『図書館の自由』第93号(2016年8月)に記事を掲載しましたが、新たな製品や学校図書館での導入事例もでてきたことから、追記を加えました(2018/05/01掲載)。
1.問題意識
「読書通帳」と総称される、個人の「図書館での借受履歴(あるいは読書履歴全般等)」を記入するためのノート(手帳)を図書館が提供するサービス(以下「いわゆる「読書通帳」サービス」という)は、その開始当初(1992年)より貸出履歴保護の観点からの疑問点の指摘もあったが、当初の形態では本人による記入方式であり、図書館による貸出記録の管理とは別のプロセスとして認識されてきた。
その一方、いわゆる「読書通帳」サービスの実際はその後の流れの中で、その提供形態や図書館の貸出履歴データの提供(活用)のされ方、図書館システムとの連携の観点から、まったく異なる内容のサービスとしておよそ3種の形態で発展してきている。そのため、図書館の貸出履歴保護・情報セキュリティ保持の観点からの評価の論点もそれぞれ異なるものとなってきているが、サービスの総称としては「読書通帳」が定着してきており、3種のサービスの内容実態に即して、評価の論点を切り分けて整理する必要が生じてきている。
そこで、「図書館の自由」とりわけ貸出履歴保護・情報セキュリティ保持の観点から論点整理を行う前段階として、いわゆる「読書通帳」サービスの状況を整理してみた。
2.状況の確認
いわゆる「読書通帳」サービス提供の流れと分岐については、和知剛「読書通帳の静かなブーム」(カレントアウェアネス No.323)がよくまとめてあり参考になる。
ここで、和知がサービスの提供形態を以下の3タイプとしてまとめているのは、現在にいたっても妥当性のある分類と言え、その後のニュースを辿っても同じカテゴリーで状況を把握できる。
1)自書タイプ:利用者が自分で貸出記録を読書通帳に書き込む
2)お薬手帳タイプ:貸出記録が印字されたシールを読書通帳に貼り付ける
3)預金通帳タイプ:専用の機械で貸出記録を読書通帳に印字する
なお、和知以後の特徴的な動きとしては、内田洋行の読書通帳mini(廉価版)のリリース(2015年11月)と導入数の増加、内田洋行「読書通帳」の商標登録、ライトキッズ株式会社「図書通帳」が特許取得(2016年4月)と茨城県ゆうき図書館ほかでの導入などが挙げられる。
図書館サービスとしての評価は概ね良好であり、子どもと読書、図書館と子どもをむすびつけるツールとしてはよく出来ている。ただし公表されている効果に幅があり、継続して同じパフォーマンスを発揮出来るかどうかは未知数でもある。学校図書館では、従来からある「読書指導」と図書館・司書の役割をめぐる論点切り分けに即して評価する必要がある。タイプ3)は、小規模自治体や図書館発展途上自治体の起爆剤としての活用例が目立つように思える。
3.論点の整理
図書館サービス展開上のツールとしてはよく出来ているが、個人情報保護・情報セキュリティ保持の観点から、「2)お薬手帳タイプ」、「3)預金通帳タイプ」について整理・確認し、考え方を周知する必要がある。
和知が「よって読書通帳は、利用者自身による、貸出記録の管理と活用を図るためのツールである、と言うことができる。」とする場合の「利用者自身による」のシステム的前提としてある、図書館システムとその貸出記録の扱いに留意し図書館の貸出記録管理・情報セキュリティ保持の観点から見つめ直すならば、図書館システム上の貸出履歴の活用の有無・活用の方法により同じ3分類でも次のような整理が成り立つ。
1)自書タイプ
図書館システムの貸出履歴データはまったく活用しない。
→図書館での借受記録だけではなく、その他の読書記録や読書以外の例えば映画を見た記録・感想の記録などにも活用することを推奨される場合もある。
2)お薬手帳タイプ
図書館システムの貸出履歴データを活用するが、データは専用サーバー内に留まる。
→NECのLICSは、パッケージのオプションとして貼付用のレシートを出力するシステムを用意している。パッケージであるため別サーバーにデータを転送する必要がない。
→データの活用は、貸出時の貸出レシートやWebの「マイページ」等で閲覧できる範囲に留まる(他のシステムも含め仕様の詳細についてはなお確認する必要がある)。
3)預金通帳タイプ
図書館システムの貸出履歴データを、別サーバーに転送(コピー)して活用する(内田洋行・ライトキッズ)。
→図書館システムとは別建て(後付け)で連携するために、別サーバーでのデータ管理が必要となる。
→その仕様上、貸出データを別サーバーに転送することが前提となり、インターネット接続がないのであればとりあえずのセキュリティ要件は満たしているが、個人情報の専用サーバーからの移動禁止原則に背反する。またその際、情報セキュリティ保護に留意していたとしても、いわゆる読書通帳サービスを活用しない利用者の貸出データも含めて別サーバーに転送したり、返却履歴がリアルタイムで反映されないなどの実例を聞いており、その場合、貸出記録はその資料が返却されれば即時消去されるという原則が保持されないまま貸出データが二重化することになる。
【2018年5月追記】
「3)預金通帳タイプ」は、その後2017年に新たに富士通からも製品が発表されている。
→製品説明によると、直接図書館システムの貸出データから印刷しているとのことであり、「2)お薬手帳タイプ」と同じ、別サーバーにデータを転送する必要がない仕組みといえる。このことから、先に「3)預金通帳タイプ」で述べた課題は、この製品では発生しないと考えられる。
4.現時点でのまとめ
これまでの状況整理によれば、「2)お薬手帳タイプ」については、データの活用は、貸出時の貸出レシートやWebの「マイページ」等で閲覧できる範囲に留まるものならば、「図書館の自由」の観点からの新たな課題は存在しない。
「3)預金通帳タイプ」では貸出データの二重化がおこっており、そのデータの転送・管理にかかわる仕様は用意されたオプションの範囲で図書館側が選ぶ形となっている。今後、各導入館での運用の現状を確認し、貸出履歴保護および図書館システム管理の観点からの考察ポイントを、当委員会として示して行きたい。
【2018年5月追記】
5.学校図書館における導入について
最近、「3)預金通帳タイプ」の読書通帳を、学校図書館に導入する事例も出てきている。
学校図書館における読書・貸出記録の取り扱いについては、『「図書館の自由に関する宣言1979年改訂」解説 第2版』の「外部とは」(38頁)で、「児童・生徒の利用記録が容易に取り出せないような貸出方法を採用することは、その前提」としている。また、学校図書館問題研究会では、学校においても児童生徒の知る自由やプライバシーを守ることが重要であるという観点から、貸出方式や学校図書館システムのあり方を含めて長年議論が行われてきたところである。
そのうえで、「3)預金通帳タイプ」を導入した場合、通帳を児童・生徒自身が管理するのか、教職員が管理するのかという点、また、特に教職員が管理する場合は、児童・生徒自身が取捨選択して残すことができない可能性が高い点など、運用面での「図書館の自由」の課題も指摘しておきたい。
さらに、市町村において公共図書館と学校図書館が共通システムを導入する事例もある。この場合、貸出情報(読書通帳)を含め、個人情報は公共図書館と学校図書館との間で相互に参照できないシステムでなければならない。
※関連文献
【各メーカーサイト】
リンクは2018年5月1日確認