2003年「三陸南地震」と「宮城県北部の地震」に
よる公共図書館の被害

JLA施設委員会

 ◆はじめに

 宮城県・岩手県地方には,これまでたびたび大きな地震が発生している。1978年宮城県沖地震はマグニチュード(以降Mと略す)7.4で,死者28人を出す被害となった。江戸時代から平均37年の周期で大地震が発生しており,近い将来,大地震が高い確率で発生するといわれている。

 この地域で,2003年5月26日と7月26日,2か月の間隔を置いて二つの地震が発生した。現時点で気象庁は名称を定めていないため,この報告では報道等を参考に,前者を「三陸南地震」,後者を「宮城県北部の地震」と呼ぶ。

 二つの地震は,震源も規模も違うため,被害の様相は違っている。共通していることは,公共図書館に利用者のいないときに発生したことと,警戒されている大地震とは別の仕組みで発生したことである。したがって今後もなお大地震への警戒が必要とされている。

 「三陸南地震」では地震規模の割に図書館の被害は少なかったため,少々ゆっくりと被害状況の調査・分析を行っていた。やっと報告がまとまったとき,二度目の地震が発生し,驚きと心配を胸に再び宮城県に向かった。

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▲ 河南町立北村小学校:柱に大きな損傷
  (7月30日撮影)

 

 ◆2度の地震

 三陸南地震は5月26日(月曜)午後6時24分ごろ,宮城県気仙沼市沖に発生し,宮城県北部・岩手県南部を中心に被害をもたらした。震源の深度は約71km,規模はM7.0,最大の震度は6弱と観測された。幸い死者はいなかったものの,広い範囲で負傷者や建物・工作物の被害が発生した。

 それからちょうど2か月後の7月26日(土曜),宮城県北部で,1日に震度6が3回(未明・朝・夕)観測されるという,観測史上まれな地震が発生した。朝の本震はM6.2で,三陸南地震より規模は小型であったが,深度約12kmで起きた直下型のため,震度6強という大きな揺れとなり,半径約10kmの範囲に被害が集中した。[図-2]に示す3か所を震源として,加速度は鳴瀬町で観測史上最大の2037ガルが観測された。

 なお,1995年兵庫県南部地震(阪神・淡路大震災)では,最大震度は7であり,観測された最大加速度は818ガルである。

 被害状況は次のとおり後者の方が大きい。

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 震度6弱とは気象庁によると,「人間は『立っていることが困難になる』。屋内の状況は『固定していない重い家具の多くが移動,転倒する』。屋外の状況は『かなりの建物で,壁のタイルや窓ガラスが破損,落下する』」と解説されている。震度6強になると「屋内の状況は『固定していない重い家具のほとんどが移動,転倒する』」とされている(理科年表2003)。

 したがって,図書館で負傷者が出てもおかしくない規模の地震であったが,前者は月曜日,後者は開館前に本震があったため負傷者はなく,全体的には建物の被害は少なかったといえる。

 

 ◆「三陸南地震」によるまちの被害

 三陸南地震で震度6弱が観測されたのは大船渡市をはじめ11か所である。一般道では17か所が全面通行止めとなり,大船渡市では約190mにわたる地割れが発生した。また東北新幹線では,当日の運転がとり止めとなり,水沢江刺〜盛岡間で高架橋の支柱が6か所22本にコンクリートがはがれ落ちるなどの被害が発生した。鉄筋コンクリート造の公共建築にも一部で被害が発生し,翌日臨時休校となった小・中・高校は64校を数える(読売新聞5月27日夕刊)。

 専門家はこの地震の特徴について「地震規模のわりに被害は少なかった」と地震動の特性を分析している。また,1978年宮城県沖地震では深刻な被害が発生し,脆弱な建物等はそのときに壊れたともいう。

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▲ 気仙沼市図書館:ガラスが割れカーテンボックスが壊れた
  (同図書館提供)

 

 ◆「三陸南地震」による図書館の被害

 被害状況を次の情報と調査によって把握した。文部科学省による被害情報10館,図書館関連メーカーの情報18館,訪問調査8館,ファックス・電話による補足調査20館である。

 これらの情報は重複しており,整理すると被害の無かった館も含め36館となる。岩手県・宮城県の図書館を設置している市町村の数は63であり,震度5弱以上の地域にざっと半数があると想定できるため([図-1]参照),被害状況をおおむね把握できたといえるだろう。

 

 <建物の被害>

 図書館ではガラスの破損が10館,岩手県立・平泉町立・大船渡市立・室根村立・宮城県・気仙沼市・多賀城市立・志津川町・小牛田町・村山市立の図書館で発生した。建物に亀裂が発見されたのは気仙沼市をはじめ8館である。合わせると15の館で建物に被害があった。なお漏水による被害はなく,コンピュータシステムの被害も報告されていない。

 1969年に開館し,震源に近かった気仙沼市図書館では,構造体に亀裂が生じたため,安全が確認されるまで2階を閉鎖した。同市では他の公共施設でも被害が多かったため,書庫の一部を立ち入り禁止としたまま補修工事を待っている(8月1日現在)。

 宮城県図書館では,ガラスが破損するなどの被害が発生し,修復工事に3週間を要した。この被害状況はやや特殊であるため後述する。

 

 <図書の落下>

 書架が転倒する事故はほとんど無かった。一部で閉架書庫内に簡易に置かれた書架が倒れた程度である。しかし,100冊以上の図書(資料)が落下した図書館は20館を数える。これは震度5強以上の地域に集中しており,最大で1000ガルを超す揺れが観測されているため,落下は無理のないことと言える。

[図−1]三陸南地震による図書館の被害と震度分布

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注) 震度は気象庁発表による。プロットは概ね役場の位置とし、
   市町村によっては、実際の観測点がずれる場合がある。

 そのうち落下の量が開架図書の2割を超したのは,仙台市泉図書館の寺岡分室(約7割,書架は床に固定されていない),宮城県(約6割),千厩町立(約4割),釜石市立(約3割),川崎村立(約3割),江刺市立(約2割)である。落下の多くは開架閲覧室で発生し,閉架書庫内は固定書架・移動書架共に落下の報告は少ない。

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▲ 宮城県図書館:アルミ製書架の棚を前面で
  押さえている棒状の部材が多数はずれた
  (同図書館提供)

 

 ◆宮城県図書館

 仙台市にある宮城県図書館(98年開館)では,建物に亀裂が発生し,約9mの高さからガラス製の防煙たれ壁や排煙設備のカバーが落下した。「利用者がいたら人身事故になったかも…」と関係者は事態を深刻にとらえている。復旧工事のため閉館となり,6月17日に再開された。図書の落下は開架の約6割,18万冊を超える。

 近傍の図書館で建物の被害が見られないことと比べ,この館の被害は特殊で「地盤が悪いのか」という声も聞かれた。地震学者でさえ,地震と建物の揺れの関係については未知数のことが多いというが,丘陵地,柱の少ない大空間,3階建,これらが相乗して大きく揺れたのかもしれない。

 どうあれ,結果を見る限り公共建築に要求される安全性能について不安をぬぐえない。割れたガラス製の防煙たれ壁は,金属製のものに取り替えられたものの,今後高い確率で発生するとされている大地震に対し,安全性を再検討することが求められるだろう。

 

 ◆「宮城県北部の地震」とまちの被害

 7月26日(土曜)0時13分ごろ,震度6弱(M5.5)の地震が発生した。経験則から気象庁もこれを本震と考えたが,これは「前震」つまり「まえぶれ」で,7時13分ごろ,震度6強の本震(M6.2)が発生し,大きな被害となった。さらに震度6弱の余震(M5.3)が夕刻16時56分ごろ発生した。本震のとき,震度6強が観測されたのは矢本町,南郷町,鳴瀬町で,震度6弱が涌谷・河南・小牛田・桃生・鹿島台の5町であった。有感地震は354回(7月31日まで)を数えた。地震規模は小さいものの,内陸の深度12kmと浅い部分で発生したため,局所的に甚大な被害となった。家屋・工作物の被害のほか,土砂崩れ・落石・地割れが発生した。大雨による被害の拡大も懸念されたため,避難した住民は3000人を超える。5町で断水し,10万戸の停電,交通機関の停止等,町の機能は一時マヒした。死者が出なかったのは奇跡に近い。

 河南町では,北村小学校(鉄筋コンクリート造3階建)が柱の鉄筋がむき出しになるなど,「全壊」の被害を受けた。文部科学省のまとめでは119校の学校施設に被害があったという。

 この地震は,地域を南北に走る活断層に発生したものと分析され,地割れが鳴瀬川堤防等に多数発生した。現地で聞いた声では,下から「ドーン」と突き上げられる衝撃だったという。

[図−2]宮城県北部の地震による図書館の被害と震度分布

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注) 震度は07:13頃の地震を示し、[図−1]の注に準ずる。

 

 ◆「宮城県北部の地震」による図書館の被害

 まちの被害は大きかったものの,震度の大きなエリアは狭く,図書館の被害は矢本町にとどまったと言える。近傍の図書館,石巻市,小牛田町,塩竃市民では,図書が 100〜300冊程度落下しただけである。なお,宮城県図書館に被害はなかった。

 7月30日に矢本町立図書館を訪問調査したが,8月5日の再開を目標に,復旧作業の最中であった。この館は93年に開館し,鉄筋コンクリート造平屋建,蔵書冊数は10.6万冊である。建物自体には壁の亀裂など見当たらず,ガラスの落下もなく地震に耐えた。設備では照明カバーが1か所落下し,漏水が発生し,トイレの陶器が一部破損した。また駐車場に陥没が1か所発生した。

 開架の書架は木製で下部が台形になっており,床に固定されているため,ほとんど無傷であった。しかし約8割の図書が散乱し,下部の傾斜している部分に残っただけである。また,ショウケースやカウンター,事務室内の家具など,固定されていないものが,転倒したり移動したりした。

 低書架の一つが床に固定されていなかったが,落下した本が書架の下に潜り込むという,信じがたい状態となった。つまり書架がジャンプしたのである。コンピュータ類のCRT(モニター)の多くは,転倒または落下したが正常に作動した。兵庫県南部地震のときも「CRTは強かった」という報告がある。

 閉架書庫内では,高さ258cmの移動書架が,レールからはずれ,かしぎ,支柱のブレースを固定する部分は変形していた。書架の修復にあたっていた技術者は,「震動実験でも,このような破損は見たことがない」と驚いていた。

 近接する役場にある震度計では1609ガル(3成分合成)が観測され,上下方向は1241ガルという驚異的な加速度であった(気象庁速報)。町の方には気の毒であるが「貴重なデータ」として今後生かされるかもしれない。なお,全壊となった北村小学校からは約5kmの距離にある。

 約50km2の矢本町には,公民館図書室が3室あるが,図書の落下は3室3様で,町立図書館ほどの被害ではないとの情報であった。地震には理解しがたいことが多い。赤井公民館は,建物自体にはほとんど被害がなかったが,浄化槽が陥没したため閉館となっていた。

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▲ 矢本町立図書館:地震直後の図書の散乱と家具の転倒
  (同図書館提供)

 

 ◆安全な書架・図書の落下

 今回の2度の地震では,開架スペースにある書架は,おおむね地震に耐えた。ここで,図書の落下について考察すると,当然のことだが,揺れの激しかった図書館にある,落ちやすい状態(書架)の本が落下したと言える。この傾向について,先の宮城県沖地震や兵庫県南部地震から得られた教訓があるので復習する。

 本棚を揺れにくくするには,床や壁に適切に固定されていることは必須で,高書架の場合,上部つなぎがあると有利である。また下部が斜めになって足元が台形の木製書架は有利である。棚の奥行きが深い方が,落下に対しては有利である。

 ただし,書架の形状や棚の奥行きは,普段の使い勝手に直接かかわり,インテリアデザインでも重要な要素なので,総合的に考慮することである。「大きな地震では落下して構わない」とするのも一つの考え方である。

 被害状況を分析するとき,発表された震度が参考となるが,実際には,震度が同じであっても対象となる建物の状態や地震動の状態によって,被害が異なる場合がある。地震動は地盤や地形に大きく影響され,同じ市町村であっても場所によっては震度が異なることがある(気象庁解説 : 『理科年表2003』より)。したがって「震度5弱なのに被害が大きかった」などとコメントすることには注意を要する。調査結果でも震度に比例して落下したとはいえない。

 

 ◆安全な図書館を

 兵庫県南部地震も1978年宮城県沖地震も公共図書館に利用者のいないときに発生した。そのため,私たちは図書館を襲う大地震の本当の怖さを知らないともいえる。ちなみに,78年宮城県沖地震のとき,東北大学附属図書館には約250名の学生がいた。そこでは1万冊を超す図書が落下したが,負傷者はいなかった。俊敏な若者ゆえ身を守れたのかもしれない。

 公共図書館では不特定多数の利用者がいるため,より地震時の安全は慎重に考慮されるべきである。まず,書架が倒壊しないようにすることが重要だ。今回の地震では,倒壊しにくい安定した書架からは,図書の落下も少なかったようである。また,トップライトや防煙たれ壁などのガラスには割れにくくすると共に,飛散防止策が求められる。

 図書の落下については,巨大な地震のときでも落下を防ぐことは,免震構造以外は無理であろう。書架の倒壊を防ぐためには,むしろ図書が落下し軽くなった方が有利だという判断もある。しかし頭を直撃するような高所に図書があることは危険であるから,むやみに高い書架を設けることは避けたい。

 また,災害時の避難誘導などの訓練は定期的に行う必要がある。宮城県図書館では,5月の地震を教訓とし,地震時の避難誘導を徹底し,8月1日には救命訓練を実施した。

 

 ◆おわりに

 兵庫県南部地震では「地震予知」の難しさを知り,その後「震度予測と防災」に重点が置かれるようになった。つまり「地震はいつ来るか分からない。油断せず被害を最小にするよう備えよう」ということである。被害を受けた多くの方々にお見舞いの意を表するとともに,図書館が常に人にも資料にも安全なものであるよう願う。

 矢本町では約80人の住民が図書館活動の協力者となっているが,訪れたときには10名を超すボランティアが片づけを手伝っていた。交代で復旧作業に参加し,その中には高校生や小学生もいるという。また28日(月曜)には,近隣の図書館員が復旧の手伝いに駆けつけた。

 積極的な活動を展開し,東北地方で注目されているこの館であるが,住民に親しまれ支えられている様子がこんな場面にも表れている。まだ余震の止まぬ曇り空に,一筋の光を見る思いであった。

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▲ 矢本町立図書館:移動書架の支柱が変形した
  (7月30日撮影)

 

(文責・川島 宏(かわしま ひろし) : 株式会社栗原研究室)
[NDC9 : 012 BSH : 1.地震災害 2.図書館建築]

 

 

 

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図書館雑誌 2003年9月号

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