日本図書館協会図書館の自由委員会大会・セミナー等2014年東京大会

平成26年度(第100回)全国図書館大会 東京大会 第14分科会 図書館の自由


第14分科会/図書館の自由

テーマ:「政府言論」論から考える図書館の自由

○情報社会の中で、政府・自治体は、直接あるいは第三者の口をかりて情報・思想を発出する。その量と正統性が他の言論に比して圧倒的な「政府言論」に、図書館を含む給付助成機関はどう対応するか。1980年代に米国憲法学界で提起されたこの「政府言論(government speech)」論を学び、検閲、図書館(員)の自律など図書館の自由の論点を考える。
○情報通信技術革新は図書館利用記録を利活用する多様な図書館サービスを可能にする。「みんなで考えるネットワーク時代の図書館の自由」では、これまでの図書館の自由分科会の論議や、自由委主催連続セミナーの知見をふまえ、利用者のプライバシー保護の新しいルールや方針に関する共通認識づくりを図る。
1980 年代に米国憲法学界で提起された「政府言論(government speech)」論から図書館の自由や倫理の論点を考えます。「みんなで考えるネットワーク時代の図書館の自由」では、これまでの図書館の自由分科会の論議や、自由委主催連続セミナーの知見をふまえ、利用者のプライバシー保護の新しいルールや方針に関する共通認識づくりを図ります。

午前の部
基調報告:図書館の自由この1 年/西河内靖泰(JLA図書館の自由委員会委員長)
報告:海外の動向―IFLA/FAIFE を中心に/井上靖代(JLA図書館の自由委員会委員・FAIFE委員)
報告:『はだしのゲン』自由閲覧を求める取組み/有原誠治(『はだしのゲン』の自由閲覧を求める練馬区民の会呼びかけ人・映画監督)
午後の部
基調講演:「政府の言論」論と図書館の自由」/蟻川恒正(日本大学法科大学院教授)
研究協議:みんなでつくるネットワーク時代の図書館の自由 part2/コーディネーター・熊野清子(JLA図書館の自由委員会副委員長)

※『みんなでつくる・ネットワーク時代の図書館の自由 連続セミナー2013記録集』を、『図書館の自由 別冊(2014年10月)』として発行しています。
別冊のみ入手希望の方は、 nljiyujla@yahoo.co.jp (エヌ・エル・ジユ・ジェイエルエイ アトマークは小文字) までお問い合わせください。

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大会への招待

第14分科会(図書館の自由) 「政府の言論」論から考える図書館の自由

□基調報告「図書館の自由・この1年」 西河内靖泰(JLA図書館の自由委員会委員長)

この一年間の図書館の自由に関する事例をふりかえり、自由委員会の論議と対応を報告します。
主な報告事例としては、知る自由に関わる立法(特定秘密保護法、児童ポルノ禁止法改正、地教行法改正など)、発行者による刊行差止め(『新修彦根市史第4巻』)、裁判所の調査嘱託への対応などを予定しています。(9:30〜10:15)

□報告1:海外の動向−IFLA-FAIFE を中心に− 井上靖代(JLA図書館の自由委員会委員・FAIFE委員)

FAIFE はIFLAの基本文書であるインターネット宣言(2002年)の改訂、倫理綱領普及の論議を進めています。今年のIFLA 大会(8月、リヨン)では、EUにおける電子書籍貸出制限や有料化への対応はじめ情報への自由なアクセス保障に関わる多様な問題が論議される模様です。FAIFの中間期会議(5月)、IFLA 大会を中心に報告します。
 (10:15〜11:15)

□報告2:『はだしのゲン』自由閲覧を求める取組み 有原誠治(『はだしのゲン』の自由閲覧を求める練馬区民の会呼びかけ人・映画監督)

学校図書館所蔵の『はだしのゲン』の排除・閲覧規制要求は各地に波及し、歴史認識を理由として図書館から特定の図書を排除・規制することの問題が市民レベルで論議され深められました。
2ケ月で1万2千筆の署名を集め、区教委全員による自由閲覧の意見表明に反映させた東京・練馬区民の取り組みを報告していただきます。
 (11:25〜11:55)

□基調講演:「政府の言論」論と図書館の自由 蟻川恒正(日本大学大学院法務研究科教授)

「図書館はすべての検閲に反対する」は図書館の自由に関する宣言の主要な柱です。憲法21条が禁止する検閲を、わが国司法は“行政機関による事前規制”と規定していますが、現行憲法下で政府による露骨な言論統制は限定され、結果として「検閲」は死語化しつつあるようです。
一方、政府は私的な言論主体に比べて圧倒的な力と正統性をもつ言論主体として言論市場に参入しています。
「政府の言論(Government Speech)」論は米国憲法学界で1980年代に、政府が特定の観点に立って行動する事態と思想の自由市場に及ぼす効果について提起されたものです。わが国でこの論議をリードされてきた蟻川教授から、図書館の自由を豊かにする立場でお話しいただきます。給付・文化行政の機関である公共図書館と図書館専門職の「自律」がキーワードになりそうです。
主な著作に「国家と文化」(『岩波講座 現代の法1』1997所収)、「思想の自由」(『講座・憲法学3』日本評論社1994所収)。(14:00〜15:30)

□研究協議:みんなでつくる ネットワーク時代の図書館の自由 Part2 コーディネーター・熊野清子(JLA図書館の自由委員会副委員長)

図書館の自由分科会は2008年に貸出履歴利用によるレコメンドが提起されて以降、webを使う多様なサービスと図書館利用者のプライバシー保護をテーマにしてきましたその間、岡崎市立の利用記録漏出事件、武雄市立のTカード利用、ポイント付与問題が起き、最近ではベネッセの個人データ大量漏出や個人情報のビックデータ利用が話題になり、個人情報の利用が重要な社会的関心事になっています。
 自由委員会はネットワーク時代の図書館の自由を守る前提となる知識を共有するため、昨年開いた連続セミナ−の記録を刊行しました。図書館員には新しいサービスのメリットとデメリットを市民に説明し理解を育んでいく透明性が求められます。
 これまでの学習・論議をもとに、そのためのガイドラインの方向性を見出していきたいと思います。(15時45分〜17時)

(山家篤夫:JLA図書館の自由委員会副委員長)

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大会要綱掲載原稿より 

基調報告 「図書館の自由」この一年
西河内靖泰(JLA図書館の自由委員会委員長.広島女学院大学)

昨年の全国図書館大会以降の「図書館の自由」に関わる問題・事件やそれを取り巻く状況について、主なものを報告する。

1.『はだしのゲン』問題

昨年8月、全国的にマスコミ報道され問題となった島根県松江市の学校図書館の『はだしのゲン』提供制限(閉架図書)問題については、昨年の大会の本分科会でJLA図書館の自由委員会(以下、自由委員会)が行った松江市教育委員会へのヒヤリング調査を報告した(『図書館の自由』第82号.2014.12に報告書を掲載)。しかし、昨年9月以降、東京の都や区市をはじめとして、全国各地で「新しい歴史教科書をつくる会」「在日特権を許さない市民の会」会員などによる同書排除の動きが広がり、学校や図書館からの撤去を求める陳情、請願が教育委員会や議会に出された。いずれの自治体でも不採択としている。
神奈川県議会には同書の「有害図書」指定を求める陳情が出されたが、今年3月議会で不採択とされた。自由委員会は、この陳情に異議を申し立て、同書の自由閲覧を議会各派に要請した市民団体から求められ、「有害図書指定が公立図書館の目的を制約することを憂慮する」参考意見を提出した。
また、大阪府泉佐野市でも、今年1月、市長が「作品中の差別的表現に問題がある」として、市立小中学校の図書室から回収させ、校長会が抗議し、3月に返却していた。

2.『アンネの日記』連続破損事件

2014年2月、東京都の区市立図書館が所蔵する『アンネの日記』とその関連図書が複数ページにわたって破り取られることが判明・報道された。被害にあったのは5区(杉並、中野、練馬、新宿、豊島)3市(武蔵野、西東京、東久留米)、冊数は300冊に上った。被害を受けた自治体は、警視庁に器物破損の被害届を提出した。また、報道を受けて、都内の図書館では職員の巡回を強化したり、一部では同書を開架から引き上げるなどの対応も見られた。
日本図書館協会は2月25日、理事長声明「公立図書館における『アンネの日記』破損事件について」を公表した。
3月に容疑者逮捕、6月に不起訴となり、報道は急速にしぼんだ。破損行為の動機・意図について様々な論評が報道される一方、図書館での管理強化や監視カメラの導入に危惧を表明する報道と、逆に監視強化を求める報道があった。図書館の自由に関わる課題が関心を呼んだ。

3.「特定秘密保護法」成立

この法案に反対し慎重審議を求める言論・出版・法曹など各界の動きを、昨年の本分科会で報告した。
その後12月5日、自由委員会は「本法案が成立することにより、資料・情報を収集・探索・提供する「公的な場」である図書館は「公正に図書館資料を取り扱うべき職務上の義務」を果たすことが阻害され、歪められかねません」として慎重審議を求める「特定秘密保護法案に関する声明」を公表した。
法案はその翌日夜の参院本会議で可決・成立したが、この法律により国民の知る権利が著しく抑制され政府の暴走を許すことへの世論の危惧は大きい。

4.「児童ポルノ禁止法」改正

今年6月18日、「児童ポルノ禁止法」の改正案が参院本会議で可決・成立した。図書館の自由との関連で注目する論点は、1)「児童ポルノ」の定義の明確化 2)漫画等の創作物を規制するか 3)単純所持規制が図書館に及ぶか、の3点である。
1)については、第2条(定義)3項3号に追加。
2)については、6月4日の衆院法務委員会で、谷垣法相がコミックは罰せられないと答弁し、政府委員も「実在する児童の権利擁護の目的から外れている」ため「漫画、アニメ、CGなどと児童の権利を侵害する行為の関連性についての検討規定は設けない」と確認答弁した。     
3)については、図書館などの権利侵害を危惧する質問に対し、法案提出者と政府委員が危惧を否定し、法人が「所持をしていても違法ではない」「廃棄、削除等の具体的義務を課すものではない」と答弁した。
6月11日には「子ども・若者育成支援擁護法」を「青少年健全育成基本法」とする改正案が国会提出され、会期内未審議のまま廃案となったが、改正法案は創作物規制につながりかねないと指摘されている。

(以下については当日報告)

5.『新修彦根市史 第4巻通史編「現代」』刊行中止
6.全聾の作曲家・佐村河内氏の詐称問題
7.漫画『美味しんぼ』の鼻血表現
8.「図書館の自由に関する宣言」決議60周年
9.「図書館の自由に関する宣言」ポスター掲示調査(東京の都をもっとよくする会)
10.ベネッセ顧客情報流出問題
11.「ヘイトスピーチ」問題
12.朝日新聞「慰安婦記事」問題調査
13.国立国会図書館PCコード切断事件
14.岐阜県立、岐阜市立図書館の蔵書盗難事件
15.長野県茅野市立図書館の蔵書破損事件

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研究協議「みんなでつくる・ネットワーク時代の図書館の自由 Part2」

1 経過

2005年ごろから貸出履歴の積極的活用の議論が出てきた。2008年、練馬の貸出履歴保存が問題となった。同年の図書館大会(兵庫)では、webを活用したい立場と歴史的な議論を紹介した。2009年度日図研研究大会でも論議されたが、対立的な議論に陥りがちだった。2010年岡崎市のLibra-Hack事件でIT技術者に危機感があったが、図書館の世界では問題が共有されなかった。
2011年、米田渉「図書館の自由に関する宣言についての提言」(『図書館雑誌』2011.7)、同年図書館大会(多摩)でも報告いただく。2012年、武雄市図書館がTポイント利用、同年図書館大会(奈良)で前田勝之に技術者の視点からの話を聞き、図書館でのプライバシーを取り巻く状況を整理した。
2012年度日図研研究大会では、ある公共向けパッケージで履歴が残されていると指摘があった。2013年、前提となる知識を共有するための連続セミナー「みんなでつくる・ネットワーク時代の図書館の自由」を自由委主催で開催、同年の図書館大会(島根)でこれまでの取組を発表した。

2 セミナーの概要

プレ企画(4/19)「トークセッション「図書館の自由の『理念』と『現実』?」岡部晋典氏(同志社大学)・岡本真氏(アカデミック・リソース・ガイド(株))・西河内靖泰氏(JLA自由委員会)司会:南亮一氏(国立国会図書館関西館)
自由宣言は図書館員にとっては常識、図書館外には浸透していない、理念と現実の乖離。「利用者の秘密を守る」とは、公権力の監視から守る=ビッグブラザーという認識から、我々自身による監視との対峙=リトルシスターズへと変化。図書館だけデータを守っても個人を守ることにならない。個人情報を出さない形での貸出履歴の活用や、本人が履歴を活用できる方法はどうか。公共図書館は市民のアクセス手段を担保する立場、拒否する権利を制度的に保証すべき。アクセスログの分析には個人の情報は不要、匿名化の度合いの論議が有用。WEB世界は図書館情報学を応用して生まれた。技術に拒否感を持たずに理解を進めよう。

第1回(7/15)第1部「図書館は「利用者の秘密」をどう扱ってきたか」山家篤夫氏(JLA自由委員会)
利用者のプライバシー保護について、近年図書館の緊張感が低下、読書事実が機微情報であることが理解されていない。
第2部「ネットワーク時代の図書館に必要な知識:システム担当の経験から」西口光夫氏(豊中市立岡町図書館)
情報セキュリティに絶対安全はあり得ない。形式的な同意ではなく、利用者とリスクコミュニケーションをとる必要性がある。

第2回(8/1)「ICT時代の図書館とプライバシー」大谷卓史氏(吉備国際大学)
情報倫理学の立場でなぜプライバシーを守るのかを論じる。読書事実は個人の内心の自由、思想の自由、発信者の表現の自由に関わる。プライバシー保護か安全安心か、プライバシー保護か利便性かという価値の対立がある。匿名化、統計処理の仕方によって侵害の可能性あり。匿名化についてのルールが必要。個人識別性の観点を忘れずに。技術を実装する人にプライバシー保護の理解、意見交換の場を。

第3回(9/23)「図書館システムの脆弱性への危惧」吉本龍司氏(カーリル)
岡崎事件のあとも図書館の対応に危機感がない。脆弱性は技術の変化で常に生じる。ICタグを書き換えられるアプリが入手可能となり、UHF帯タグは離れたところから内容を読まれる。セキュリティ機能が使われていない。

第4回(11/16)「図書館記録におけるパーソナルデータの取り扱いについて」原田隆史氏(同志社大学)
ログの利用で得られる情報と危険性はトレードオフの関係。ログを使えるように保管し、有効に活用できるのは図書館の専門家だけだ。何をしたいか、メリットとコストを考えて判断する。何か始めるなら利用者の了承を得て実験的に始めて、軌道にのったら本人の判断でやめることもできるようにすべき。検討不十分でやらないというのは最悪の選択肢だろう。

3 セミナーで共通に語られたこと

(1)読書事実は、プライバシーの中でも表現の自由にかかわる機微情報である。
(2)情報技術に絶対はない。脆弱性がないという状態はあり得ない。
(3)プライバシー概念の変化
公権力との対峙→私人間の監視→企業による活用
プライバシーと個人情報との関係、ビッグデータ、パーソナルデータとの関係
個人の特定性を低減したデータ、複数の組み合わせでセンシティブ情報が露わになる。
(4)図書館をめぐるログ
ログを残さないとシステムを管理できない。ログを消して安心ではない。
・警察の捜査と(いったんは)切り離して考える
ログを消してあっても戻せる。捜査令状があれば法的にはOKだが、自由委員会は問題点を指摘。
・ログを活用する場合の道筋
プライバシーか安全安心かの二択ではなく、匿名化、統計処理のルールづくりを。
抑制と活用の相反する要望あり。多数の要望があっても少数への説明、拒否権の尊重を。
・館種による相違はあるのか

4 問題提起

(1)公共図書館向け図書館パッケージ
・貸出履歴がデフォルトで見える
資料についている貸出者の履歴が、容易に見える状態になっている。
資料原簿に貸出者の履歴がくっついていて、メニューから簡単に取り出せる形で存在する。
・家族連携を売りにしている
電話番号で集約、電話番号が違っても手動で連携。
子どもの貸出履歴が親の貸出時にデフォルトで見えている。
・読書手帳運用のため、別サーバに貸出記録を全部ため込むような設計
・督促処理で各種データが全部紙に出力される

(2)学校図書館向け図書館パッケージ
標準仕様で記録が残るシステムがある。記録が個人単位で残せる、子どもが自分で確認できることを売りにしている。
(例).・生徒の利用状況が自動的に記録されるようになり、図書館全体あるいは生徒一人ひとりの図書指導などの道が開けてきた。
・貸出履歴を、利用者が自分で読書通帳に記帳。読書履歴を目に見える形にすることで、読書意欲を促進し、図書館利用を活性化。
・読書指導や図書館運営に役立つ多彩な統計情報。クラスや個人毎の読書状況が簡単に把握。小・中・高一貫校にも対応可能。入学してから、卒業までの履歴も管理しており、小中高一貫校ならではの統計処理が可能。

(3)ICタグ(RFID)の技術的瑕疵
図書館の本に貼ってあるICタグ(ISO15693)は、無料でダウンロードしたアプリで簡単に内容が読めて書き換えもできる。UHF帯は書き換えもできて遠くから読める。タグとしてはセキュリティ機能(暗号化やロックをかける機能)があるが、使われていない。

5 今後に向けて

自館の現状(ログの消去/保管の状況、図書館員が容易に見えるか否か)を認識し、そのうえで、読書の秘密を守ることを利用者に説明する必要がある。何らかのログを利用するなら、個人IDと結びつかない形のデータとし、利用者の拒否権を尊重する必要がある。
そのためには、図書館員が図書館システムやビッグデータ、統計的知識を得ることが必要である。また、読書の秘密を守るという思想を、技術として具体化するためには、技術者と図書館界との意見交換の場が必要である。

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大会ハイライト (『図書館雑誌』 vol.109,no.1 掲載)

[特集]平成26年度(第100回)全国図書館大会ハイライト

第14分科会/図書館の自由 「「政府の言論」論から考える図書館の自由」

・基調報告
・報告

まず自由委員会の西河内委員長が、この1年の図書館の自由に関する事例やそれを取り巻く状況を報告されました。主なものして、『はだしのゲン』問題、『アンネの日記』破損事件、「特定秘密保護法」成立等が挙げられました。
続いて自由委員会の井上委員より、IFLA/FAIFE(注)の動向について報告がありました。報告ではIFLAでは知的自由の場としての図書館を認知させるため「情報へのアクセスと開発に関するリヨン宣言」を表明し、各国図書館協会や関連団体に賛同する書名を求めていることなどが紹介されました。
次に映画監督の有原誠治氏より「『はだしのゲン』追放許すまじ」のタイトルで、練馬区と都の教育委員会に提出された『はだしのゲン』撤去を求める陳情・請願に対して、どのような活動を行ったかについて報告されました。
練馬区では、対抗して自由閲覧を求める陳情を提出し、手書き書名とネット署名、そして街頭宣伝にも取り組まれたことを紹介されました。その活動の中でネット署名も有効であると感じたとのことでした。そして活動の結果、練馬区では教育現場を尊重し統制しないと全員一致で陳情を不採択とされました。一方、東京都でも同様の結果となったものの、“指導や助言”という形で教育現場への管理統制を強める姿勢が透けて見える状況とのことでした。

・基調講演

午後は、憲法学者(日本大学大学院教授)の蟻川恒正氏より、分科会テーマ「『政府言論』論から考える図書館の自由」のタイトルで講演がありました。蟻川氏の考えでは、図書館の自由と政府の言論には直接関わりはない。ただし、力の強い政府側の寡占状態が起きた場合、図書館の自由と関係する部分はあるとのことでした。 また、これに関連する事例として、船橋市蔵書破棄事件の最高裁判決についての内容となり、蟻川氏はなぜこの判決を図書館は徹底批判しないのかと切り出され、いくつかの問題点を指摘されました。この問題提起は、これまで図書館員の中では検討されたことがないと思われ、新鮮な驚きがありました。

・研究協議

自由委員会の熊野副委員長より「みんなでつくる・ネットワーク時代の図書館の自由 Part2」として、昨年実行委員会形式で行った同セミナーについて、昨年の福岡大会に引き続き報告がありました。そのうえで問題提起として、図書館パッケージの貸出履歴の問題、ICタグの技術的問題を挙げられました。
また、今後図書館員が図書館システムを知るとともに、読書の秘密を守るという思想を具現するためには技術者との意見交換が必要であるという提起がありました。会場からも、技術者・研究者・図書館員の三者が意見交換ができる場が必要との意見があり、そのような場を持てるように進めるという方針が確認されました。

(注)国際図書館連盟-情報の自由なアクセスと表現の自由についての委員会

(奥野 吉宏:京都府立図書館)

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