「障害のある子ども・知的障害者・高齢者への図書館サービス」 −日本図書館協会障害者サービス担当者講座中級− 2018年6月6日 山内 ・図書館で利用を待っていてもなかなかサービスが進まない対象であること ・重度であったり施設に入所していたり、作業所などで働いていたり等その場に出かけていく必要がある ・人的な支援が欠かせない 障害者の権利に関する条約(日本政府公定訳 2014年1月20日公布) 第九条 施設及びサービス等の利用の容易さ 2 締約国は、また、次のことのための適当な措置をとる。 (d) 公衆に開放される建物その他の施設において、点字の表示及び読みやすく、かつ、理解し やすい形式の表示を提供すること。 (e) 公衆に開放される建物その他の施設の利用の容易さを促進するため、人又は動物による支 援及び仲介する者(案内者、朗読者及び専門の手話通訳を含む。)を提供すること。 T.図書館利用に障害のある子どもへのサービス 障害のある子どもは図書館に来館しにくい環境にある 平日は特別支援学校や特別支援学級に通い、学校が終わると通所支援事業所などへ行き、夕 方自宅へ戻る。従って、図書館で利用を待つのではなく特別支援学校や特別支援学級、通所支 援事業所の放課後等デイサービスに出向いてサービスを展開したい。 墨田区で行ってきたサービス A.特別支援学級でのサービスと公開授業 B.放課後等デイサービスでのお話し会 C.小学生への漢点字指導 D.お話し会への重症障害児の参加 E.ステップ学級への団体貸出とお話し会 F.盲学校・ろう学校生のインターンシップ G.障害のある子どもに対して図書館が考慮しなければならない基本的な観点 1) 本人と直に触れあうこと。そのためには本人の所まで出かけていく必要がある。 2) 遊びを取り入れたコミュニケーションが必要。  3) 図書以外のおもちゃや模型などの図書館資料も必要。  4) 親等身近な人たちへの積極的な働きかけが必要。  5) 資料だけでなく、場合によっては実物に触れることへの援助。  6) 読み書き(点字・漢点字・手話など)の保障。(就学前の講習)  7) 同じ障害のある生活者に接してもらうこと。  8) 教師・学校との協力体制を持つ。  9) 点訳・音訳など応援体制を組織すると共に求められた資料を極力素早く提供できる体制を 確保。  10) パソコン・拡大読書機・音声読書機・点字プリンターなどの最新機器の活用。 11)点訳や拡大写本における省略や追加、分かりやすくリライトするなど、そのままでは理解の難しい資料の翻案が求められている。 12)「豊かな読書を保障するということは、単に豊富な本や資料を提供するということに止まらずに、そのための体験や経験の問題までも含めて考えていかなければならない」 U.知的障害者へのサービス (1)知的障害を理解するために (2)知的障害の人にわかりやすい表示や文章とは (3)知的障害の方のための読書支援サポート講座のアンケート結果 N50 (4)知的障害の方への読書支援とブックトーク A.福祉作業所へのサービスの開始と展開 1)ふれあいセンター福祉作業所へのサービス 2)さんさんプラザへのサービスの開始と説明会 3)墨田福祉作業所へのサービス(利用案内の作成と説明会) B.まとめとして (1)地域に公的施設としての図書館が存在し、知的障害などの方々に読み書きの支援なども 含めて様々 な援助を行うこと の意味はとても大きいと思う。そのためには図書館に足を運ん でもらう努力が欠か せない。しかし、今の図書館の書架 構成では自分の読みたいものを探し 出すのは非常に困難だと思う。 さらに、現在の蔵書構成と比べ、漫画、流行のCD、 アニメ系 の本など資料選択の幅を広げる必要が あるだろう。(ひきふね図書館にはマンガがない!)新 しい図書館シス テムは知的障害の方や高齢者 にとってますます利用しにくくなっているので図 書館に来館した際の書架案内も含めた人 的なサポー トが不可欠だと考える。 (2)知的障害者の授産施設といっても単に知的障害というだけではなく、自閉的な方や学習 障害ではないかと思われる方な ど様々である。従って、資料利用などのあらゆる可能性を試み る必要がある。特にマルチメディアDAISY図書の可能性は大 きいと思われるので積極的な紹介 が欠かせない。更に今後はやさしく書き直すリライトが大きな課題となるだろう。 (3)ピクトグラム(絵文字)などを利用して、よりわかりやすい利用案内や書架案内などを 考える必要があるだろう。 C.知的障害者の方への読み聞かせとブックトーク (1)読み聞かせを行うにあたって (2)読み聞かせの一般的な注意事項 (3)知的障害の方へのブックトーク (4)ブックトークの実際 V,高齢者へのサービス(図書館や資料利用に障害のある高齢者) (1)高齢者の楽しみと生活情報(「高齢者の日常生活に関する意識調査」) (2)高齢者によく学ばれる学習内容を支えるポイント (3)高齢者サービスのための資料(二つのガイドラインから) 『IFLA病院患者図書館ガイドライン2000』(国際図書館連盟ディスアドバンティジド・パ ーソンズ図書館分科会作業部会編 日本図書館協会障害者サービス委員会訳 2001)より 『IFLA「認知症の人のための図書館サービスガイドライン』ヘレ・アレンドルップ・モーテン セン、ギッダ・スカット・ニールセン 翻訳:(財)日本障害者リハビリテーション協会 (4)墨田区の高齢者サービス(映像による紹介) 墨田区の障害者・高齢者サービスの経過 A.老人保健施設「秋光園」への団体貸出と拡大写本サービス B.今後の高齢者サービスを考えるために 1)墨田区の施設貸出で感じたこと 施設に入所している方々や施設に通所している方の多くは、もともと図書館や本を利用することに障害がある人たちである。こうした人たちに図書館がどのようなサービスを提供できるかということが今後の大きな課題となる。特に単に資料を持っていっただけでは利用できない、してもらえない人が圧倒的に多く、そうした人たちにも図書館のサービスを提供することを考 えていかなければならないのではないか。以下気の付いた事を挙げると (1) 施設でのサービス全般 1, 個人 貸出が基本である。団体貸出ではどんな人がどんな資料をどのように利用しているか がほとんど把 握できない。個々人の 希望を聴いて資料を選び持って行く必要がある。 2, しかし本を読む人、借りる人は意外に少ないというのが現実である。 3, 本に親しむことのできない人に対してどのようにアプローチするかを模索する必要がある。 (歌、紙芝居、ゲーム、科学遊び、漫画、絵本など) 4, 読みたくても読める資料がない人がいる。(字の大きさや漢字の問題、内容が難しいなど) また、どんな資料があるのか知らない人が多い。 (2)高齢者施設での特徴 1,本を借りる人は少なく、借りない人には紙芝居やお話、特に歌が有効で喜んでもらえる。し かしそれを誰もが愉しんでくれるわけではない点は踏まえなければならない。どちらかと言 えば本を借りる人は見ない傾向にある。 2,特に文字が小さくて読めないという声は大きく、市販の大活字本でも小さいといわれてしま う。その点拡大写本は非常に有効な資料である。(最近、池波正太郎や三浦綾子の拡大写本が 人気がある) 3,機会を捉えて様々な本を紹介する必要がある。「きいちのぬりえ」を紹介したら、今まで本 を借りてくれなかった人が借りてくれた。また「講談社の絵本」やかつての名女優の写真集 などは関心を示してもらえる。 4,高齢者住宅の方が自分で鞍馬天狗を脚色して話してくれた。また、お話会で郷土の昔話をし て下さった方もいる。このように高齢者サービス(強いて言えば図書館サービスのあらゆる 場面)に高齢者が参加してくれるように考えなければならないだろう。 5,最近童謡などを一緒に歌うことが多く、とても喜んでもらえる。乳幼児と同じように高齢者 施設でも音楽は不可欠だと実感する。 6, 懐かしいもの(木の実等)などを持っていくと話題が拡がり、会話が生まれる。 (3)まとめ 今までの図書館は貸出を指標として活動してきたが、様々な人々の余暇活動への支援や社会 参加への援助なども今後重要になってくるのではないかと実感している。ある特別養護老人ホー ムの相談員から「こういう社会資源があるとは知らなかった」と言われたが、図書館が一つの 社会資源として認識されたと言うことを評価したい。 また、実物と音楽と身体動作は、言葉と分かちがたく結びついているという実感を持つ。こ のことは乳幼児へのサービスと共通の要素を含んでいる。特別養護老人ホームなどで歌がとて も喜ばれる背景には、歌(リズム、メロディ、歌詞)に、身体を通して記憶を呼び覚ましたり、 活力を与える力があるからだと考えられる。時にはリハビリ体操の役も果たす。 さらに、クルミや烏瓜や橡の実、蒲の穂などを持っていくと昔の思い出を話してくださるお年 寄りも多い。盆踊りの曲を流して踊ると何人もの型が参加して下さるなど、一方的に紙芝居な どをするのではなく、お年寄り参加型の催し物も考えて行かなくてはならないと痛感する。 <参考> a.有効な資料としての紙芝居 b.お年寄りの話の聞き方・受け止め方の鍵 (『回想法ー思い出が老化を防ぐ』矢部久美子著 河出書房新社 1998より) c.「老人福祉施設で読み聞かせボランティア活動をする方へ」 (『お年よりと絵本でちょっといい時間』山花郁子 一声社 2003より) d.「読みあい」と絵本の可能性 (『読書療法から読みあいへ−[場]としての絵本』村中李衣 教育出版 1998より) e.『高齢者への図書館サービスガイド 55歳以上図書館利用者へのプログラム 作成と サービス』(バーバラ・T.メイツ 著 高島涼子 川崎良孝 金智鉉訳 日本図書館協会 2006 より) f.ALA「高齢者のための図書館情報サービス・ガイドライン(Guidlines for Library a nd Information Services to Older Adults)」2008年版より g.平成23年度「社会教育による地域の教育力強化プロジェクト」における実証的共同 研究 高齢者の読み聞かせボランティア養成プログラムをモデルとした地域の教育支援ネットワー クの構築に関する実証的共同研究 調査研究報告書 平成24年3月 地方独立行政法人東京都健康長寿医療センター 東京都健康長寿医療センター研究所