日本図書館協会図書館の自由委員会大会・セミナー等2003年静岡大会

全国図書館大会 第89回(平成15年度)静岡大会 第7分科会 図書館の自由

とき 2003.11.28

ところ 静岡県 グランシップ

テーマ 図書館の「社会化」と図書館の自由


大会への招待 (『図書館雑誌』vol.97,no10より)

  公貸権や複本購入など図書館がメディアのテーマになる状況の中で,図書館の資料提供のあり方が裁判で争われ,さらに報道・論議されるケース(最近では『石に泳ぐ魚』)が珍しくなくなった。図書館が社会に根づき確実に役割を広げることで,社会から図書館が受ける力も多様化し強まっている。市民の自己統治という民主主義の基盤を支えるのは情報の自由な流れであり,これに寄与するのが図書館の役割。ここを見据えた論議を,図書館員が社会に発信する必要性が痛感される。
 正規労働者を低賃金で無権利状態の労働者に置き換える労働力再編・流動化政策は,図書館の自由を支える専門的職員制度不在の状況では深刻な効果をもたらす。図書館員の頑張りどころである。今年の分科会では,久しぶりにそういう実践の交流もしたい。

○基調報告「図書館の自由,この1年間−事例と委員会の取り組み」

山家篤夫(図書館の自由委員会副委員長)

 最近の図書館や出版界などをめぐる図書館と知的自由に関わる事例などを報告していく。

○講演 「『監視社会』と『情報主権』」

斎藤貴男(ジャーナリスト)

 周辺事態法(1999)から今年の有事関連法,イラク支援特措法へと戦争への「備え」が整備されるのに並行して,通信傍受法から住民基本台帳法改正・住基ネット稼働へと市民のプライバシーに国が関与し統制する法と体制の整備が進んでいる。自治体のICカード導入普及に図書館が一役買っているとして状況をあおる意図的報道も見られる。
 斎藤氏は多くの著作で進む「監視社会」を告発し,住基ネット阻止の裁判も提起。「監視社会」は,一方で情報コントロール社会であるとして,国や資本の情報操作とともにメディア自身が進める自己統制の状況に問題提起を続けている。愛国者法に象徴されるアメリカ社会の変貌と図書館員の闘いは,遠い国のはなしではない。
 分科会では,私たち図書館員が向きあわねばならない「この国」の現在を語っていただき,論議したい。

[斎藤氏の最近の著書]
『住基ネットと監視社会』田島泰彦ほかと共著日本評論社 2003.8
『いったい,この国はどうなってしまったのか』魚住昭と共著日本放送出版協会 2003.4

○報告「図書館の自由に関する宣言・解説改訂のポイント」

三苫正勝(図書館の自由委員会委員長)

 昨年の自由分科会と,その後開いた2回の意見交換会で出された意見をふまえてまとめた解説(本誌9月号に掲載)のポイントを報告する。

○報告と交流「図書館の自由の取り組み」

   浦部幹資(愛知芸術文化センター愛知県図書館)   大野恵市(町田市立中央図書館)

 愛知県図書館は昨年,図書館の自由に関する館職員の委員会を発足させた。町田市立図書館の自由に関する委員会は「ちびくろサンボ」問題から活動を続けて久しい。一部幹部職員だけが提供制限の可否・方法を検討する例が多い中で,名古屋市図書館の「三原則」を踏まえた活動である。それぞれの取り組みの報告を受け,交流する。

(山家篤夫(やんべあつお) : JLA図書館の自由委員会副委員長,東京都立日比谷図書館)

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大会ハイライト  『図書館雑誌』vol.96,no.1より

図書館の自由 情報格差と図書館における知的自由 (井上靖代)

 近年増加傾向にあった本分科会は,今年度参加者数64名と減少した。しかし,図書館と知的自由をめぐる事例は減少したわけでもなく,さらに新しい側面から課題をなげかけてきている。今年度は図書館における電子情報提供について,図書館の自由の観点から,著作権や「有害情報」,未成年への情報提供などの課題が報告された。
 まず,JLA図書館の自由に関する調査委員会全国委員長の三苫正勝氏から,この1年間の図書館や社会における知的自由をめぐる事例について報告した。前年度大会直前におこった事例のひとつとして,雑誌『クロワッサン』提供制限について,図書館でどのような対応がなされたのかという調査と,全国各地の図書館での動きをもとにしてその一連の流れを説明した。管理職が,図書館職員全員参加による十分な討議を経ずに,提供規制決定・実施をおこなっている事例が少なからずみられたことに対する憂慮を表明した。また,全国的にもその対応がマスコミからも注目された事例として『ハリー・ポッターと秘密の部屋』の事例や,数年来法律的な判断を求められつづけてきている富山県立近代美術館コラージュ訴訟の結審の事例なども報告した。
 つぎに,元大阪市立大学法学部の福永正三氏から「IT時代の図書館と知的自由−情報格差と著作権を中心に−」と題して,電子情報提供と「知る自由」との関連や著作権を法律面から分析するなど,図書館員とは異なる視点から報告した。
 午後には二人の方から報告発表があった。
 まず,東京大学大学院生の中村百合子氏からは「インターネットの有害情報対策と図書館」と題して報告発表があった。フィルタリングの定義や問題点など,その導入に関して,アメリカでの事例をひきながら整理報告した。すべてそのまま受け入れるか,まったく拒否するのかという対応よりも,その開発・導入に図書館や図書館員が参加していくことも必要ではないかとの問題提起をした。さらに,インターネット上での有害情報に関して,情報リテラシー教育の必要性や図書館のおすすめウェブ・サイトのリンク集であるホワイト・リストの作成,図書館でのインターネットやフィルタリング導入への図書館員参画,法制化や政策化への注意喚起など具体的な対策を提案した。
 つぎに,目黒区立大橋図書館員であり,ヤングアダルト・サービス研究会代表でもある山重壮一氏が「青少年有害情報規制と「図書館の自由」」と題して,東京都など全国各地での青少年保護育成条例変更の動きや国の政策などの状況について説明したあと,青少年が成熟していく過程として,メディア・リテラシー訓練や人権教育,それに情操教育の必要性を主張した。
 そのあとの質疑応答では,電子情報も当然のことながら,印刷資料の図書館側の選択・収集・提供について,個人図書館利用者にどのような対応をするのかという基本にたちもどった議論が行われた。この日の報告発表とは別に地元の図書館利用者から,予約制度に関連して個人の購入要求に図書館はどう対応するのかについて発言があって,それに議論が流れ焦点がまとまらず,消化不足となった観が否めないのは残念であった。

(いのうえ やすよ : 京都外語大学)

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