温泉情報リテラシー
温泉情報の収集と活用―五感情報リテラシーの典型―

戸田光昭(駿河台大学名誉教授)

2005年の年末に,機会があって,急に高知へ2泊3日の旅行をした。まず,最初に頭に浮かんだのは「馬路村」であった。「四万十川源流」というテーマもあったが,年末の2泊3日では無理だろうと考え,馬路村に決めた。しかし,馬路村には宿泊場所があるか。高知空港から直接行けるのか。その移動手段は何か。インターネットでは,細かな部分が分からない。時間も足りなかったので,高知市内ホテル2泊という予約をしただけで,夕方の東京・羽田空港から夕日に映える富士山を機窓の右手に見ながら,高知へ向かった。

高知市のホテルには19時頃に着いた。すぐにそのホテルの宿泊料金とセットになっている高知市郊外の温泉へタクシーで往き,入浴後,夕食をとり,またタクシーで市内へ戻って,その夜は,静かにホテルで泊まった。翌日は,本命の馬路村である。馬路村に決めた理由は「ゆず酢」もあるが,温泉が最大の理由であった。朝,市内電車で高知駅へ向かう。駅前の旅行案内所で詳しく調べてもらった。有名な馬路村であるが,観光客の問い合わせは多くないらしい。ベテランの男性所員は,かなり時間をかけて,自分自身もまだ行ったことのないという馬路村への交通手段を調べてくれた。結局,土佐くろしお鉄道ごめん・なはり線に乗り,安芸駅で馬路村行きのバスに乗り換えるのが最適であるということになった。

馬路村には午後3時前にようやく到着。帰りの終バスは5時なので,2時間ほどしかない。村営温泉へ急ぎ,入浴する。十数人で満員になりそうな小さな湯船で,大々的に宣伝できない理由が分かったような気がした。しかし,これは本当に良い温泉であった。無色透明なのであるが,何とも肌に優しい泉質であった。貸切り同然で乗ったバスの運転手さんの言葉によれば,馬路温泉のある安田川近辺には,同様な泉質の温泉が幾つかあるという。地元の人しか知らない良質で小さな温泉が土佐にもあったのだ。

温泉情報を集めるだけであれば,ウェブ情報も含めて,これを収集することは,それほど難しくない。特に最近では,インターネットからのウェブ情報源は,検索エンジンの高度化に伴って,ほとんどの情報をインターネット経由で入手することが可能になった。適切な情報を得るには,情報源に関する基礎的な知識,検索手法の基本技法,関係専門分野に関する理解と知識など,その基本となることがらの上に立った能力が要求されることは当然である。温泉情報リテラシーは,人間の五感(視覚,聴覚,嗅覚,味覚,触覚)から考えると,その全ての感覚を使って情報を集めないと,温泉情報には到達しない。これが他の分野と大きく異なる点であり,難しい点でもある。

温泉はまず視覚,即ち見た目が重要である。

「白骨温泉」に於ける他の温泉源からの白濁湯混入事件は,その重要性を浮き上がらせたということができる。

聴覚はあまり関連がないように思われるかも知れないが,温泉場には,音響効果が大きな役割を果たしている。

温泉風呂そのものと,風呂場の環境である。

さらに,嗅覚は,それぞれの温泉の特色を大きく示すものである。

そして,温泉の成分を明らかにするものでもある。

味覚は,飲む温泉療法も古くから存在しているように,温泉にとって重要な要素で,嗅覚と並ぶものである。

触角は,入浴に際して,人肌に感じるところであろう。

泉質,泉度,泉温,泉感など,本来の温泉に求められる要素といえるかも知れない。

以上のような五感の全てを取り入れた情報リテラシーは,まだ完成していない。今のところは,現地へ行ってみなければ,温泉情報を総合的に入手することは出来ない。個々の情報収集は,単独ならば可能であろうが,総合的な収集・活用手法は今後の課題であると言わざるを得ない。しかし,これが理想的な情報リテラシーのモデルであることも確かである。その点では,温泉情報リテラシーは,総合五感情報活用の最先端を行くものであると言えよう。

(K.H)

※1 「(1)第5回フライデーナイトセミナー報告」『<CUE>利用教育委員会通信』58,2005.7.(URL最終確認:2006年5月13日)http://www.jla.or.jp/cue/mm-58.html

※2 「第5回フライデーナイトセミナー開催:情報検索指導法の改善に館種を越えて高まる関心」『図書館雑誌』99(7),2005. 7, pp.422-423.


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