資料紹介
利用者の求める『図書館学講座』を具体的に提案した画期的な本!!の紹介

戸田光昭(駿河台大学名誉教授)

『図書館でこんにちは―本に出会い、人に出会える楽しい場所へ―』
近江哲史著 日外アソシエーツ 2007年12月発行 246p.
(日外選書 Fontana)1,900円(税別)

 著者の近江哲史さんは,これまでに『図書館に行ってくるよ』,『図書館力をつけよう』という2冊の図書館に関する本を出している。この2冊は,話題の本となり,図書館サポートフォーラム賞を授賞した。今回は,利用者として,積極的に地元の図書館活動に関与してきた実績を,かなり具体的に書き,それらをもとにして,次のステップ,すなわち図書館運営にまで関わろうとする意欲的な内容である。

 著者は,最初は単なる一利用者に過ぎなかった。しかし,ライフワークの一つである「自分史」の執筆指導,実践などを通じて,図書館のヘビーユーザーになり,地元の公共図書館のボランティア活動の一翼を担うようになる。そのうちに,ボランティア団体からの代表として,図書館協議会の委員になった。しかし,この協議会は図書館法に書かれているにもかかわらず,形式的で,実効性の無いものであった。そこで,図書館協議会を活性化することを始めた。協議会とは別に懇話会を開き,委員の意思疎通ができるようになったために,実質的な協議会が行われるようになったという。

 著者の属するボランティア団体は,さらに進んで,NPO法人をつくり,図書館業務運営受託の準備を始めた。これは2007年4月のことである。そして,2008年4月から業務受託をすることが決まった。単なるボランティア団体ではない,実践へと動き始めたのである。

 本書では,後半で,「図書館は宝の山よ」「宝の山をもっと豊かに」という二つの章を設けて,図書館専門家や現場の人たちがあまり気をつけないが,重要なポイントを指摘し,一般の人が,もっと豊かな生活を送るには,いかに図書館が重要であり,身近な存在なのかを,事例をあげて,分かりやすく説いている。

 第6章「宝の山をもっと豊かに」では,さまざまな提案をしているが,利用教育にもっとも関連するものとして,「利用者の望む「図書館学講座」がある。この講座というのは,いわゆる講座もので,ここでは図書館学を総合的に学ぼうとする人たちのために編集され,全10巻から15巻程度で構成されている

 これを図書館員本位ではなく,図書館利用者を問題意識のターゲットにおけば,どのような内容になるかという視点が新鮮である。新しい図書館専門職養成を考える場合に,大変参考になる。図書館利用教育においても,当然考慮すべき観点であろう。その構想を以下で紹介する。

 図書館関係者だけではなく,一般市民もこの本を読むと,これまでとは,全く違った「新しい図書館像」を発見することができる。ぜひご一読をお薦めしたい。またこれらの提案を実践していきたい。

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