文献紹介

図書館を広く考え,創造的に活用していくための二冊

戸田光昭(駿河台大学名誉教授)

1.『つくる図書館をつくる―伊東豊雄と多摩美術大学の実験』

鈴木明,港千尋,多摩美術大学図書館ブックプロジェクト編,
2007年7月,鹿島出版会,190p. 2,500円(税別)

 これは図書館の本であるが,建築関係の本でもある。鹿島出版会が発行所であるために,建築本として書店で扱われて、芸術や建築の棚に配置されている場合も多い。書店は発行所で本の内容を判断するからである。

 しかし,図書館関係者からみれば、完全に図書館の本である。このような多様な観点から図書館を取り上げた本がこれからも,多数出版されれば,日本の図書館界はさらに活発化するであろう。

 この本は建築書らしく,その半分近くが写真と図版で構成されており,眺めているだけでも楽しくなる。楽しむために読むこともできる。それだけでも高価なこの本を購入する価値はある。しかし,関係者としては,それだけでは済まない。重厚な内容をすこしずつでも解読したいものである。重厚と言ったが,難解という意味ではない。関係者には容易に理解できる内容である。そして,現場を見学して確認すれば,さらに理解が深まるであろう。

 目次から気になる項目のいくつかを列挙しておく。

<図書館の創造的な利用法―コミュニケーションとブラウジングのためのインタラクションデザイン>

<図書館「しつらえとふるまい」の考古学>

<ラボラトリー><カフェ><インフォシェルフ><ラウンジ><マグテーブル><メディアバー><メディアシート>

<アーケードギャラリー―現代のライブな文化や芸術のブラウジングルーム>

<創造的図書館利用のてびき―空間・施設・設備・家具デザインのコンセプト>

2.『コミュニティの活力源になるライブラリーをめざして―自分の力を生かして、マネジメント―:ライブラリーマネジメント・ゼミナール講義ノート』

丸本郁子監修,人と情報を結ぶWEプロデュースLMゼミプロジェクト編,2007年6月
人と情報を結ぶWEプロディース,115p. 1,000円

 図書館は立派で役に立つ活動や事業を行って来たのに,ほとんど社会的には評価されなかった時代が,日本においては長く続いてきた。誰にでも利用可能な施設であり,機能も備えているのに,その価値を知る一部の人たちの為だけに存在しているというのが実体であった。それは,様々な社会的・政治的背景があったからであろうが,図書館員養成のカリキュラム(制度としては,公共図書館員養成の司書講習科目)にも欠陥があった。1996年の図書館法施行規則改正で「図書館経営論」という科目が入れられ,マネジメントの重要性が教育科目にも明示された。これでようやく一人前の社会的施設として歩き始めることになったのである。しかし,現場に実績が乏しいため,急速に図書館が発展することは難しい。

 そのような状況の中で,この講義ノートに掲載されているプログラムは,現職の専門職の人たちにとっては,実践的で即効性のある内容になっている。ここに収録されているは,2006年9月から2007年1月にかけて関西で実施されたものであるが,参加できなかった人にとっても,ゼミナールに参加したのに近い効果があがるように編集されていて,「“マネジメント”の視点やスキルを身につけて,元気でポジティブに,そして戦略的に図書館活動を展開していけるように,共に学びあう場として,人と情報を結ぶWEプロデュースが提供しているプログラム」に講義ノート上で参加できるのである。

 ゼミナール第1回は,ジュンク堂書店の福嶋聡さん,第2・3回はWEプロデュース代表の尼川洋子さん,第4回は元日本生命附属文研図書館の高橋和子さん,第5回はインフォメーションプランニング代表の結城美恵子さんであり,ファシリテーター(本書では監修者となっている)を大阪女学院短期大学名誉教授の丸本郁子さんが務めている。

 各回の本書における構成内容は,(1)レジュメ,(2)レクチャー,(3)ワークショップの説明,(4)ワークシート,(5)ワークシート記入事例(参加者の事例まとめ)となっており,講義ノートを使って実践的に学べる。

 なお,この本は,日本図書館協会の出版物販売の窓口(電話:03-3523-0812、FAX:03-3523-0842、電子メール:hanbai@jla.or.jp )でも取り扱っているので,誰でも購入することができる。

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