイジー ドットブック」を選び、メディア版またはダウンロード版のEPUB書籍を選択して利用できる。 読み上げの終了 EscapeまたはBackSpace 読み上げ再開 Space 本棚に保存 Ctrl + S 検索 Ctrl + F 次を検索 F3 前を検索 Shift + F3 しおりを付ける Ctrl + M しおりの削除 Ctrl + Shift + M 前のしおり Shift + M 次のしおり M 前の文節 左方向キー 次の文節 右方向キー 前の段落 上方向キー 次の段落 下方向キー 前の文字 Ctrl + 左方向キー 次の文字 Ctrl + 右方向キー 前の行 Ctrl + 上方向キー 次の行 Ctrl + 下方向キー 段落の先頭 Home 段落の末尾 End 文頭 Ctrl + Home 文末 Ctrl + End 次のページ PageDown 前のページ PageUp 次のリンクへ Tab 前のリンクへ Shift + Tab ページジャンプ Ctrl + J カーソル上のURLでブラウザ/メーラー起動 Enter カーソル位置から全文読み  Alt + F10 文頭から全文読み Alt + F5 段落読み Alt + F9 1行読み Alt + F8 段落先頭からカーソル手前読み Ctrl + Alt + H カーソルから段落末尾読み Ctrl + Alt + K 音声スピード切り替え F7 カーソル位置 読み上げ F9 (3) スクリーンリーダーとして「NVDA日本語版」(NV Access・無料)とデスクトップ & モバイル向け Web ブラウザ「Microsoft Edge」(マイクロソフト・無料)の組み合わせ http://www.nvda.jp/ (4) スクリーンリーダーとして「JAWS 2018」(エクストラ・153,360円)と,デスクトップ & モバイル向け Web ブラウザ「Microsoft Edge」(マイクロソフト・無料)の組み合わせ http://www.extra.co.jp/jaws/ 4. iPhoneまたはiPad + iOS 12.1.4 + VoiceOverについて  iOSの現バージョン12.1.4には様々なアクセシビリティ機能が標準搭載されている。  (1) iOSの標準的なアクセシビリティ機能 (A) スクリーン・リーダー「VoiceOver」 (B) 音声認識・音声入力「Siri」 (C) 画面拡大「ズーム」 (D) 点字表示「ブライユ点字ディスプレイ」 (2) 障害者が使用するためのiOSの各種設定:「設定」をタップ→「一般」をタップ→「アクセシビリティ」をタップ 「視覚サポート」:「VoiceOver」の読み上げに関する設定、「Zoom機能」の画面拡大に関する設定が可能 「VoiceOver」の「スピーチ設定」:Kyoko、Otoya、Siri男性、Siri女性の4種類の音声を選択可能(iOS10でOtoyaが追加された) 「VoiceOver」の「点字設定」:日本語では、ブレイルセンスシリーズとブレイルメモポケットなどに対応 「VoiceOver」の「ローター設定」:ダイヤルを回すように画面上で二本指を回転させると、VoiceOverがウェブページや文書内で読み上げる項目の種類を変更できる (3) VoiceOverの主なジェスチャー (A) タッチ(画面に指を付ける):項目を選択し読み上げ (B) タップ(画面を軽くたたく) ・シングルタップ(1回):2本指は音声読み上げの一時停止と再開、3本指は画面位置の読み上げ ・ダブルタップ(2回):1本指は項目の実行、2本指はメディアの実行(音楽や書籍の読み上げの再生・停止や電話の切断など)、3本指はボイスオーバー音声の読み上げのON/OFF (C) フリック(指で画面についた埃を跳ね飛ばすようにする) ・右フリック・左フリック:1本指は前・次の項目へ移動、3本指は前・次のページへ移動 ・上フリック・下フリック):1本指はローター項目で指定した前・次の要素に移動、2本指で上フリックは全文読み、下フリックは現在位置から全文読み、3本指は画面を上・下へスクロール (D) ホームボタンのダブルクリック:起動しているアプリの一覧を確認し、目的のアプリを実行 (E) ホームボタンのトリプルクリック:アクセシビリティ設定のショートカットキーで登録した機能のON/OFF (4) iPhone用キーボード「Rivo2(リボツー)」(ラビット・43,200円) スクリーンキーボードを使わずとも、ガラケーのようにボタンで文字入力、電話、iPhoneの画面操作などが可能な縦4個、横5個のBluetooth接続の携帯型テンキーボード 5. iPhoneまたはiPad + iOS 12.1.4 + VoiceOverに対応したアプリ (1)「ボイス オブ デイジー 5(CYPAC Co.,Inc.・3,100円)  http://www.cypac.co.jp/ja/products/vodi5/  音声DAISYやマルチメディアDAISYの再生に加えて、サピエ図書館の検索やダウンロード機能の追加、本だな機能、テキストデイジーの音声合成による再生、アクセシブルなEPUB3の再生などが可能な2018年12月30日発売のアプリ (2)「Dolphin EasyReader」(Dolphin Computer Access Ltd・無料)   https://itunes.apple.com/jp/app/dolphin-easyreader/id1161662515?mt=8 (3)「iBooks」(アップル・無料)   https://www.apple.com/jp/support/ios/ibooks/ (4)「Voice Dream Reader - Text to Speech」(Voice Dream LLC・1,800円)   https://itunes.apple.com/jp/app/voice-dream-reader-text-to/id496177674?mt=8 6. ハード製品 ・プレクストークでは最初に書籍を開くまで数分かかるが、見出しやページに自由にジャンプすることができる。一部の見出し間移動に不具合がある ・ブレイルセンスやブレイズシリーズではEPUB書籍を開けるものの見出しやページジャンプはできない (1) 「プレクストークPTR3」(シナノケンシ・85,000円)   http://www.plextalk.com/jp/products/ptr3/ パソコンを使わずにサピエのDAISY図書、シネマデイジー、雑誌などが聴ける卓上型DAISY録音再生機(DAISYオンライン対応) (2) 「プレクストークPTN3」(シナノケンシ・48,000円)   http://www.plextalk.com/jp/products/ptn3/   卓上型DAISY再生専用機 (3) 音声・点字携帯情報端末「ブレイルセンスポラリスミニ日本語版」(エクストラ・429,840円)   http://www.extra.co.jp/sense/bspolarismini.html  Android OSを搭載した点字音声情報端末で、従来のブレイルセンスが備えていた基本機能(ファイル管理、ワードプロセッサ、電子メール、メディアプレーヤー、DAISYプレーヤー、FMラジオ、アドレス帳、予定帳、ウェブブラウザ、EXCELビューア、電卓、コンパス、辞書、時計等)に加え、Google APPSをサポートする事でドライブ、ドキュメント、スライド、カレンダーなどのGoogleサービスを利用可能(DAISYオンライン対応) (4) 音声・点字携帯情報端末「ブレイルセンスオンハンド日本語版U2ミニ」(エクストラ・383,500円)   http://www.extra.co.jp/sense/bso_u2mini.html Windows CE 6.0を搭載した点字入出力方式の18マスの音声・点字携帯情報端末で、ウェブアクセス、電子メールの送受信、DAISY図書や音楽の再生などの、さまざまな機能に加え、GPSレシーバーと電子コンパスを内蔵(DAISYオンライン対応) (5) 「ブレイズET」(エクストラ・118,800円)   http://www.extra.co.jp/blaze/blazeET.html OCR機能を使った活字文書の読み上げ、DAISY図書の再生、音楽データの再生、録音、Podcast、ラジオ、カラーリーダーなど多彩な機能を備えた携帯型OCRマルチプレーヤー(DAISYオンライン対応) (6) 「ブレイズEZ」(エクストラ・118,800円)   http://www.extra.co.jp/blaze/blazeEZ.html  ブレイズETと機能は同じだが、ブレイズEZと比較して操作ボタンが非常に少ない(DAISYオンライン対応) 7. Kindle形式に変換して利用する  無料のデスクトップアプリケーション「Kindle Previewer 3」 では、EPUB形式の電子書籍をKindle電子書籍形式のMobiファイルに変換することが可能。これによりEPUB書籍がiPoneやiPadのKindleアプリやアマゾンFire HD 8 タブレットでDRMをかけていないEPUB形式の書籍を読むことができる。「Amazon Kindle Previewer」で対応しているファイル形式は、epub、mobi、htm、html、xhtml、opf、kpf、doc、docx。  https://kdp.amazon.co.jp/ja_JP/help/topic/G200735480 ・インストールした「Kindle Previewer 3」を立ち上げる ・「ファイル」から「本を開く」を実行してEPUBファイルを開く ・「ファイル」から「エクスポート」を選択してmobi形式で保存 ・mobi形式の書籍を自分のアマゾンのアカウントに添付ファイルとして送信  ※Amazon.co.jp ヘルプ: Send-to-Kindle Eメールアドレスの使い方について  https://www.amazon.co.jp/gp/help/customer/display.html?nodeId=201974220  ・Kindleアプリまたはタブレットの「ライブラリ」から送信した書籍をダウンロード (1) アマゾンの電子書籍Kindle:Kindle for iOS(AMZN Mobile LLC)  iOS端末の画面読み上げ機能VoiceOverに対応  ・ページ先頭からの連続読みは、2本指の上フリック  ・一時停止と読み上げの再開は、2本指のシングルタップ  ・現在の位置(ボイスオーバーカーソル)から連続読みさせるには、2本指の下フリック  ・次ページへは、3本指の左フリック  ・前ページへは、3本指の右フリック (2) Fire HD 8 タブレット(8インチHDディスプレイ) 16GB(アマゾン・8,980円)2018年10月4日発売 (A) FireタブレットのFire OSで「VoiceView」をアクティブ化する ホーム画面で「設定」を選択して、「ユーザー補助」を選び、「VoiceView」を選び、「VoiceView」を有効にする (B) アマゾンの電子書籍Kindle:Amazon Fire HD 8 タブレットの第8世代で、VoiceView スクリーンリーダーでJapaneseのTTSとしてMizukiが標準で組み込まれている ・ページの操作は3本指の右スワイプと3本指の左スワイプ ・読み上げは本文内で1本指のダブルタップを行い、画面の下部、右側に二つのボタンが表示されるので、「読み上げ機能を開始」を実行 ・読み上げの単位を変更するジェスチャーは1本指で下スワイプして、画面に着けたままの指を上スワイプで文字、単語、ウインドウとナビゲーションの単位が切り替わる 8. 終わりに (1) EPUB作成の前に事前に細かな仕様書を作成し、的確に見出しやページなどのナビゲーションを考える (2) EPUB製作ツールの問題 (3) EPUB再生機器やソフト・ツールにより動作が異なる (4) EPUBの検証には時間がかかる (5) 問題はEPUB側なのか?それとも機器やソフトなのか? (6) 原本の出版と同時に見える人と同じように誰もが読めるアクセシブルなEPUB出版で読める本が発売され自由に購入できること、そして図書館からも借りることもできること (7) 読書障害の壁はアクセシブルな出版と図書館協力者やボランティアが製作した視覚障害者等用資料(DAISYなど)の二本柱で全出版物をいつでも自由に障害者が読める社会にしていくこと 杉田 正幸(すぎた まさゆき) 大阪府立中央図書館読書支援課障がい者支援室 日本図書館協会障害者サービス委員会関西小委員会委員長 日本図書館協会認定司書第1138号