[特集]図書館と災害・安全対策


9月26日早朝

−十勝沖地震の被害報告

吉田真弓


 1.はじめに

 2003年9月26日(金曜日)午前4時50分十勝沖を震源とするM8の大地震が発生した。

 十勝の主な被害は,ワインで有名な池田町や,海岸に近い浦幌,豊頃町方面の家屋や道路などに倒壊や亀裂があり,重軽傷者108名,津波による行方不明者2名があったものの,あの阪神・淡路大震災(M7.3)の20倍近いエネルギーが放出されたことを考えると(被害にあわれた方には申し訳ないが),比較的被害が小さかったといえよう。

 

 2.図書館の被害

 帯広を除く十勝19町村の図書館は,複合・併設館を含め半数は平成になってからの建築である。そのためか,木製書架が将棋倒しとなった東隣の幕別町を除いて,被害は小さかったようだ。当館の散乱した図書や,倒壊したスチール書架の様子が報道されたため,各館からお見舞いの電話とともに本やビデオが数冊落下したのみという安堵まじりの連絡をいただいた。

 

(1) 本館の様子

 帯広市図書館は1968年建築の鉄筋コンクリート造地上3階の建物である。1階は事務室と約3万冊開架の児童室,移動図書館の車庫と3万冊余の書庫兼執務室,新聞閲覧コーナー。2階は5万冊の一般開架書架にサービスカウンター,閲覧室,3階は4万冊開架の郷土資料室となっており,他に積層閉架書庫がある。

 

 <閉架>

 3層になった積層の閉架書庫は,鉄骨の支柱とスチールの棚板で書棚が作られており,コンクリートの壁に鉄骨の受けが埋め込まれていることもあって,ねじれも亀裂もなかった。

 しかし,書架が不足して3層の北側壁面に後付した鉄骨+スチールの棚は,壁の固定金具ごと引き抜かれて前列の書架にもたれかかっていた。

 また,棚板の作れる限り天井ぎりぎりまで15万冊近い本や雑誌が納められており,2006年3月開館予定の新図書館へ向けてデータ移行準備作業を書庫内で行っていたこともあって,床は廃棄用,データ作成用と区分した本であふれかえっていたが,地震はこれら床に置かれた本に,書架から落下した本を混ぜ返し,文字どおり足の踏み場もない状態であった。

 

 <開架>

 開架フロアーは,サービス空間によって木製7段,スチール7段,木製4段傾斜とさまざまであるが,固定の甘かったスチールや木製2連7段の直立書架の4本が隣の4段の傾斜書架にもたれかかった状態になって本を振り落とした。またカウンター前のスチール製雑誌架が倒れ,木製目録カードケースの足が折れて倒れたほかは,建物が狭隘であり,倒れるスペースがなかったということを差し引いても転倒が少なかったといえよう(写真1)。

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写真1.転倒した雑誌架とカードケース

 当館は17年前と10年前に大きな地震を経験している。17年前の地震はM6で今回よりはるかに規模は小さかったものの,南北に長時間揺れたこともあって,3階の郷土資料室の木製書架は壁に固定していたボルトを引き抜いて倒れ,他の書架を将棋倒しにした。その結果当時120しかなかった部屋に3万冊の本と倒れた書棚が積み重なった状態は,整理のため室内に足を踏み入れることさえ躊躇させられるものであった。

 その後3階の木製書架は横と前をL字金具で床に固定,さらに上部を垂木でつなぐ状態にしたところ,今回は蔵書の7割近くを落下させたものの書架の転倒はなかった(写真2)。

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写真2.郷土資料室の落下した本

 しかし,これらの本を整理するため,教育委員会から10名の職員の応援を得,図書館の30人の職員を手分けして作業にあたったものの,児童,一般の1・2階は2日,3階の郷土資料室は3日の休館をしなければならなかった。

 

(2) 分室の様子

 最も被害の大きかったのは近くのビル5階に新館まで暫定的に借用していた図書館分室で,ここには現在継続購入中の13紙に廃刊を含め30タイトルの新聞が収められ,サービスに供していた。1997年にこのビルの一室を借りた段階でスチールの3連備品棚を設置して,製本した新聞を置いていたが,借用建物への配慮からか固定の甘さもあって,8割方倒壊した(写真3)。

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写真3.図書館分室の状況

 支柱はねじれ,上段から棚板が崩れた。また棚板は崩れる前に揺れの振幅で天井を削り,ずれたものは室内のあちこちの内装材をはがした。

 その結果,当初予算の修繕費では対応することができず,177万円余の補正予算を組んだこともあって,復旧までおよそ1か月の休館を余儀なくされ,50離れた町から町史編纂のため日参していた利用者をはじめ多くの方にご迷惑をおかけする結果となった。

 

 3.結論

 今回帯広市図書館の休館が長かった理由は,貸ビルの中の図書館分室に〈図書館〉としての十分な配慮がなかったことにある。棚上部は相互に連結されており支柱はL型金具で床固定されていたが,背板なし,側板なしの軽量棚は,復旧方法に困惑するほどの壊れようであった。

 振り返ってみれば,ほぼ10年に1度の割合で,大きく揺さぶられ,そのたび,L字金具を付け,垂木でつなぎ補強をしているものの,今回も本館内に書架の転倒があったことを考えると,まだ不足があるといえよう。地震は規模ももちろんであるが揺れの方向や,揺れる長さによっても被害はさまざまであり,万全の対策は講じられないのかもしれない。

 図書館に働く者として落下し床に散乱した本を拾い上げながら棚に戻すときほど切ない思いをすることはない。表紙が折れ,ページが破れた本たちの姿を見ると,彼らの叫び声が聞こえそうで胸が痛む。だが,書架の転倒により利用者が受ける恐怖や被害を思えば,何を最優先すべきか,結論は見えている。落下しにくく,利用しやすく,開架冊数が多く,床面積が広すぎないなどとは夢。

 その後の報道によれば今回の十勝沖地震はまだエネルギーが残っており,残りがいつどのような形で表れるかは不明であるとのこと。2006年に開館予定の新館の図面を改めて眺めた地震であった。

 

(よしだ まゆみ : 帯広市図書館)
[NDC9 : 012 BSH : 1.地震 2.帯広市図書館]

 

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図書館雑誌 2004年3月号

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