改正著作権法と障害者サービス        2019年2月22日(大阪)、26日(東京) 日図協改正著作権法セミナー      日本図書館協会障害者サービス委員会、埼玉県立久喜図書館 佐藤聖一 1 2009年著作権法改正で実現していること  (1)点字・音声デイジー・マルチメディアデイジーなどの障害者サービス用資料の製作    @点字図書館による製作    A公共図書館・大学図書館・学校図書館による製作  (2)障害者サービス用資料情報の収集 「サピエ図書館」「国立国会図書館サーチ」という二つのデータベース    @製作館→製作情報の登録    A資料の所蔵調査    B相互貸借の依頼→全国的な相互貸借システム(点字・録音資料の郵送料は無料)  (3)資料データの直接利用(図書館も障害者個人も)    @データのダウンロード    Aストリーミング再生 2 日本の著作権法の特徴  (1)著作権法の目的(第1条)  「・・・これらの文化的所産の公正な利用に留意しつつ、著作者等の権利の保護を図り、もって文化の発展に寄与することを目的とする。」  (2)条文主義  (3)著作権者の権利の「制限」という方法で、利用者の権利を保証している  (4)著作権法はいつも時代に一歩遅れて改正をしていく    @情報の形や提供方法が変化していく→法律がついていけない    A権利者の権利と利用者の権利の力関係で変わっていく  (5)障害者に関することは著しく遅れていたが、2009年改正で先進国に。 3 利用者の著作物利用を保障する方法として「著作権の制限」を規定  (1)私的使用のための複製(第30条)    @複製物を利用できる人の範囲    A手足理論  (2)図書館等における複製(第31条)  (3)引用(第32条)  (4)教科用図書等への掲載、教科用拡大図書作成のための複製(第33条)  (5)学校その他の教育機関における複製等(第35条)  (6)視覚障害者等のための複製等(第37条)(第3項は後で詳述)    @点字による複製  (7)聴覚障害者等のための複製等(第37条の2)    @字幕や手話入り映像資料の製作→製作できるところを政令で定めている    A字幕・手話入り映像資料が製作できるが、貸し出すためには補償金が必要とされている→実質的にできない    B字幕の製作とその自動公衆送信ができる→字幕のみが送信されても利用しにくい 4 2018年5月法改正の背景(1) 「マラケシュ条約」批准のため  (1)世界知的所有権機関(WIPO)が初めて制定した障害者のための著作権条約    @「盲人,視覚障害者その他の印刷物の判読に障害のある者が発行された著作物を利用する機会を促進するためのマラケシュ条約」    A国境を越えた障害者サービス用資料(主にデータ)の利用  (2)この条約でいう利用対象者(プリント ディスアビリティー print disability)   本条約の受益者(第3条)    @視覚障害者    A知覚的又は読字に関する障害のある者    B身体障害により、書籍を保持する、操作する、目の焦点を合わせる、又は目を動かすことができない者  (3)具体的な利用方法    @ABC(アクセシブル ブック コンソーシアム)→サピエ図書館の世界版    A国際間の窓口 公認機関 authorized entity(AE)    B日本のAE 全視情協と国立国会図書館 5 2018年5月法改正の背景(2) 2009年改正の積み残し  (1)2009年改正時の付帯決議→引き続きの改正を求めている  (2)提供方法→公衆送信を加える  (3)ボランティアによる製作をしやすく→今回の国会論議の中で合意 6 具体的改正内容(別紙資料も合わせて参照してください)  (1)利用対象者の拡大    @肢体不自由などの物理的な意味で印刷資料が利用できない人を追加→条文ではそのような言い方をしていないが    A実は、すでに「障害者サービス著作権ガイドライン」で認められている  (2)自動公衆送信→公衆送信  (3)ボランティアによる製作をしやすくする→著作権法施行令(政令)で規定  (4)著作物の保護期間の延長    @死後50年→70年    A2018年12月30日から 7 新第37条第3項の内容(2019年1月1日施行)  (1)第37条第3項「視覚障害者等のための複製等」 →別紙資料で実際の条文を確認してください  (2)対象となる施設→政令で定められている(別紙資料で政令条文を参照してください)    @視聴覚障害者情報提供施設(点字図書館)    A公共図書館、大学図書館、学校図書館    B国立国会図書館    Cその他、指定されている福祉施設    D一定の条件を満たすボランティアグループ(後述)    E文化庁長官がみとめたもの  (3)利用対象者 「視覚障害その他の障害により視覚による表現の認識が困難な者」(視覚障害者等)    @視覚障害・高齢等で見えない、見えにくい人    A発達障害・知的障害等の理由で内容が分からない人    B寝たきり状態、手の不自由な人等、物理的に利用できない人(法改正で追加)→実際には、前述のように今までも認められていた。  (4)製作できる資料    @「視覚障害者等が利用するために必要な方式」    A視覚障害者等が利用できる方式であれば何でも可能  (5)提供方法    @貸出    A公衆送信(自動公衆送信を含む)→今回追加された =インターネットによる配信、データのメール添付による送信    B譲渡(第47条の7)  (6)製作できないケース 同じ形式のものが販売されている場合 8 「図書館の障害者サービスにおける著作権法第37条第3項に基づく 著作物の複製等に関するガイドライン(障害者サービス著作権ガイドライン)」の修正  (1)ガイドラインの目的    @法律のあいまいな部分、グレーゾーンを明確にする    A利用者の登録確認リスト(別表2「利用登録確認項目リスト」    B同じ形式のものが販売されているかどうかを見つけるサイト(別表3)「著作権法第37条第3項ただし書該当資料確認リスト」  (2)ガイドラインの製作者    @図書館関係団体    A著者や出版社(権利者団体)  (3)ガイドライン修正の方向 9 ボランティアグループの政令指定→今回の政令で実現(別紙、政令参照)  (1)一定の条件を満たしたボランティアグループを政令指定    @資料を製作する技術がある    A法人(グループ)の確実な運営    B著作権に関する知識のある職員(会員)がいる    C視覚障害者等の利用者リストがある、もしくは貸出す先の図書館などが利用者リストを持っている    D文化庁が指定したサイトで、グループの存在を明記している  (2)ボランティアグループが独自に資料を製作することによる懸念    @資料の質の確保    A同じものを作ってしまわないか→全国的な資料検索を知らない    B図書館としては直接関係はない→ボランティアグループから製作物の寄贈依頼がくる可能性あり 10 法改正を受けて図書館が行うべきこと  (1)利用対象者の拡大    @最低でも「視覚障害者等」へ    A障害者手帳によらない登録→ガイドライン別表2    B発達障害者などの新たに認識されてきた障害(学校で学ぶ発達障害者など)  (2)障害登録内での分類    @視覚障害者→録音資料が無料で郵送できる    A重度障害者等→障害者用ゆうメールが利用できる    B第37条第3項の資料が利用できる人(説明済み)    Cその他の図書館利用に障害のある人    D図書館のルールとしての対象者 宅配サービス、図書の郵送貸出等  (3)サービス方法の拡大    @「サピエ図書館」や「国立国会図書館サーチ」の積極的活用    Aデータのメールによる提供    B郵送、宅配、施設入所者や入院患者へのサービスなど  (4)障害者サービス担当職員の役割    @さまざまな障害者サービス用資料を知り、それを入手し、提供する    A社会に対して、図書館の障害者サービス用資料・サービスを案内する 11 今後の注目点  (1)読書バリアフリー法(仮称)    @議員連盟による法律制定の動き    A国や地方公共団体の責務→どこまで具体的なものか、単なる考え方か    B公共図書館にサービス充実を求めるもの    C出版社の責務はどこまでか→アクセシブルな電子書籍の刊行、図書館などへのテキストデータの提供  (2)制度面はかなり整えられてきている    @著作権法、障害者権利条約、、障害者差別解消法など    A残された課題もある→郵便規則、福祉制度、障害者自身の自立など  (3)アクセシブルな電子書籍の可能性    @第37条第3項で製作する資料と、インターネットを活用した提供    Aアクセシブルな電子書籍の普及 参考資料  (1)図書館の障害者サービスを学ぶためのもの 1 JLA図書館実践シリーズ37上 38下「図書館利用に障害のある人々へのサービス」 日本図書館協会障害者サービス委員会編 2018年8月(印刷版)、2018年12月(アクセシブルな電子書籍版・Epub形式)、2019年2月(メディア版) (本日会場内で割引販売中) 2 「1からわかる図書館の障害者サービス 誰もが使える図書館を目指して」 佐藤聖一 学文社 2015年3月  (2)著作権法を学ぶためのもの 3 JLA図書館実践シリーズ26「障害者サービスと著作権法」 日本図書館協会障害者サービス委員会・著作権委員会共編 2014年9月  (3)障害者差別解消法を学ぶためのもの 4 「図書館における障害を理由とする差別の解消の推進に関するガイドライン」、そのチェックリスト、そのQ&A 日本図書館協会 2016年3月18日(障害者サービス委員会HPで公開中)