[小特集]IFLAオスロ大会レポート


2005年度 世界図書館・情報会議
(第71回国際図書館連盟年次大会・ オスロ)報告
(2005年8月14日〜18日)

宮部頼子  

(国際交流事業委員会委員長)


 本誌10月号での概略報告,および本号の他の報告と重複しない範囲で全体的な報告を行う。IFLA Express最終号によると,参加者総数は約3000(2983)名であった。参加国数は133か国で,参加者数の多い順にノルウェー(383名),米国(382名),スウェーデン(227名),中国(162名),英国(161名),韓国(128名)であった。他に発表者数404名,会議数216,ポスターセッション数79,発表ペーパー数200(英語173,フランス語116,ドイツ語28,ロシア語22,スペイン語19)などのデータも紹介されている。

 連日30度を超える東京から北欧に到着すると,気温は摂氏20度前後,風が涼やかで空気は軽く別世界であった。もっとも筆者の場合は,成田出発前夜に予定していた英国航空が職員ストライキのため飛行中止という報が入り,急遽JALと,スカンジナビア航空の席を何とか確保し,ロンドン,コペンハーゲンと乗り継いでオスロにたどり着いたのは真夜中であった。しかも翌朝8時前には評議会のため会場入りしなければならない,という状況で時差ぼけも長旅の疲れもお預けという,いつもにも増して厳しいスタートであった。

 第一回評議会では,Kay Raseroka 会長が,
「IFLAの強みは津波災害時における働きに示されたようにそのメンバーである」と述べ,IFLAのインフラに基礎をおく「社会society」「会員members」「専門職profession」という3本柱を強調した。続いて事務局長Peter Lorは,財務と組織改組が問題領域であり,メンバー数が減少していると述べた後,課題は新しい収入源の獲得と,コミュニケーション,ICT(情報通信技術)および戦略の強化であると述べた。会計担当は,資源が限られユネスコからの支援も減少しており,会員からの会費収入が重要な財源であると述べた。

 開会式はオスロ・スペクトラム(巨大ホール兼アリーナ)で行われ,国王も臨席された。席上,ノルウェー教会・文化担当大臣,IFLA会長,基調講演者がそろって,表現の自由にかかわる図書館の重要さを強調した。基調講演者Francis Sejueersted Sejueerstedはオスロ大学経済史の教授で,長くノルウェー・ノーベル賞委員長を務め,ノルウェー憲法に表現の自由に関する文言を入れるための委員会委員長を務めた人物でもある。現在も「ノルウェー表現の自由財団」委員長として活躍しており,「図書館は現代社会において,社会の集約された記憶を守るためのナレッジ・バンクである」と述べた。

 2005年はノルウェーが1905年にスウェーデンから平和裏に分離独立を果たしてからちょうど100年目に当たる特別な年である。それを記念して数々の記念行事が開催されている。IFLAオスロ大会もその一環であり,国際関係のために図書館および情報がいかに重要かを示すものとして意義づけられている。大会組織委員長Jon Bing教授は,国際的にも著名な法学博士・作家であり,児童文学作品をはじめ多くの著作を著し,その親しみやすい人柄と巨体そして象グッズの収集家として知られている。大会テーマ「新発見への航海」は図書館そのものを,さまざまな媒体を通して実現される,境界のないアイディアの世界に導く船に見立てている。それがもっとも象徴的に示されているのが大会シンボルマークであろう。白鳥の頭部を思わせる,なだらかにしなった優美な渦巻きは筆者には最初弦楽器の先端部分に思えた。前年のブエノス・アイレス大会閉会式で,オスロへ誘う美しい弦の音色に酔いしれた思い出が強かったせいだろう。しかし実際にはこのマークは9世紀にヴァイキングが乗っていた船の先端部分をモチーフにしたということであった。たしかに今回のテーマ「新発見への航海」と符合する。そのモデルとなった,1904年発掘の船の現物が市内のヴァイキング博物館に展示されていた。全長21.5m,幅5m,総量11トンの漆黒の船体は勇猛果敢なヴァイキングのイメージを覆すほどに繊細で美しく,滑らかな曲線の船底を見せて雅びやかなたたずまいでさえあった。

       

 会期中には各種図書館見学が30数回実施され,いくつかの図書館では大会にあわせたミニセミナーも実施された。筆者が見学したのは大会会場から徒歩15分の市内Drammensveienにあるノルウェー国立図書館であるが,IFLA大会に合わせて8月15日に大々的にリ・オープンされた。ノルウェー国立図書館が設立されたのは1998年であるが,それまではこの場所でオスロ大学図書館がその役割の一部を担っていた。オスロ市内のこの建物は,大学図書館として1811年に建てられた建物が1913年に増改築されたものである。しかしその後大学が次第にBlindernにキャンパスを移動しはじめ,利用者と図書館との物理的距離が両者を遠ざける結果となったため,1999年にはBlindernに現在の近代的な新しい大学図書館が開館した。それに伴いこのDrammensveienの建物はオスロ国立図書館部門として建物全体を使用することになり,補修が開始されて今回のリ・オープンに至ったものである。地上18,000m2,地下書庫11,000m2の建物では350人の職員が働いている。Mo I Ranaには保存を中心とする分館がある。収蔵資料には1700年代カール12世時代の手書き地図から今日のディジタル地図まで含まれており,文字通り「国の記憶の守り手」としての役割をはたしている。1990年以来法定納本制をとっているが,印刷資料,電子出版物,レコード,写真,放送も対象となる世界でも最も包括的な制度の一つである。図書館の正面玄関を入ると,階段部分にはAxel RevoldとPer Krohgという,20世紀半ばに活躍した2人のフレスコ画家による色彩豊かな壁画が全面色鮮やかに描かれている。今大会ではこのオスロの国立図書館リ・オープンと併せて,IFLA大会行事としてのレセプションが,図書館前の公園も会場として使用して同時に開催された。

 

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▲ノルウェー国立図書館内部

 

 8月16日にはIFLA/FAIFEによる,「知的自由と図書館・2005年度ワールドレポート」が「図書館,国家の安全,情報の自由法および社会的責任(Libraries, National Security, Freedom of Information Laws and Social Responsibilities)」と題して刊行されることが発表された。ここにはメンバー84か国から提出された報告が盛り込まれており,世界の多くの地域で,知的自由がいまだに危うい状況にあることが明らかにされている。そのような中で,図書館が情報へのアクセス確保のために奮闘している様子が見てとれる。アフリカ,アジアの多くの地域ではいまだに情報格差の問題に苦しめられている。また,図書館におけるインターネット・フィルターリング・ソフトウェアの採用は,児童への安全なインターネットアクセス提供の問題に後押しされて増加している。「反テロ法」は現時点ではまだ多くのメンバー国の図書館にとって大きな問題とはなっていないが,米国,オランダ,シリアなどでは図書館にも影響が出始めている。検閲,報道の自由制限,政府からのインターネット利用に対する監視等の問題が中国,エジプト,イタリア,ネパール,ウズベキスタンなどから報告されている。

 文化行事は野外ノルウェー文化博物館の広大な敷地で開催された。随所にスタンドを設営して,各種コンサート,大道芸等を適宜楽しむという趣向であった。最初に入り口でサンドイッチ・水・デザートが入ったバックパックが全員に配られ,「あとは各自有料でどうぞ」という合理的なスタイルである。参加者は堅牢な丸太作りのさまざまな歴史建造物をのぞいたり,上がり込んだり,時代物の乗合馬車に揺られてみたり,芝生でくつろいだり,と思い思いに楽しんだ。見覚えのあるお嬢さんに声をかけてみたら,彼女はドイツの図書館学校の学生でベルリン大会,ブエノス・アイレス大会に続き,オスロ大会でもボランティアとして参加しているとのことで,毎年参加している筆者を覚えていてくれた。将来日本からも,こうした形で世界の図書館仲間と交流できる学生がどんどん現れてほしいものである。

 

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▲文化行事の大道芸

 

 ノルウェーは周知のとおり福利厚生が充実しており,石油・ガスの資源に恵まれた豊かな国である。ノーベル平和賞主催国としても有名であるが,世界で最も女性の社会進出が進んでいる国の一つでもあり,女性の3分の2は仕事を持ち,議会も3分の1は女性議員で占められている。ちなみに今回IFLA大会開催に尽力されたノルウェー教会・文化担当大臣とノルウェー国立図書館長はともに女性である。

 大会に先立ち,北欧移動図書館祭り・プレカンファレンスがオスロ市内で8月12日から14日に開催され,10か国から150人が参加した。インターネット・アクセス完備のものや,ストーリーテリングと劇場仕様のものなど31台の移動図書館が参集し,14日には市内パレードが行われた。トピックは,広範なサービスを支える最新ICTの進展と,読書促進の問題であった。ケニヤではラクダ,バンコックでは自転車,ノルウェーとチリではボートが移動図書館として活躍している。

 今大会でのさまざまなレセプションにおける食事の余り分は,オスロ市内の食料を必用とする人々に提供され,大変感謝されたということである。福祉の精神がごく当たり前のこととして人々の生活の基本となっているこの国のあり様に,改めて感慨深いものを覚えた。

 筆者が参加した部会は教育・訓練分科会であるが,これは別途報告されるので省略する。また,現地の日本研究者・日本関連図書館関係者との交流懇談会に関しても別途報告されるが,筆者からは特にこの会合実現に大変ご尽力いただいた,オスロ大学人文・社会科学図書館職員のマグヌスセン・矢部直美氏に,この場をお借りして改めて心から感謝したい。また大変有意義な会合となったことを,当日,日本関連情報データベースの紹介デモをしていただいた,国立情報学研究所の古賀崇氏はじめ参加者の皆様にも感謝するものである。

 来年は待望のIFLAソウル大会が8月20日〜24日に開催される。IFLA/OCLCフェローシッププログラムの経済支援を受けて,トリニダド・トバゴ,ブラジル,ケニヤ,モルドバ,インドネシア各国からも図書館員計5名が参加することになった。日本からも多くの図書館人がソウルに参集することを心から期待したい。2006年度世界図書館・情報会議(第72回国際図書館連盟(IFLA)ソウル大会)に関する情報は下記のIFLANETで入手することができる(http://www.ifla.org)。

 

参考資料