日本図書館協会図書館の自由委員会大会・セミナー等2013年福岡大会

平成25年度(第99回)全国図書館大会 福岡大会 第7分科会 図書館の自由


第7分科会/図書館の自由

テーマ:みんなでつくる・ネットワーク時代の図書館の自由

情報通信技術が急激に発達する今日、「ビッグデータ」を活用するなどの動きは図書館の世界とも無縁ではありません。
貸出や検索の履歴、SDIサービスなどの個人のプライバシー、内心の秘密に関連する多くのデータを取り扱っています。
本分科会では、情報ネットワーク法学の第一人者である岡村久道弁護士に基調講演をいただき、法律の観点からの理解を深めます。
さらに、学校図書館での貸出履歴についての報告と、自由委員会を中心として開催した連続セミナーの概要を報告し、適切なガイドラインの策定に向けて論点整理をおこないます。

午前の部
基調報告「図書館の自由・この一年」 西河内靖泰(JLA図書館の自由委員会委員長)
特別報告「学校図書館における貸出履歴の取り扱いをめぐる論点整理 −「読書指導」という名のレコメンドをどう捉えるか?」 山口 真也(沖縄国際大学)
午後の部
報告「連続セミナー「みんなでつくる・ネットワーク時代の図書館の自由」概要報告」 前川敦子(JLA図書館の自由委員会)
基調講演「「図書館の自由」の憲法論的考察」 岡村久道(弁護士・国立情報学研究所客員教授)

※連続セミナー「みんなでつくる・ネットワーク時代の図書館の自由」については、開催案内のサイト http://www.jla.or.jp/portals/0/html/jiyu/seminar2013.html もご参照ください。

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大会への招待

 (『図書館雑誌』vol.107,no.10 掲載予定原稿より)

第7分科会(図書館の自由)  「みんなでつくる・ネットワーク時代の図書館の自由」

情報通信技術が急激に発達する今日、「ビッグデータ」を活用するなどの動きは図書館の世界とも無縁ではありません。貸出や検索の履歴、利用の記録など、個人のプライバシーや内心の秘密に関連する多くのデータを取り扱っています。
本分科会では、情報ネットワーク法学の第一人者である岡村久道弁護士を迎えて法律の観点からの理解を深めます。山口真也氏には学校図書館での貸出履歴の取扱いについて報告いただきます。
さらに「貸出業務へのコンピュータ導入に伴う個人情報の保護に関する基準」を見直して新たなガイドライン策定に向けて検討するための連続セミナーの概要を報告し、論点整理をおこないます。

□基調報告「図書館の自由・この1年」 西河内靖泰(JLA図書館の自由委員会委員長)
この1年間の図書館の自由に関する事例をふりかえり、委員会の論議と対応を報告します。
主な報告事例としては、問題とされた資料(『週刊朝日』2012年10月26日号、『はだしのゲン』など)の取扱い、利用データの捜査機関への提供についてなどを予定しています。

□特別報告「学校図書館における貸出履歴の取り扱いをめぐる論点整理−「読書指導」という名のレコメンドをどう捉えるか?」 山口真也(沖縄国際大学)
山口氏は、個人情報保護条例に伴う貸出履歴の取扱いについて、これまでに神奈川県や沖縄県の学校図書館での調査をもとに分析、論文やセミナー等で問題提起をされています。

□報告「連続セミナー「みんなでつくる・ネットワーク時代の図書館の自由」概要報告」 前川敦子(JLA図書館の自由委員会)
連続セミナーは、2012年4月19日のプレ企画、岡部晋典氏、岡本真氏、西河内靖泰氏による「トークセッション・図書館の自由の「理念」と「現実」?−伝家の宝刀を研ぐことは可能か−」に始まりました。7月15日の第1回は歴史的経緯と今日の課題(山家篤夫氏)、公共図書館の現場で必要な知識や問題(西口光夫氏)、8月1日の第2回はICT時代の図書館とプライバシー(大谷卓史氏)、9月23日の第3回は図書館情報システムの脆弱性の危惧について(吉本龍司氏)、11月17日の第4回は図書館記録におけるパーソナルデータの取り扱い(原田隆史氏)について学びました。これらの概要を紹介して論点を整理、研究協議で議論を深めます。

□基調講演「「図書館の自由」の憲法論的考察」 岡村久道(弁護士・国立情報学研究所客員教授)
岡村氏は、京都大学法学部卒業。国立情報学研究所客員教授のほか神戸大学、近畿大学の法科大学院などの講師を務めておられます。専門は情報ネットワーク法、知的財産権法。総務省「情報通信行政・郵政行政審議会」委員。内閣官房長IT戦略本部「IT戦略の今後の在り方に関する専門調査会」委員のほか、内閣官房情報セキュリティセンター、内閣府、経済産業省、京都府などの委員を歴任。
主な著書に、『よくわかる共通番号法入門』『個人情報保護法』『情報セキュリティの法律』『会社の内部統制』、共著に『これだけは守りたい個人情報保護』『インターネットの法律Q&A』ほか。執筆論文多数。また、ツイッターやブログ「情報法学日記 By 岡村久道」などでも情報発信中。
「「図書館の自由」の憲法論的考察」についてじっくりお話しいただきます。

□図書館の自由展示パネル「なんでも読める 自由に読める」
図書館の自由の歴史を学べるパネルを会場に展示します。このパネル(B2横サイズ・12枚)は各地で利用していただけます。利用は無料で送料片道負担となります。関連資料とともに図書館での展示にご活用ください。

(熊野清子:兵庫県立図書館)

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大会要綱掲載予定原稿より 

報告「連続セミナー「みんなでつくる・ネットワーク時代の図書館の自由」概要報告」

前川敦子(JLA図書館の自由委員会)

1 セミナー開催の趣旨

 昨年の図書館大会(島根大会)図書館の自由分科会での報告「図書館利用者のプライバシー:ネットワーク時代に関する論点整理」を受けて、今年度当委員会を中心とする自由セミナー実行委員会が開催中の連続セミナーの概要を報告する。
 「貸出業務へのコンピュータ導入に伴う個人情報の保護に関する基準」(1984年日本図書館協会総会議決、以下「84年基準」)および「『貸出業務へのコンピュータ導入に伴う個人情報の保護に関する基準』についての委員会の見解」(以下「委員会見解」)は、80年代の図書館業務機械化の進行を背景に、図書館貸出業務においてコンピュータに記録・蓄積される個人情報の取り扱いへの危惧を背景に作成された。
 その後30年近い年月を経て、インターネットの発達やIT技術の進歩がもたらす高度なデジタルネットワーク環境、プライバシーに関する市民の意識の変化がもたらす、当時は想定しなかった課題が現れている。84年基準および委員会見解ではカバーできない多くの課題に対応するため、84年基準に代わる新たなルールや方針作りを行う必要がある。
 その前提として、一定の知識の共有をふまえた議論を行うために、館種を超え、また図書館以外の分野の方を交えた、学習と交流の場として、本セミナーを設定した。

2 各セミナー概要

本稿執筆時(2013年8月)開催済および開催予定のセミナーは以下の通りである。

プレ企画(4月19日)
トークセッション「図書館の自由の『理念』と『現実』?−伝家の宝刀を研ぐことは可能か−」岡部晋典氏(同志社大学)・岡本真氏(アカデミック・リソース・ガイド(株))・西河内靖泰氏(JLA図書館の自由委員会委員長・滋賀県多賀町立図書館長)司会:南亮一氏(国立国会図書館関西館)
「自由宣言」は、図書館員にとっては常識といわれつつ、理念と現実は乖離している。図書館外にはフィクションと思われるほどに浸透していない。内向きの議論を越えた問題の可視化し、生産的な議論を行うためのディスカッションを行った。

第1回(7月15日)
第1部:「図書館は「利用者の秘密」をどう扱ってきたか」山家篤夫氏(日本図書館協会図書館の自由委員会東地区委員長)
利用者のプライバシー保護について、近年図書館の緊張感が低下していることへの危惧、その原因、とるべき対応をまとめていただいた。
第2部:「ネットワーク時代の図書館に必要な知識−システム担当の経験から」西口光夫氏(豊中市立岡町図書館)
図書館システム担当、隣接自治体システム担当者の横のつながりである「北摂地域図書館システム研究会」の活動、ウェブサービスの企画経験をふまえて発表いただいた。情報セキュリティに「絶対安全」はあり得ない。形式的な同意ではなく、利用者と「リスクコミュニケーション」をとる必要性が強調された。

第2回(8月1日)
「ICT時代の図書館とプライバシー」
大谷卓史氏(吉備国際大学)
情報倫理学・応用倫理学の立場から、プライバシーの基本的概念(多義性・文脈依存性)と、図書館において利用者のプライバシーを守ることの哲学的・倫理学的な意味をお話いただいた。

第3回(9月23日予定)
「図書館システムの脆弱性への危惧」
吉本龍司氏(カーリル)
図書館システムやサービスについて、危惧される問題点や図書館に求められる対応を、カーリルの活動を含めてお話しいただく。

第4回(11月16日予定)
「図書館記録におけるパーソナルデータの取り扱いについて」
原田隆史氏(同志社大学)
図書館記録におけるパーソナルデータの取り扱い(データ暗号化・匿名化の意味)や、アクセスログ解析について解説いただく。

3 今後に向けて

 本セミナーの目標は84年基準に代わるガイドライン/方針の作成である。その前提として基本的知識共有のための学習の場としてセミナーを設定し、これまで
・歴史的経緯と現在
・図書館システムに関わる実
・広い文脈でのプライバシー保護の意味
・図書館の自由に関わるICT技術の知識
を学んだが、複数のテーマを通して、改めて課題が多面的なものであることを認識した。 

 今後生産的な議論を進めるための留意点について私論をまとめてみた。

1.論議の対象が理念/運用/現実のいずれにあるかを意識する。レイヤー(層)の整理。錯綜すると議論がかみ合わない。理念と運用・現実が乖離している点は意識する必要がある一方、それを既定事実とはせず、理念と現実をうまく結びつけた論議を目指したい。
2.館種(公共・学校・大学)によって相違する部分・共通する部分を分けて考える。「遅れている」「間違っている」とすると話がかみ合わない。
3.視野を広げる必要。個人情報・プライバシー保護を例にすると、図書館に関わる話題だけはなく、ビッグデータや行動ターゲッティング広告、パーソナルデータの取り扱いなど、関連した国内の話題や、ECや米国の法制などグローバルな動向をつかんだうえで考える必要がある。データを取り扱う上で、図書館システムに関する知識も不可欠である。
4. 3.に関して、図書館員だけで考えず、ITセキュリティ、法情報学など他分野の専門家、そして権利の主体である市民と積極的に連携する必要がある。
5.すぐにやるべき課題と長期的視野で対応すべき課題を切り分けて対応する。
5-1 すぐにやるべき(短期的)課題
 ・情報の共有化と情報発信
 例)図書館システム仕様、情報セキュリティインシデントへの対応
 ・改善が必要な仕様等への対応
 ・知る自由に関連する情報の把握
 ・他業種専門家・市民との協働
5-2 長期的視野での対応
 ・知的自由に関する教育/啓蒙の促進
 市民が知り主張することで権利が守られる。
 ・「プライバシー・バイ・デザイン」
 利用する段階で考えるのではなくデザイン仕様にプライバシーを埋め込むことで、プライバシーが守られる仕組みを作る。

 こうした課題、特に短期的課題を進めるうえでの体制整備や必要な基準作りについて、全国規模で館種を包括する団体である日本図書館協会が迅速に取り組めればよいと思う。ただ一方で「誰かが決めてくれる・やってくれる」状況にあるわけではない。個々の図書館員が自分の問題として考え、取り組むことでしか変えられないし、そうできる仕組み作りがまず重要と考える。

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大会ハイライト

(『図書館雑誌』 vol.108,no.2 掲載)

[特集]平成25年度(第99回)全国図書館大会ハイライト

第7分科会/図書館の自由 「みんなでつくるネットワーク時代の図書館の自由」

 ここ数年、自由の分科会では貸出履歴やアクセスログの取り扱い等をめぐって、時代の変化に対応したルールづくりの必要性について論議してきました。今回の分科会はそれらを踏まえ、現時点での論点整理を行うことを意図したものです。
 最初に図書館の自由委員会の西河内委員長がこの一年の図書館の自由に関わる事例を紹介しました。『週刊朝日』2012年10月26日号の橋下大阪市長の出自に関する記事に始まり、『はだしのゲン』の利用制限、武雄市図書館のTポイントカード問題、秘密保護法案の国会提出まで。冒頭に紹介された「図書館の自由」のポスターやボードを外す図書館があるという話と合わせて、「自由」をめぐる社会状況の厳しさを実感する内容でした。
 次に沖縄国際大学の山口真也氏が、「学校図書館における貸出履歴の取り扱いをめぐる論点整理−『読書指導』という名のレコメンドをどう捉えるか?」と題して報告を行いました。学校での読書指導とレコメンドの構図の類似性を指摘した上で、読書指導をめぐる論議を手がかりに、レコメンドをどう考えるか整理したものです。「読書指導とレコメンドを同じ構図と捉えることに無理があるのでは」という意見もありましたが、一つのテーマを掘り下げる際に、類似した構図を持つものを材料にして、分析を進める手法は新鮮でした。
 続いて自由委員会の前川敦子氏が、実行委員会形式で取り組んだ連続セミナー「みんなでつくる・ネットワーク時代の図書館の自由」の概要を報告しました。この取り組みは自由の分科会での論議をきっかけに企画されたものであり、1984年の「貸出業務へのコンピュータ導入に伴う個人情報の保護に関する基準」を見直し、これに代わるガイドラインの作成を目標としています。報告では今後の議論の進め方の提案も行われました。
 最後は、弁護士・国立情報学研究所客員教授の岡村久道氏に、「『図書館の自由』の憲法論的考察」と題する基調講演で締めくくっていただきました。内容は二つに分かれ、前半は「図書館の自由に関する宣言」を、船橋市西図書館事件判決を素材に、憲法論的に分析するものでした。「宣言」が拘束力のない単なる自主的綱領ではなく、バックに憲法理念を持ち、憲法的価値を具体化したものであることを明らかにする論究でした。また「表現の自由」と「知る権利」には、自己統治と自己実現の側面があることに触れ、自己統治だけではなく自己実現の価値についても、「宣言」に盛り込むべきではなかったかとの指摘がありました。講演の後半では利用者の秘密保護をテーマに、武雄市図書館のTポイントカードの問題点等が取り上げられました。図書館を根底から捉え直し、憲法論的に跡付ける作業はスリリングであり、図書館員を励ますと同時に、その果すべき役割の重要さと責任の重さを改めて認識させるものでした。
 質疑応答では、日常の業務での疑問点、システムやセキュリティに関する図書館員の理解の弱さ等、様々な意見が出されました。「宣言」の1979年改訂に関わった塩見昇氏からは、岡村氏の講演に関連して、「宣言」に憲法原理を取り込もうと意図したことなど舞台裏の話も紹介されました。

(河田 隆:松原市民図書館)

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