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日本図書館協会の見解・意見・要望

2010/08/09

公共図書館にDAISY資料を備え、さまざまな情報障害者への情報提供を保障する事業の実施のための予算化について(要望)

1 趣旨
 国民読書年である本年1月1日に改正著作権法が施行され、公共図書館、大学図書館、学校図書館等および国立国会図書館において新たに著作権法第37条に基づいて障害のある利用者の求めに応じてDAISY図書等資料(以下DAISY資料)を製作、提供できることになった。
 この著作権法改正は、当協会が長年にわたり要望を続けてきたものであり、また、障害のある図書館利用者に大きな期待を抱かせる朗報ではあるが、その期待に応えるためにはサービスの飛躍的な拡張を支える予算措置が不可欠である。
 この事業は以下に述べる現状などから、急ぐ必要がある。地方公共団体にのみ委ねることではなく、国としてその推進を図るための特別な措置を実施すべきであると考え、要望するものである。
 DAISY化については、視聴覚障害者情報提供施設に対する予算措置は従来からされてきた。とりわけ平成21年度には厚生労働省の補正予算による拡充の措置があった。ところが公共図書館に対する施策は皆無である。今回の著作権法改正の趣旨を活かすためには、公共図書館に対してもサービス拡充のための予算措置は採られなくてはならない。
 現在各省庁は来年度予算要求に向けての作業を行っているが、これに組み込むべきことがらとして必要な予算措置をまとめ、貴文部科学省に要望するものである。
 

2 DAISYとは(解説)
 DAISY(Digital Accessible Information System)は、「アクセシブルな情報システム」と訳し、さまざまな障害者が情報にアクセスできるよう配慮されたデジタル資料で、国際標準規格となっている。いままでのカセットテープによる録音図書等資料にはできなかった、章・節・項等への頭出しやページへのジャンプ等、見出し機能(ナビゲーション機能)を持っている。
 DAISYには以下のものがある。その中で、現状で最もいろいろな障害者が利用できるものはマルチメディアDAISYである。視覚に障害のある人にはもちろん、肢体障害者・精神障害者・知的障害者・学習障害等の発達障害者・入院患者等さまざまな人の利用が見込まれる。
(1) 音声DAISY:見出し(ナビゲーション)と音声のみのDAISY資料。点字図書館を中心に多数作られている。
(2) テキストDAISY:構造化されたテキストデータのみのDAISY資料。音声合成エンジンで読ませることにより簡単なマルチメディアDAISYにすることもできる。また点字ディスプレイで点字として読むことができる。
(3) マルチメディアDAISY:音声、テキスト、また必要により静止画像を同期(シンクロ)させて表示するDAISY資料。さまざまな障害者が利用できる。
(4) 次世代マルチメディアDAISY:動画も合わせて再生できるもの。手話等も表示できる。 現在開発中。


3 公共図書館におけるカセットテープ資料、DAISY資料の現状
 公共図書館では点字図書館を含む全国的な相互貸借システムを活用し、カセットテープなど録音資料の郵送を中心とした貸し出しを行っている。ただし製作済みの録音資料の相互貸借だけでは充分でないことから、障害を持つ利用者のニーズを保障するために、自館で製作して提供する館も多い。特に幅広い分野の多くの蔵書を持つ公共図書館に寄せられる障害者のニーズは、点字図書館でも製作されていないものであることが多い。
 「点字図書・録音図書全国総合目録」(国立国会図書館)に登録している録音図書を製作している公共図書館は全国で138館である。これまで長い間カセットテープで製作し提供してきたが、カセットデッキなどアナログ録音機の終焉はもちろん、カセットテープそのものも粗悪品が多くなり、安定した良質の資料の製作や、これまで製作したカセットテープの保存と提供が危うくなってきている。またカセットテープレコーダーの使用者も減っている。
 点字図書館においては1998年から2001年にかけての厚生労働省の予算、事業により音声DAISY製作及び再生機器の貸与と製作講習会が全国規模で行われ、さらに過去に製作されたカセットテープ資料約3000タイトルが国の予算で音声DAISYに変換された。この取り組みにより点字図書館では音声DAISYの製作が一般化し、カセットテープでの録音資料作成は激減している。それに伴い、障害者のニーズはカセットテープからDAISYに大きく移行してきている。
 一方公共図書館の障害者サービスの実態は、昨今の財政難や図書館職員の正規雇用職員の減少、非正規雇用職員の増大等により、新しい録音資料製作システムの導入が進まず、DAISY製作ができない図書館が多い。さらにこれまで製作してきたカセットテープ資料のDAISY化も進んでおらず、またカセットテープレコーダーを持たずDAISYを求める障害者に、資料を提供できない事態も生じている。それは以下のデータを見ても明らかで、カセットテープ資料に比べ、DAISY資料の所蔵数が著しく低い。
公共図書館の製作録音図書数
(国立国会図書館「点字図書・録音図書全国総合目録」2010年7月20日現在から)
・カセットテープ図書 54,587タイトル
・DAISY図書     6,442タイトル
 このままでは、今までに製作された貴重なカセットテープ資料が数年で使えなくなる恐れがあり、早急な対策が必要である。
 なお、マルチメディアDAISYは、障害者にとってより望ましいものであるが、本格的に製作を行っている公共図書館は現在のところない。


4 諸外国のDAISYへの取り組み
米国
・米国のデジタル録音資料の規格であるANSI/NISO Z39.86-2005は、スイスに法人格を持つ国際非営利法人であるDAISYコンソーシアムが管理するDAISY3と同じものである。
・連邦法によりDAISY3のサブセットである全国指導教材アクセシビリティー標準規格(NIMAS)形式の教科書を通常の印刷物を読むことに障害(print disability)のある学生(幼稚園から高校)にNIMACセンターあるいは仲介機関を通じて提供している。
・米国議会図書館はDAISYコンソーシアムに加入し、DAISY3規格の録音資料と日本製の再生装置を全国に貸し出している。
・専門書10万冊を教育省がBook shareに委託して5年計画でDAISY化を進めている。
スウェーデン
・公共図書館、学校図書館、大学図書館では、通常の印刷物を読むことに障害のある人々にDAISY資料をTPB(国立点字・録音図書館)から直接ダウンロードして提供するサービスを始めている。
・TPBは、対象の学生にDAISY教科書を無料で提供しており、学生は直接TPBからダウンロードできる。合成音声とテキストのDAISYが主流。
・小学校から高校は、SPSM(国立特別支援教育庁)が財政支援を行う商業出版社が製作するDAISY教科書を購入して対象児童・生徒に配布している。
・SPSMは、手話教科書を作るためのDAISY規格改定を提案し、DAISY4規格によってそれが実現する予定。
ノルウェー
・NLB(国立盲人図書館)がスウェーデンのTPBと音声合成エンジンを開発し、合成音声で読ませたDAISY資料を通常の印刷物を読むことに障害のある人々に提供する。ストリーミングでの提供が開始され、まもなくオンライン貸し出しが可能になる。
・NLBが対象の学生にDAISY教科書を製作・無料提供、また必要に応じて大学に作成をしてもらうため大学に技術移転も行っている。
・NLBはオンラインで利用者が自らDAISY化するシステム(DAISY Pipe-online)を利用者に提供。
・視覚障害者のセンターが小学校から高校までの対象児童・生徒にDAISYの製作と提供を行っている。それらの教科書は学校が購入する。
デンマーク
 NOTA(国立点字図書館)は、視覚障害者やディスレクシアに対してDAISY資料を提供している。
オランダ
・国が助成をするDediconと呼ばれる団体が通常の印刷物を読むことに障害がある人々に合成音声とテキストのDAISY資料を提供している。公共図書館等はDedicon から購入する。・Dediconは、教育市場の大手出版社数社と連携し肉声のマルチメディアDAISY教材を開発しストリーミングで提供する。
フィンランド
・CELIA(国立点字図書館:読むことに障害がある人のための国立図書館)は視覚障害者と通常の印刷物を読むことに障害がある人々にDAISY提供を行っている。現在、ストリーミング配信を行い、まもなくDAISYオンライン貸し出しの体制ができる。
・CELIAから対象大学生には無料でDAISY教科書が提供されているが、小学校から高校   までの学校はCELIAから購入して対象生徒に提供する。
オーストラリア
  国立図書館も加わるVision Australiaにより、高齢者と障害者に全国的な電子図書館サービスを提供している。そこでDAISYフォーマットが使用され、オンライン貸し出しが主流になろうとしている。
韓国
  国立図書館はこれからDAISYを製作・提供する予定。


5 要望の具体的事業内容
1 公共図書館が所蔵するテープ資料のマルチメディアDAISY化を促進する。
  全国の公共図書館が所蔵している障害者用テープ資料を一括して、DAISY化する事業を実施する。
    必要経費  4億1,000万円 
(1) 事業の手順
  国の委託を受けた団体、機関が、
   1)全国の図書館が所蔵しているテープ資料の中から、DAISY化の必要なものを選定し、
   2)選定した資料のテキストデータを作成し、
   3)マルチメディアDAISY資料として編集する。
   4)出来上がったマルチメディアDAISY資料は、原テープ資料所蔵館に提供するとともに、必要とする図書館に提供する。
(2) 経費
  1)1タイトル(平均10時間の録音)のテープ資料のマルチメディアDAISY化への変換    40,000円程度
  2)DAISY化資料数 10,000タイトル
  3)その他諸経費  10,000,000 
  (3) 事業方法 これらの作業が行える団体、機関に委ね、製作は専門企業に委託する。
(4) 事業期間 2~3年の事業期間(予算・製作数による)
2 新たなマルチメディアDAISY資料の作成
(1) 事業の手順
図書館で所蔵していないテープ資料(教科書、教材等を含む)を新規にDAISYとして製作すべきものをリストアップし、その製作を実施する。
 必要経費  1億5,000万円
   1)1タイトルのマルチメディアDAISY資料作成費   70,000円
   2)DAISY化資料数 2,000タイトル
   3)その他諸経費  10,000,000
(3) 事業方法 これらの作業が行える団体、機関に委ね、製作は専門企業に委託する。
(4) 事業期間 2~3年の事業期間(予算・製作数による)
3 各図書館におけるDAISY資料の製作の推進
以上の全国規模のDAISY化と並行して、各図書館におけるDAISY資料の製作の推進を図る。
   必要経費  5,000万円
 (1) 製作機器整備の支援
   DAISY資料製作のために必要な機器の購入について補助する。
 (2) 経費
   1図書館当たり機器一式 500,000円
     パソコン、スキャナー、DAISY再生機、マイク等
 (3) 対象図書館
   100館
 (4)事業期間
   3年


6 予想される事業の効果
 マルチメディアDAISY資料の有効性はすでに証明されているが、国際的にみて日本の対応は著しく遅れている。
 公共図書館にさまざまな障害者からの利用要求が寄せられているが、改正著作権法等からさらに多くなることが予想される。そのような中で、技術的にも有効なマルチメディアDAISYを公共図書館に備え、多くの障害者の利用に供するのは大変有効である。
 特に公共図書館は身近にある施設であり、あらゆる障害者の情報提供窓口となりうる最も期待されている施設である。今まで図書館やそこから提供される情報にアクセスすることができなかった多くの障害者の利用が期待される。
 この事業は、資料のDAISY化、DAISY資料の製作を全国的なネットワークを通じて実施することを可能とする。無駄に製作することなく、効率的に多種類のDAISY資料の製作が実現できる。完成したDAISY資料は図書館の相互貸借ネットワークを通じて、全国的に活用することができ、障害者サービスを実施する図書館が飛躍的に増加することも期待できる。
 障害者は、経済的理由・情報へのアクセス方法の困難さ等から情報入手の困難な状態におかれている。そのような現状を解消する大きな手段となるものである。

以上
 

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