第101回全国図書館大会第2分科会(大学図書館/利用教育)の開催報告

ラーニング・コモンズと情報リテラシーの関係について考える分科会 : 講演3件,事例報告2件のほか,トークセッションを実施

春田和男(東京家政大学)

当委員会では,2015年10月16日,国立オリンピック記念青少年総合センタ ーで開催された第101回全国図書館大会において,大学図書館部会と合同 で分科会を開催した。分科会のテーマは「学習支援の次なるStep—ラーニ ング・コモンズと情報リテラシーのおいしい関係—」である。

国立大学図書館協会教育学習支援検討特別委員会が作成した『高等教育の ための情報リテラシー基準 2015年版』と「ラーニング・コモンズの在り 方に関する提言:実践事例普遍化小委員会報告」を踏まえて,1)情報リテ ラシー基準とはどういう意味を持つものなのか,2)ラーニング・コモンズ と呼ばれる図書館における学習スペースはどのように活用されるべきなの か,3)学習(学修)支援の実質化に向けた次のステップとして,図書館が 「学び」にどう関わるのかについて考えた。ここで,情報リテラシーとは 「課題を認識し,その解決のために必要な情報を探索し,入手し,得られ た情報を分析・評価,整理・管理し,批判的に検討し,自らの知識を再構 造化し,発信する」能力のことである。

当分科会では,岡部幸佑氏(東京大学附属図書館)による概要説明ののち, 講演,事例報告,トークセッションが行われた。

講演は次の3件である。1件目は,野末俊比古氏(青山学院大学)による 「学修支援と情報リテラシー—新しい学びの基盤づくりに向けて—」であ る。まず,学修支援としての図書館サービスについて,図書館資源を,情 報資源,空間(物的)資源,人的資源の3つに区分して,主たる論点を挙 げた。次に,学修支援の柱である情報リテラシー教育の目標・内容を一覧 ・俯瞰できる「体系表」を作成し,その表に基づいて,入学時から卒業時 までのどの段階でどの事項をどの機会で指導・修得するのかというプログ ラムを策定する必要があると指摘した。その際,教育学(教職)の基礎的 な知識が有用であると述べている。最後に,アクティブ・ラーニング(主 体的な学び)について2つ言及した。1つは授業(時間)にアクティブ・ラ ーニングが取り入れられることによって図書館の役割が重要になること, もう1つは図書館が実施する情報リテラシー教育においてアクティブ・ラ ーニングの導入が有効であることである。

2件目は,小山憲司氏(日本大学)による「ラーニング・コモンズ2.0—実 質化に向けた次のステップ—」である。教育・学習支援は大学全体の活動 であり,図書館単独では達成し得ないと指摘した上で,米国の大学図書館 の事例として,シティカレッジオブサンフランシスコ(City College of San Francisco)のチュートリアルセンター(Tutorial Center)と,ワシ ントン大学(University of Washington)のリサーチコモンズ(Research Commons)を紹介した。最後に,図書館側がサービスを提供し,利用者が それを利用するだけでなく,ラーニング・コモンズという場を活用して, 利用者自身がさまざまなサービスを提供し,その果実を皆が享受すること もできると指摘した。

3件目は,内島秀樹氏(神戸大学附属図書館)による「『ラーニング・コ モンズの在り方に関する提言:実践事例普遍化小委員会報告』の読み方」 である。この報告は,ラーニング・コモンズという新たな図書館事業の最 終目的地を意識するために,共有できる理念と各大学で導入する際の,融 通性のある概括的な枠組みを示したものであると述べている。報告は6章 からなる。第1章「はじめに」,第2章「北米におけるラーニング・コモン ズ導入事情」,第3章「国内のラーニング・コモンズ導入状況とその背景」, 第4章「ラーニング・コモンズの在り方について」,第5章「ラーニング・ コモンズの在り方」,第6章「チェックリストによる自己点検適用事例」 である。第4章と第5章を読むことによって,ラーニング・コモンズの理念 を理解・共有し,第6章を参照し,チェックリストを埋めることで,ラー ニング・コモンズの現状と最終目的(理念)との隔たりを自己点検するこ とができると指摘した。

事例報告では,餌取直子氏(お茶ノ水女子大学附属図書館)と村尾真由子 氏(筑波大学附属図書館)から,それぞれの図書館における『高等教育の ための情報リテラシー基準』の活用事例が報告された。最後に,岡部氏, 講演者,事例報告者が「ラーニング・コモンズと情報リテラシーのおいし い関係」というテーマで,適宜,会場からの質疑応答も行いながら,トー クセッションを実施した。