すべての人びとに読書を保障し、資料・情報の確実な提供を保障する図書館を実現するための政策について伺います

 2010年7月 社団法人日本図書館協会
図書館友の会全国連絡会


 国政に対するご精励に敬意を表します。このたびの参議院選挙に際して御党は、各分野の政策、マニフェストを公表しておられます。政党が、豊かで安全安心な国民生活実現のための見解や国政のあり方、方向を示されることは極めて重要なことであり、旺盛な政策論議を期待するところです。
私ども、社団法人日本図書館協会と図書館友の会全国連絡会は、図書館の振興が豊かな国民生活の実現に不可欠であるとの立場から、御党が参議院選挙に際して示された各分野の政策、マニフェストの精神、考え方にもとづいた図書館政策の具体的内容をお尋ねしたいと思います。昨年の総選挙に際しても同様のお尋ねをいたしましたところ、私どもの考えを概ね肯定的に捉えていただき、勇気づけられましたことを申し添えます。
とりわけ本年は国民読書年です。「政官民」挙げて「あらゆる努力を重ねる」との国会決議の実現は、その基盤を整備することにあります。また図書館振興の具体的内容を示した図書館法が制定されて60周年の年でもあります。
以下に、図書館振興の課題、現場が直面している課題の主要な点について、私どもの考えを述べます。それに対するご見解をお示しいただきたいと思います。選挙の最中、ご多用のところ大変恐縮ですが、よろしくお願い申し上げます。
いただきましたご回答は広く図書館関係者、および図書館運動に携わっている人たちに伝えるとともに、私どもの今後の取組みに生かしていきたいと思います。

1 市町村立図書館を整備すること
 平成の大合併を経た今日でも図書館のない市町村はなお3割近くあります。過疎地域では6割近い市町村に図書館がなく、また書店もありません。人口比較でみると日本の図書館設置数は、G7中最低であり、各国平均の半分以下です。図書館は住民の身近な生活圏域、おおむね中学校区に1館は必要であると考えております。これが実現すると人口当たりではやっとG7各国の平均に到達することになります。
その実現を図るために、@図書館法第20条が政府に課している図書館整備の補助事業を実施すること、A過疎地域自立促進特別措置法に基づく過疎債を活用して図書館整備を図ること、B各省庁の公共施設整備の補助事業の対象に図書館事業を加えること、など現行制度を活用した施策をまず実施すべきだと考えております。 質問:中学校区に1図書館設置することを早急に実現すること、および図書館整備について政府としての具体的な施策を実施することについて、お考えをお尋ねします。

2 公立図書館に専任の司書を配置するとともに、館長には司書有資格者を発令すること
公立図書館で働く職員の6割が非正規雇用の職員です。司書有資格者は5割に過ぎず、司書有資格者のいない図書館が4割近くもあり、また司書資格をもつ館長は2割に過ぎないなど、図書館は極めて脆弱な職員体制で運営されております。一昨年の国会審議で文部科学省もこの実状を認め、「多様化、高度化する利用者のニーズに対応する専門性を備えた司書の配置」を自治体に期待する答弁をされましたが、政府自らがその改善を図る施策の実施については明らかにしませんでした。 図書館法は図書館に司書を置くことを求めています。図書館運営の根幹に関わる職員体制については自治体まかせにせず、政府はその促進を図る施策を実施すべきです。 非常勤、臨時、派遣の雇用にある職員の専門性を高めるための研修などを保障し、また何よりもその安定的継続雇用が必要です。正規雇用の司書有資格者には司書として発令し、図書館業務に専念できる体制を保障すべきです。
さらに地域全体の図書館サービス計画の立案、実施の責任者である図書館長には司書資格取得を求めるべきです。
質問:図書館に司書を置くことは図書館法上明確であることを政府は明らかにすること、司書が継続して安定的に職務に専念できる人事管理方策を採ること、非常勤・臨時・派遣の雇用であっても継続的に図書館に勤務出来る措置を採ること、司書有資格の館長を配置すること、などは図書館振興にとって重要なことです。以上について、ご見解をお尋ねします。

3 指定管理者制度などは図書館の管理運営になじまない
図書館は金銭的な収益が生じない事業であり、民間企業にその管理運営を委ねる指定管理者制度は基本的になじまないと考えております。図書館は行政が責任をもって実施する公共サービスであり、司書がその専門性を継続して安定的に蓄積できる体制の構築があってできる事業です。文部科学大臣も一昨年の国会審議で「指定管理者制度は図書館の管理運営になじまない」と答弁し、また国会は全会派一致して「指定管理者制度導入の弊害」に触れ、専門職員の配置を基本とする管理運営を指摘する決議を行いました。この5月の国会衆議院文部科学委員会においても文部科学省は、職員の安定的な処遇を確保すること、若手の人材養成も含め長期的視点に立って育成を考えることなどを指摘し、図書館の設置者(自治体)に「熟考」と「よりよい図書館サービスの充実のための努力」を求めました。
利用者に直接サービスを行う「窓口業務」を民間企業に委託したり、図書館業務を「市場化テスト」の対象にする動きについても、図書館本来のあり方にそぐわないものであり、図書館の内実を損なうものです。
公共サービスの民間委託について、国会は先に公共サービス基本法を成立させ、自治体においても公契約条例制定の動きが進んでおります。これらは図書館事業の今後にとっても大事な問題提起をしております。
質問:御党は、図書館の指定管理者制度、「市場化テスト」、利用者に接する窓口業務を民間企業に委ねることについて、どのような見解をおもちですか。また図書館の適切な管理運営にとって、公共サービス基本法の具体化や公契約条例は重要なことと考えますが、いかがでしょうか。

4 図書館協議会を設置し、住民の意向が反映した図書館運営をすること
地域の拠点としての図書館の役割は、その地域の住民の意思が運営に生かされてこそ実現するものと考えています。そのためには、図書館法第14条に規定された図書館長の諮問・意見具申の機関である図書館協議会を設置し、その目的に沿った働きを発揮することが現在とりわけ重要だと考えています。例えば指定管理者制度など図書館の管理運営に関わることついては、利用者、住民の意向を訊くことなく導入されることが少なからず見受けられます。図書館計画や活動実績など、図書館にかかわる情報を積極的に公開し、住民の意見を聞き、それを図書館運営に反映させる仕組み、制度を築いていくことが今求められています。
質問:図書館協議会の設置し、住民の意向を反映した図書館運営を実施することについて、どのようなご見解をお持ちでしょうか。

5 地方交付税の積算内容を図書館サービスの進展に即して改善すること
地方交付税は自治体の一般財源ですが、その積算内容は行政の最低水準を示す側面をもっています。図書館についての現行積算内容は、実態と非常に乖離しています。コンピュータシステム、資料の相互貸借の経費のほか、市町村の図書館長の給与費、図書館協議会委員の報酬を積算するなど、改善を図るべきだと考えています。 質問:地方交付税を以上のような最小限不可欠な積算内容に改善することについて、お考えをお尋ねします。

6 政府刊行物や地方公共団体の刊行物を公立図書館に無償、かつ確実、迅速に提供すること
図書館法第9条は、政府刊行物および地方公共団体の刊行物を図書館に提供することを課しています。行政の情報公開に資する極めて重要な条項ですが、政府刊行物については十分に行われていないことが明らかとなり、文部科学大臣は一昨年の国会で、無償で提供するなど改善に努力する旨答弁しました。しかし日本図書館協会の調査によれば、官報、法令全書、白書、指定統計など主要な政府刊行物の3分の2以上は購入によっております。
政府刊行物は確実、迅速に図書館に届ける仕組みを政府自ら制度としてつくるべきです。それによって国民が政府の公的な資料に接する機会を広げることができます。
質問:図書館法第9条の規定に則り、主要な政府刊行物が図書館に確実に届く仕組みを政府がつくるべきだと考えますが、これについての見解をお尋ねします。

7 県域を越えた図書館資料の相互貸借の経費は政府が負担すること
図書館活動の進展、インターネットによる資料検索の普及により、図書館間の資料の相互貸借はますます拡大しております。公立図書館の資料の相互貸借は年間200万件を越えており、大学図書館との相互貸借も4割近い公立図書館が実施しています。しかし財政難から、この流通経費が捻出できず、利用者からの資料要求を断る事態が生じています。
県内図書館間の流通については県立図書館が担うべきことですが、県を越えた流通については、その公益性に則り国が担うべきです。
質問:県域を越えた図書館資料の相互貸借の事業は国が担い、そのための仕組みや財政負担の方法を検討すべきだと考えますが、ご見解をお尋ねします。

8 学校司書を配置すること
学校図書館に学校司書を配置している学校は4割以上となり、増加しています。学校現場や保護者の要望に応え、自治体が施策として実施していることで、大いに奨励されるべきです。ところが政府は、これに対する具体的な支援措置をまったく採っておりません。
学校司書が配置された学校では学校図書館の働きが生まれ、その活用による教育活動が始まっています。しかし、学校司書の多くは非常勤職員、請負契約による派遣など継続性や専門性が発揮できない雇用条件で仕事に従事しており、せっかくの教育活動が継続できない事態も起こっています。学校図書館の専門業務を担うにふさわしい雇用となるよう改善を図るべきです。
質問:学校司書の配置についてどのような見解をお持ちですか。お尋ねします。

9 11学級以下の学校にも司書教諭を発令すること
学校の規模にかかわらず、すべての学校に司書教諭が発令されるべきです。また司書教諭がその職務に従事できるよう授業時間数等の軽減措置を行うなど条件整備を図る必要があります。
質問:11学級以下の学校にも司書教諭を発令すること、およびその職務に従事することができる措置を採ることについて、見解をお尋ねします。

10 学校図書館の資料費を増額すること
文部科学省の地方教育費調査によれば公立学校の図書購入費は年々減少しており、2007年度決算では197億円と1993年度の水準に落ち込んでおります。地方財政改革のもと、学校図書館の資料費に充てることが極めて困難になっております。政府には、資料費が学校図書館に確実に措置される施策の実施が求められます。
また学校図書館図書標準は、新規受入図書冊数を基準に加えるとともに、高等学校も対象とするなど現場に役立つ豊かな内容に改正すべきです。
質問:学校図書館図書標準は、新規受入冊数を基準に加え、高等学校図書館も対象にするなど改正すべきものと考えますが、どのような見解をおもちでしょうか。お尋ねします。

11 大学図書館など高等教育機関の図書館の資料整備に関わる経費増額の措置を採ること
大学図書館など高等教育機関の図書館には、紙、電子媒体を問わず高度な学術・専門資料の購入維持、学生用資料の確保などのほか、貴重書の保存、その電子媒体変換を可能とする経費の措置が必要です。それら経費に充てられる国からの国立大学の運営費交付金、私立大学への助成金は年々削減され、公立大学への交付金は「地方分権」を理由に廃止されています。これに応じて図書館資料費が削減されている状況にあり、2008年度決算をみると総額746億円で、2000年度の水準になっていません。電子ジャーナルの価格は毎年5%程度上昇する状況もあって資料費の2割を占めるほどになっています。今後のさらなる上昇も予想され、大学図書館の収書に影響をもち始めています。
大学図書館の資料・情報提供機能は、研究者、学生の研究、学習活動の基礎的な基本的営為を支えるものです。
質問:国からの国立大学への運営費交付金、私立大学への助成金を増額し、公立大学への財政措置により、図書館資料の充実につながるようにすべきものと考えますが、ご見解をお伺いします。

12 大学図書館に、資料に精通した専門職員の確保と職務に専念できる環境を整備すること
大学図書館においても、その6割は非正規雇用職員であり、民間企業からの派遣職員によって多くの業務が担われている実態にあります。国立大学図書館業務を市場化テストの対象とする動きもあります。専門的業務に従事する職員の雇止め、短期雇用などによりその専門性の継続が困難な状況にあります。研究者や学生の要求に応えることのできる体制づくりが必要です。
質問:大学図書館に経験豊かな専門職員の蓄積のできる体制が必要だと考えますが、見解を伺います。

13 日本の出版物市場における公共、大学、学校を合わせた図書館資料費のシェアが10%以上となる資料費を確保すること
図書館の資料費は公共、大学、学校、それぞれの図書館を合わせてもようやく1,200億円程度で、出版市場の1割にも満たない実状です。視聴覚資料や電子資料、外国資料の購入に充てる額も含んでおりますので、実際に国内出版物の購入に充てられる額はさらに小さい額となります。
公立図書館の2009年度予算では294億円と1991年度の水準に後退し、1館当たり1600万円あったものが937万円になりました。
これでは図書館が出版文化を支える、とはとても言えません。図書館が学術書や専門書、地方の出版物を一定程度購入できるようにして、出版を支えることが必要です。
政府には、出版文化の振興の視点からも図書館の資料購入費を措置する政策が求められます。
質問:この課題についてのお考えをお尋ねします。

14 文字・活字文化に接することが困難な障害者の権利を保障する
情報伝達の主要な媒体である図書等について、障害者は直接「読む」ことができません。それを音訳、点訳などの媒体変換することが必要となります。このたび著作権法が改正され、著作権者の許諾を求めることなく活字資料の音訳等の媒体変換が行えるようになり、障害者が「読む」ことの画期的な条件整備が図られました。
障害者の状況に応じた多様な媒体変換が必要です。理解しやすい音訳のほか、適切な大きさの文字に変換すること、白黒反転した資料、さらに多様なかたちで「読む」ことのできるDAISYなどを提供する条件整備は極めて不十分です。障害者サービスを実施している図書館は1割に満たない実態があります。経費節減、業務の外部委託のしわ寄せの結果です。
障害者の権利条約の批准は、図書館が障害者サービスを実施することを課すものです。早急にその条件整備を図る必要があります。それには政府が率先して施策を実施すべきであり、図書館がそのサービスを主要に担えるよう条件整備を図るべきです。
質問:障害者の「読む」ことを保障するために、すべての館種の図書館において、障害者サービスを実施するために国としての奨励策を実施することについて、どのようにお考えですか。

15 公共的書誌情報基盤を整備する
 国立国会図書館のJAPAN/MARCを日本の標準MARCとして活用できるよう改善を図ることは、図書館事業の進展のうえで重要なことです。JAPAN/MARCが無償もしくは低廉な価格、かつ迅速に提供されることは、とりわけ小規模の図書館や学校図書館の所蔵資料の管理の向上、およびサービスの進展につながります。
質問:国立国会図書館が作成するJAPAN/MARC を迅速に提供し、図書館が活用するだけでなく、国民が簡便に資料を探し出せるよう改善することについて、どのような見解をおもちですか。

16 政党の政策、マニフェストを公共図書館において提供すること
 最後に、政党の政策、マニフェストの国民への提供について伺います。
政党の政策やいわゆるマニフェストについての関心が高まっていますが、その現物を閲覧することは極めて困難な実態にあります。公共図書館には時事に関する情報の提供が図書館法で課せられ、また教育基本法にも政治教育を重視する条項があります。図書館は利用者から求められた資料は確実に提供することを任務としており、これに応える努力もしております。しかし公職選挙法により、総務省に届けられた「マニフェスト」は選挙期間中に閲覧に供することはできないとされています。このことは、国民の政治参加を重視する上で妥当でないと私どもは考えております。
昨年の総選挙の際お尋ねしたところ、ご回答を寄せていただいた政党のいずれもが公共図書館での提供に賛同の表明をされました。大変心強く思い、その後機会あるごとに訴えてきました。
質問:このことについての見解とともに、御党の政策を明らかにした文書、冊子等を図書館に提供することについて、どうお考えかお尋ねいたします。