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熊本地震による図書館被害調査報告(第2次)
日本図書館協会災害対策委員会
委員 秋本敏 玉目哲廉
5月23日
1 菊陽町立図書館
被害状況
4月16日の本震で未固定のスチール低書架2本が倒れる、木製書架は固定していたため被害なし。閉架書庫の資料が棚から落下。4月21日に開館、5月19日から平常夜間開館を実施。電動書庫は使用可能。配管ダクトに被害。図書館の天井はゆがんだが業務に支障はなし。今後修繕を実施予定。破損資料なし。
ホールに被害。吊りものの土台のモルタルが剥がれ、屋根裏に被害、天井に亀裂、客席にキャットウォークが落下。吊りものの工事が必要とされており、7月末までにはホールの方も開きたい。
被災している周辺自治体住民の図書館の登録要件を緩和している。
市民むけに役所などの情報掲示板を設け情報発信に努めている。
災害の情報、対応の仕方がわかるサイト等があるといい。
(館長・職員説明)
2 合志市立ヴィーブル図書館
3階の水槽とつながる配管が損傷し3回水が漏れ、美術書、児童書約4,900冊とAV視聴ブースの機器及び椅子等と床が水損。市民から開館の声があるが、開館については図書館以外の複合施設の状況をふまえ全体的に判断したい。
開架高書架からの本の落下を防ぐために手前を高く奥を深くした傾斜棚にする工夫をしている。14日の地震の後、閉架書架を固定したので被害が最小限でとどまった。
今後、震災関連の新聞スクラップを実施したい。
(職員説明)
3 合志市立西合志図書館
5月20日開館。壁にクラックがあるが、図書館運営には支障なし。今後、クラックの充填修繕を予定。
例年行っていた5月22日・23日の図書館お泊り会(小6対象)を中止した。
人気のイベントだが来年度以降実施するのか判断が難しい。今も市民から再開の要望の声は多い。
(館長・職員説明)
4 熊本学園大学付属図書館
5月9日授業実施。被害は大学の全部に及んでいる。5月23日、全学で震災避難訓練を実施。
被害状況は1階、2階、3階と階が上がるにつれて木製高書架側板が本体から外れる被害が多くなっている。固定していなかった雑誌架は20cmずれた。
16日の本震で4階の給水塔の配管が断裂し、水が階段を伝って1階の床に達し、14日の前震で高書架から床に落ちた新書・文庫等約2,000冊が水損。2階のカード式目録ケースのスチール製脚部分が損壊。地下閉架書庫は、集密書架の筋かいが変形したものがあるが、稼働可能。1階玄関前と2階一部のみ学生が使用できるようにしている。
(職員説明)
5 熊本県立第2高等学校図書館
校庭を避難車両に開放したが、校舎に被害があり、避難所としては使用不可。図書館は、建物土台に亀裂が入り、書架転倒により、資料が落下。現在図書館は立ち入り禁止。書架は、未固定。教室にも被害があり、授業も学年で午前・午後などと区切って実施している状況なので仮校舎が必要。図書館の開館は未定。
サービスを再開したいが、代替施設もきまらず今後が不安。とりあえず進学する生徒に情報の提供を努めたい。
(職員説明)
5月24日
6 熊本市立図書館
耐震性は問題なし。4月21日一部開館。
2階のホールは、5月中は福祉給付金受付のために、福祉に貸し出している。集会室は避難所として使用。30名受け入れ。24時間開放、夜間警備委託。
4月16日本震で、図書が落下。壁面に取り付けた書架が傾いているため立ち入り禁止のテープを張っているが、利用者は手が届くので貸出しは可能。参考室は立ち入り禁止。閉架書庫は修繕が必要。
公民館図書室は15館のうち13館が開館、1館が使用不能で建て替えが必要。予約は不可。
震災の新聞記事の掲示、関連図書の展示を実施。5月6日『やっぱりおうちがいいな』(熊本市子ども発達支援センター作成の紙芝居)を掲示(写真)。
(館長説明)
7 益城町立図館
併設の体育館が避難所となっている。図書館カウンター付近を避難所として使用。建物被害なし。書架の転倒はないが、図書は落下。吊照明が落下。修理のめどが立っておらず閉館中。館長は、避難所責任者の立場にあり、職員も避難所対応に追われている。図書館の開館準備等は、嘱託職員が行っている。閉架書庫の集密書架が転倒。
避難所入口に本を置いて避難者の閲覧に供している。2週間に1度入れ替え作業を行っている。
スタッフの話から。
・開架部分の照明設備はほとんどやりなおさないといけない。
・書庫修繕の展望が見えない。
・学校への配本を実施したいが、展望がない。
・避難所にするときカウンター周りの資料等が片付けられ付録CD等が廃棄されてしまった。
(職員説明)
8 菊池市泗水図書館
NPO法人運営。建物被害なし。5月6日開館。震災後ロードマップを作成して、開館に至っている。図書館は安全なところだと思ってもらいたいので本が落下している写真は掲載しなかった。
避難所に出張読み聞かせ実施。配本サービス実施。
(職員説明)
9 大津町おおづ図書館
開架低書架1本のアンカーボルトが浮いた状態で工事が必要。現在は応急的に床に固定。本棚の上2段の図書は、書架に沿って床置きで利用してもらっている。電動書架の安全装置の基盤が破損し使用不能。軒下通路のレンガが揺れて動いている。展示コーナー飾り板1枚落下。図書館の発議で、教育委員会に諮り、5月2日開館。
6月18日に寄贈された本の頒布(ブックシェアーデイ)実施予定。「災害ストレスから家族のココロとカラダを守ろう」同時開催。貸出しは落ちているが、赤ちゃんお話会は震災以前の利用数に回復しつつある。
(館長・職員説明)
5月25日
10 熊本県立図書館
被害状況
:本震でつりさげ式照明器具(特注品)が落下。3階漏電。閉架書庫書架(自立式)が傾斜・変形。3階開架ガラス防煙たれ壁が落下。資料破損2,000~3,000冊修理済み。余震に備え閲覧室書架の上部の本を書庫入れにしている。
6月1日に1階子ども室開館予定。他は修繕終了後開館予定だがめどは立っていない。
県内の情報収集については、本震があったため、これから調査する。
(職員説明)
11 熊本県立第1高等学校
天井に被害。開架書架の間隔が広かったため将棋倒しは避けられた。閉架周密書架の図書が落下しているが、手つかずのまま。業者による調査も未実施。
(職員説明)
12 くまもと森都心プラザ図書館
30万冊落下。吊ものの修理(カウンターサイン等)が必要。5階空調、スプリンクラーからの漏水により3・4階が水損。落下した図書2,000冊が水濡れ被害。現在も水漏れは続いており、4階天井の石膏ボードが水を含んだ状態の落下の危険あり。4階の書架はビニールまたはブルーシートで資料ごと覆っている。
キハラによる除菌ボックス等貸出し支援に助かっている。空調が破損しているため館内の温度が調整できない。夏に向かって不安。
指定管理者のため、水損資料の扱いが難しい面がある。災害について契約上は協議事項となっている。
(館長・他説明)
被害状況概観
4月14日の前震で本の落下程度であった被害が、16日本震によって大きな被害が出ている。また大きな余震がいつ来るともしれず、職員の不安は大きいと思われる。
幸い、津波や火災による被害がないため東日本大震災のような建物の崩壊等の大規模被害にはなっていない。閲覧室は、落下した本を戻すことによって多くの図書館が開館しているが、閉架書庫の集密書架が変形または転倒している図書館もある。免震構造の集密書架が、図書の落下によって書架下部に挟まり、免震できずに転倒や変形があった図書館がある。現状では、書庫については復旧のめどが立っていないところが多く、また手つかずの状態となっている。余震の不安もあるため安全が優先される。
今後の支援については、県立第2高等学校図書館のように、資料の段ボール入れや仮図書館ができた場合の配架支援等が必要になる図書館もある。また、今後閉架書庫の集密書架の修理が進むにつれて、配架作業等の支援が必要になると思われる。
熊本地震による図書館被害調査報告(第1次)
平成28年熊本地震による図書館の被害状況
日本図書館協会 図書館災害対策委員会 川島 宏
はじめに
図書館災害対策委員会では、熊本地震による図書館の被害状況を把握し、有効な支援につながるよう努めている。熊本での調査の日程を調整したが、諸般の都合から、1次の訪問と2次の訪問に分けることとし、1次は施設委員会の委員でもある川島(建築士)が5月16日に熊本入りした。15の館を訪問し、施設寄りの視点から調査した。内3館は休館日や再開準備中で、外観や掲示物を確認した。
大地震は、前震も本震も夜間に発生したため、図書館で人的事故が無かったことは幸いであり、人身に関する聞き取りはしていない。また、図書館システムのトラブルは調査した範囲ではなかった。以下、目たこと聞いたことによる、訪問順の記録である。
5月16日(月)──────────────
(1) 宇土市立図書館
宇土市は市庁舎が壊滅的被害を受けたが、図書館は道を隔てて近くに建っている。図書はほとんど落下し、固定されていなかった壁面の書架が転倒した。建物の主要構造は無事と見えたが、内外の壁にヒビが複数あり、ガラスは1か所割れ、犬走りに割れが見られた。
5月10日から1階の児童室のみ開館したが、余震への警戒から、貸出しサービスのみとしている。2階の一般開架室は書架の固定・補強が未了のため、立入り禁止としている。(館長の説明)
(2) 熊本県立図書館
本の落下は全体の6割に達し、書架へ戻す作業は継続中であった。建物の構造部分や内装全般に被害はなかったが、吊り下げ形の照明器具の一部が破損しており、ガラスの防煙たれ壁の破損があるあるため、再開には改修工事を要する。窓ガラス1か所にヒビあり、閉架書庫のスチール書架は一部が変形している。(館長と情報支援課職員の説明)
(3) 菊陽町立図書館
開館していると予想し(火曜休館)、事前に連絡せずに訪問したが、休館中で「一斉点検・整理の作業を行うため、5月10日(火)から18日(火)まで休館」との掲示があった。
ホームページの情報では、4月21日より再開したが、図書館ホールは補修工事を要する。
(4) 大津町立おおづ図書館
休館日であったが掲示等を見るため訪問した。駐車場に「5月3日(火)から開館します」と掲示があり、入口には、水曜の夜間開館は当面行わない旨の掲示があった。落下した本は余震による再度の落下を警戒し、上部2段のものを床に置いている(窓から目視、ホームページ確認)。
(5) 合志市ヴィーブル図書館(ヴィーブルは、体育館・文化会館・福祉会館・歴史資料館で構成される大型複合施設で、図書館は分館)
消火系設備が破損し、複合施設の各所の天井から、水が大量に落ち、それに伴い天井材も落下した。図書館でも3か所で天井から水が降ってきた。設備の入念な改修工事が必要。(生涯学習課職員の説明)
ヴィーブル図書館内では4,900冊の資料(絵本・美術全集)が水損した。この中には閉架の除籍予定の絵本も含まれ、書庫の水損ではカビが生じたため、処分することとした。図書以外にも、お話し室の畳やAVコーナーの機器等に水がかかり、処分するものは多い。(司書の説明)
泉ヶ丘市民センター図書館(分館)は、施設は無事だが、センターに避難者がいるため、再開のタイミングを待っている。(生涯学習課職員の説明)
(6) 合志市西合志図書館(本館)
再開準備中。本来休館日で夕刻のため外観のみ確認。「5月20日(金)に再開予定」の旨の掲示あり。ヴィーブル図書館での聞き取りでは、本が落ち、建物に少しクラックが生じたが、問題となるものではない、とのこと。
17日(火)────────────────
(7) 熊本市立図書館
本館は、建物被害はほとんどないが、壁面書架の一部に傾きが生じ、簡易な置き家具が転倒した。閉架書庫内では集密書架の一部に不具合がある。図書は開架の1~2割が落ち、閉架の7~8割が落ちた。
4月21日から再開したが、改修・補強措置を待っているため、資料室ほか、不安が残る書架がある部分を立入り禁止にし、本の整理が続く閉架の利用は一部に限定している。(館長と館長補佐の説明)
熊本市立とみあい図書館は、建物被害は天井付けエアコンが一台破損し、少し水損があった程度で済んでいる。同所にある多目的ホール「アスパル富合」は避難所になったが、避難者は他に移り、再開の準備を進め、今日17日再開した。(館長の説明)
(8) くまもと森都心プラザ図書館(複合施設の3・4階)
ほとんどの本が落下した。5階(ホール・多目的室)のスプリンクラーが破損し、水は4階から3階にまで回って、落下した図書約2,000冊に水損があった。5月6日より3階を部分開館したが、天井裏の水の除去や設備類の復旧、書庫内の家具復旧など、工事を待っている。(職員と館長の説明)
(9) 熊本学園大学附属図書館
建物本体の損傷はわずかだが、4階に設置された設備水槽の配管が破損し、図書館内に水が回った。開架の新書・文庫が約2000冊水損し、処分することとした。木製書架の破損が著しいため、点検・修理のために図書類はテーブル置きやダンボール詰めをした。ごく一部を学生が利用できるようにしているが、本来の図書館機能は休止している。(図書情報課長の説明)
(10) 熊本大学附属図書館
中央図書館では図書は大量に落下したものの、施設の被害は少なかった。5月9日から地下書庫を立入禁止にして、学生を入れている。書庫内の整理は慎重に進めている。
医学系分館と薬学系分館では、一部の書架が破損するなど少し被害があったが、部分再開している。(職員の説明)
18日(水)────────────────
(11) 熊本市立城南図書館
7~8割の図書が落下した(写真を拝見)。ガラス製の防煙たれ壁が割れたが、改修済み。西側の壁など複数か所の壁が内外とも破損した。破損部分の改修を進めながら、部分的に開館している。閲覧席は使用禁止の措置。 (中央図書館での説明と館職員の説明)
(12) 宇城市立中央図書館(不知火図書館)
金属製の天井材が揺れ動いたと思われ、変形や一部でのぶら下がりや落下が生じた。外壁や内壁に破損が生じ、3枚のガラスが割れた。また、家具や建具の損傷も目立つ。外部では、周囲の沈下と見られる段差等が見られた。天井の損傷は、安全性に直結するため、慎重な判断や設計、施工が求められるため、一定の工事期間とそれに伴う休館期間を要すると思われる。(総務職員の説明)
(13) 御船町立図書館
この施設も震源に近いが、図書館施設は概ね無事であった。図書館が入るカルチャーセンターには一部の損傷があったが、避難者がいて、罹災証明の発行の場に図書館を使うかもしれないとのこと。再開の予定は見えていない。(職員の説明)
(14) 平成音楽大学図書館(御船町)
校舎2棟が、構造体にダメージを受けるなど、キャンパスの被害は甚大。図書館がある鉄筋コンクリート造3階建ての1号館は、危険状態になり、かろうじて持ち出した約9割の資料を体育館に仮置きしている。資料には楽譜・洋書等、貴重な資料も多く、授業の再開と共に、学生の利用要望もある。授業を始めとする大学機能の立て直しに尽力しながら、図書館サービスをどう再開するかも検討中とのこと。(職員の説明)
(15) 益城町立図書館
多くの町民が避難している体育館と隣接しており、図書館の一部も避難者のために提供されている。入口ホールや閲覧スペース(書架以外の所)の一部で避難者が寝起きし、読書席がボランティアの打合せに使われていた。訪問時、図書館サービスの再開の予定は未定であったが、連休あけから入口ホールに書架を2つ置き、貸出扱いにした図書・雑誌を自由に利用できるようにしている。
図書は大量に落下したが、建物の被害は少ない。家具・設備では2階書庫の集密書架にゆがみが生じており、修理しないと使えない様態であった。開架スペースの吊照明の多くが落下していたが、頭上からの落下物は危険である。(館長と職員の説明)
図書館の被害の特徴
熊本地震は直下型であり、激甚な揺れが何度も発生した。続く余震の頻度も多い。大火災は発生せず、津波の被害がなかった等、過去の大震災と様相の違いがあり、不幸中の幸いとも言えることがある反面、繰り返される揺れによる建物のダメージは大きい。地すべり等の被害が生じた、南阿蘇村の東海大学は、幹線道の橋が落下するなど、危険かつアクセスに障害があり、訪問を断念した。直下型の地震被害は、被害が生じるエリアが狭く、そして激しくなる傾向がある。今回の訪問館は半径20キロの円に入る範囲で、東日本大震災の被害の広がりとは違う。
訪問した館の多くの館で大量の図書類が落下したが、一般書架から落下することは、やむをえないと思われる。ただ、大きな余震が起こりうるとの警告があるなか、閉架書庫内など、本の密度の高い場所での復旧作業は慎重さが求められる。書架が明らかにダメージを受けているなど、安全確認ができない場では、作業をしない、入室しないという判断をしている館もあり、本震後、まだ1か月しか経っていないタイミングでは妥当な判断であろう。