図書紹介
図書館を創造的な学習や仕事の場として活用するためのヒントを書いた本5冊

1.創造性の4B(前号のつづき)

 前号の「図書紹介」の最後に書いたように,創造的なアイデアを生み出したり,創造性を養ったりするための環境を整備することは,仕事のためだけでなく,一般の学習・教育・訓練のための大きな課題である。
そこで「創造性の4B」として挙げられていたのは,バー(Bars),バスルーム(Bathrooms),バス(Busses),ベッド(Beds)であった。これらは頭の冴える場所なのだ。眠る寸前に浮かんだアイデアや夢に見た光景を書きとめるために,枕元にメモを置いたり,入浴中に思いついた課題の解決法を浴室の窓にメモしたり,酒場で仲間と飲みながら出てきた素晴らしい考えをコースターに書きなぐったりということは,誰にでもできる,日常的なことである。
バスや列車で移動中に,あるいは旅行中に発見したり,思いついたりすることも多い。このような場は,比較的,じっくりと考えることができる所でもある。こんな場所を人為的に作り,そこで仕事をしたり,学習したりできれば理想的であろう。

(前号紹介の『スウェーデン式アイデア・ブック』フレドリック・ヘー レン著,中妻美奈子監訳,鍋野和美訳,2005年3月,ダイヤモンド社発行,p.63参照)

2.『スウェーデン式アイデア・ブック2』
フレドリック・ヘーレン,テオ・ヘーレン著,中妻美奈子監訳,フレムリング和美訳,
2006年7月,ダイヤモンド社発行,79p.

 この本は,前回紹介した上記の本の続編である。ここには,大人が子どもに学ぶ,自由な発想法が紹介されている。そのp.60からp.61までには,「24.創造性 vs. 学校―正しく考えるより、自由に考える―」という項目があり,いつの日か,メッセージとしての「正しく考えることは偉大であるが,自由に考えることはさらに偉大である」という碑銘がウプサラ大学の建物に掲げられる日がくることを願うと書かれている。正しく考えることを学んだ上で,自由に考えることを育まないと,学校は死んでしまう。自由に考えることができる最適の場所が図書館である

3.『FILING-混沌のマネージメント―』
株式会社竹尾編,織咲誠,原研哉,日本デザインセンター原デザイン研究所企画/構成,
2005年4月,宣伝会議発行,184p.

ファイリングと書いてあるから,ファイリングシステムの教科書かと思うかも知れないが,そうではない。全く反対に,「机の上を片付けてはいけない」「身の回りの仕事環境から苔のように,あるいはカビのように興味というものが培養されてくる。そこにどう水をやり栄養を与えていくかということ。」などというコピーが帯カバーにならび,さらに「脱・整理術―創造のためのファイリング。情報を活性させる方法とは」とある。

「1.輝きを混沌の中からつまみだす」の章では,編集者の混沌デスク,平凡社の編集記録(大学ノート),平凡社・岩波書店の編集室の一角,ポール・スミスのシステム手帳,バックミンスター・フラーのクロノファイル(時間軸に沿って蓄積され整理されたフラー自身の記録),田中一光の「色の引きだし」(色が透明なプラスチックの引きだしに入っていて,外からよく見える),立花文穂の「ダイヤリー」(旅の記録として現地で集めた素材を本に仕立てた。現物の表裏をコピーして綴じた本もある),織咲誠のマテリアルファイル(実物を透明ポケットファイルに収納したもの),銀閣寺の苔ファイル(仕切られた升目の箱に苔の実物が生えている。分類は「とても邪魔な苔」「ちょっと邪魔な苔」「銀閣寺の大切な苔」などで,それぞれの名札は全てが正式名称とは限らず、俗称を含む名称が書かれている),箱――ぴったりを発見する(ファイルする実物に合わせて容器を探し,それに整理する)などが,写真を中心に掲載されていて,見ているだけで,ファイリングの魅力に引き込まれてしまう

その後の章は,2.ほしい情報にたどり着くためのインターフェイス,3.ディテールに蓄えられた知恵,4.モジュールを調停する,となっており,読み進むにつれて,創造的な脱・整理術の世界が少しずつ開けてくる

図書館では,全ての資料が整理され,整然と配置されていると考えられがちであるが,必ずしもそうではない。図書は図書館分類で排列してあるが,新着図書は分類排列から除外されている。雑多な内容のものが集まっているので,最も興味を引き,利用されるのである。雑誌は誌名の五十音順に並んでいることが多いので,その内容は混沌としており,創造性に結びつきやすい。新聞やパンフレット資料も同様である。混沌のマネージメントという観点から,図書館資料全体の配置を考えるのも,創造性の開発には利用者だけでなく,図書館員にも大いに役立ち,新しい図書館構想の開発につながるのではないかと思う。

4.『POST-OFFICE―ワークスペース改造計画―』岸本章弘,仲隆介,中西泰人,馬場正尊,みかんぐみ共著,
2006年2月,TOTO出版発行,43p.

「ワークスペースをデザインすることは,この時代の大きな命題にな るだろう。」と帯カバーに書いてある。さらに「働き方が変われば,そ の環境も変わる。」とも書いている。日本では事務系といわれた人たち が,机に座っていれば仕事をしていることになっていた時代が長く続い た。しかし,「多様化する職種,流動化する組織や勤務形態,コミュニ ケーションツールの進化,そして働くことの目的や意味の変化等々の複 合要因が働き方を決定的に変化させている。」

そこで「ワークデザイン」という考え方が重要になる。ワークデザインとは,働く環境のデザインを意味する。働く環境とは,単なる場所 (スペース)だけを指すのではなく,そこで使われる道具(ツール), そこでの働き方や制度,組織(スタイル)を含む概念である。

知的な仕事の質を向上させるためには,ワークデザインに十分な配慮 をしなければならない。急激な社会の変化,価値観の多様化,働く意味 の変化などが,ワークスタイルに影響を及ぼし,働く場所が執務空間か ら離れて無限に広がり,仕事の内容も複数の分野にまたがる課題に取り 組む機会が増えた結果,コラボレーションと多様化が普通になった。情 報ツールを駆使して仕事を進めることがあたりまえになった。さらに, 働く環境を自分でコントロールし,デザインすることが重要になってき た。

組織レベルのワークデザインが必要な時代になったのである。そのポ イントは4つ。すなわち,(1)相互作用の活性化,(2)活動,能力,仕事 の可視化,(3)発想支援,(4)アイデア・経験の資源化である。これら4 つには,スペースの要素がそれぞれに含まれている。そこで,本書の扱 っている「オフィスとスペース」が重要な要素になるのである。図書館 を仕事や学習の場として,効果的なデザインスペースを配置するための アイデアが集約されている。現代の図書館は,ひまな人が,特に本が好 きな人だけが利用する場所ではないのである

『考具』加藤昌治著、2003年4月、ティービーエス・ブリタニカ(現 阪急コミュニケーションズ)発行,239p.

本書では,「考えること」あるいは「企画すること」を仕事にする人 のための「考えるための道具」を『考具』と呼んでいる。考具を手にす れば,アタマとカラダが「アイデアの貯蔵庫」「企画の工場」に変わる と書いてある。 第6章では,「情報メディア」「プロダクト」「リアルな環境」「オ リジナルアイテム」について記述している。これらは全て図書館そのも のである。例えば,本,新聞雑誌,ウェブサイト,辞書,地図,データ ベース,椅子,机,人間,空間,スクラップブック,情報ファイルなど である。図書館は考えるための道具,考えるための空間であると考える ことができる。

(戸田光昭/駿河台大学名誉教授)


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