日本図書館協会 > 図書館の自由委員会 > 資料室・声明・見解等 > 「個人情報保護に関する主な検討課題」に関する意見

「個人情報保護に関する主な検討課題」に関する意見

2006年9月25日、内閣府国民生活局企画課個人情報保護部会より意見募集があったので、日本図書館協会として図書館の自由委員会及び著作権委員会の原案により下記のとおり、2006年10月27日に意見を提出しました。


(1) 名称 社団法人 日本図書館協会

(2) 住所 東京都中央区新川1-11-14

(3) 電話番号 03-3523-0811、FAX番号 03-3523-0841

(4) 意見

(図書館と個人情報保護法制との関係について)

 図書館は、基本的人権のひとつとして知る自由をもつ国民に、資料と施設を提供することを、もっとも重要な任務とする。

 この任務を果たすため、図書館は、自らの責任において作成した収集方針に基づき、国民の知る自由を保障するために必要と考えられる資料を可能な限り収集する。

 また、図書館は、国民の知る自由を保障するため、人権又はプライバシーを侵害するなどの正当な理由がない限り、原則として国民にすべての図書館資料を提供する。

 このような観点から、図書館(これに類する機関を含む。以下同じ。)が収集し、整理し、又は保存する資料(非図書資料を含む。以下「図書館資料」という。)は、広く国民の利用を前提としたものであり、一部の地方自治体の条例において措置されているのと同様、個人情報保護法制の適用除外とする項目を設けるか、又は上記の収集、整理、保存、提供等を制限しない規定を設けることにより、すべての個人情報保護関係の法令又は条例の規定を見直していただきたい。
なお、図書館の事業、施策との関係で問題が生じているのは、以下の事例である。

(1) 図書館が作成し、提供する単一又は複数の図書館の所蔵する図書館資料に係る目録又はデータベースが「個人情報データベース」に該当するものと解釈されるおそれがある。個人が執筆等を行った書籍又は論文につき、当該個人名と書籍又は論文の題名とを列記することで、当該個人が識別される情報となり得るからである。したがって、このような目録又はデータベースを公開することが「第三者への個人情報の提供」に該当するおそれがあり、オプトアウト(本人からの申し出による当該個人情報の削除)の対象となり得る。
 その結果、図書館の所蔵資料を正確に利用者等に提供することが困難という帰結を招くが、図書館の設置の目的に照らして、このような帰結は妥当ではないものと考える。

(2) (1)よりも深刻な事例は、当該目録又はデータベースの作成にあたって同姓同名の著者を見分けるために著者の生没年、職業を著者名に付して同定することを行う(それ以外に同姓同名の著者を見分ける手段がないからである。)が、当該目録又はデータベースの検索結果として、著者名とともに著者の生没年、職業を表示すると、個人情報の「第三者への提供」に該当するおそれがあり、オプトアウトの対象となり得るということである。
また、このような同定データは、図書館における当該目録又はデータベース作成作業のツールとして一定の質の確保が図られる必要があるため、共有することが求められる。ところが、このような提供は、同じく「第三者への提供」に該当することになり、提供が制限されるおそれが出て来る。このような帰結は妥当ではないものと考える。

(3) 2005年4月の、いわゆる個人情報保護五法の完全実施施行日以前の日において、上記目録又はデータベースの作成にあたり、公刊資料以外の情報源(文書、電話による問い合わせ等)により著者の個人情報を取得する場合があった。
 この方法により取得した個人情報を含む目録又はデータベースを第三者に提供しようとする場合、当該個人情報の属する本人に通知等を行わなければならないことになるが、このような帰結は妥当ではないものと考える。

(4) 図書館は、学術研究等に資する等の目的により、個人情報データベース(冊子体のいわゆる「名簿」を含む。)を収集し、人権・プライバシーを損なう場合などを除き、利用者に提供している。ところが、個人情報保護五法の完全施行に伴い、これらのデータベースの提供・公開を規制する必要があるとする誤解や報道があり、図書館の情報提供機能が大きく損なわれる状況も一部では生じている。
 図書館では、その行動規範として自ら「図書館の自由に関する宣言」を定め、個人情報保護法制が設けられる遥か以前から、個人情報の保護、人権・プライバシーの侵害への配慮と情報提供を両立してきている。したがって、多くの地方自治体の条例において明記されているごとく、図書館資料については図書館の利用規則による規整に委ねる条項を、すべての個人情報保護関係の法令又は条例に設けるべきものと考える。 

 (注) なおこの事態は、名簿類に限定されるものではない。一般書籍中にも奥付等に著者に関する個人情報が記載されたものが多くみられるからである。個人情報保護五法を厳密に適用することとなると、これらの一般書籍の利用者への提供も制約されることになるが、このような帰結は妥当ではないものと思われる。

(5) 個人情報保護法及び指針において、学校図書館の位置づけが明確ではない。大学の付属図書館が個人情報保護法第50条における「大学その他の学術研究」に該当するものと考えられることから適用除外の対象となり得るものと解釈できる一方で、高等学校以下の諸学校に設置される学校図書館に本条が適用できるかは不明である。学校図書館の果たす役割も大学の付属図書館と同様のものがあると考えられることから、「大学又は学校の学術、教育又は研究」と拡張することにより、学校図書館による情報提供活動にまで範囲を拡大することが必要であると考える。

(6) 文部科学省の告示による指針及び解説において、図書館に関する言及がないため、運用基準等が明確になっていない。早急に対応する必要があるものと考える。


(著作物の利用に必要となる情報の入手と個人情報保護法制との関係について)

 図書館は、国民の知る自由を保障するための機関として、小説、論文、絵画、写真、映画等の著作物を用いて国民に対して様々な情報提供を行っている。 

 その一方で、これらの著作物を複写、電子化、録音録画、録音録画物の再生、口述、ネットワーク送信、貸出し、FAX送信等(以下「利用」という。)を行おうとする際には、原則としてこれらの著作物について著作権法(昭和45年法律第47号。)においてこれらの著作物を創作した者(以下「著作者」という。)に付与される権利(以下「著作権」という。)を有する者(以下「著作権者」という。)から許諾を得る必要がある(著作権法の諸規定による)。

 図書館においてこれらの利用を行おうとする場合には、例外的に許諾を得なくてもよいとする規定が設けられている(図書の貸出し、音楽の館内再生、ビデオの館内視聴などの場合。以下「権利制限規定」という。)が、この例外規定に該当しないような利用を行おうとする場合(例えば、公共図書館において視覚障害者の利用に供するための録音図書の作成、図書の一部分を超える範囲における複写物の提供、資料の電子化など)には、著作権者の許諾を得る必要が出てくる。

 著作権者の許諾を得るためには、利用しようとする著作物の著作権の帰属の調査及び著作権者の所在の確認が必要となる。

 また著作権は、原則として著作者の死後50年を経過すると消滅し、広く一般国民が利用できるようになる(パブリック・ドメイン)制度が設けられているが、この制度が設けられた趣旨を鑑みると、著作者がいつ亡くなったかという情報が容易に得られる環境を設ける必要がある。 

 すなわち、著作権法における著作物の利用は、著作権の帰属情報、著作権者の所在情報及び著作者の没年に関する情報を、当該著作物の利用を希望する者が入手可能である状態であることが前提となっているものと思われる。

 したがって、図書館が権利制限規定によらずに著作物を用いて図書館業務を行おうとするためには、(1)著作権の帰属の調査若しくは著作権者の所在を確認した上で、判明した著作権者から許諾を得るか、又は(2)著作者の没年を調査し、著作物がパブリック・ドメインであるかを確認する必要がある。

 その一方で、著作権の帰属情報(相続人又は譲渡を受けた者の個人情報)、著作権者の所在情報(住所、連絡先等の情報)や著作者の没年に関する情報は、個人情報保護法制にいうところの「個人情報」に該当することから、みだりに第三者に提供することは同法制により禁じられているところである。 

 図書館が権利制限規定によらずに著作物を用いて図書館業務を行おうとする場合、前述のとおり、著作権者の帰属情報や所在情報、又は著作者の没年に関する情報を入手する必要がある。ところが、これらの情報は「個人情報」に該当するものと考えられるため、これらの情報を保有している機関(概ね出版社、学協会などが多いと思われる)は、個人情報保護法制との関係を勘案し、これらの情報の提供を拒否するものと考えられる。これらの情報の提供が拒否された場合、当該図書館業務の遂行は不可能となり、図書館の果たすべき任務・役割を十全たらしめることができなくなる。このため、例えば、視覚障害者の情報アクセス権を保障するためにある書籍の録音物を公共図書館において作成することができなくなるが、このような帰結は妥当とは思われない。 

 このような帰結を招くのは、著作物を利用するために原則として著作権の帰属情報、著作権者の所在情報を入手した上で著作物の利用のための手続を行うことを要求していると思われる著作権制度と、これらの情報の第三者への提供を原則として禁止している個人情報保護制度との間の調整が何らなされず、別々に制度設計がなされていることに原因があるものと思われる(旧著作権法の制定過程から考えても、著作者の没年情報を利用者が入手できる環境が前提であったことは明白である)。

 このため、両制度における調整規定を設けるか、地方自治体、出版社、著作権等管理事業者その他これらの情報を保有している者が著作物の利用のために当該情報の取得を請求してきた者に対して当該情報を提供したとしても個人情報保護法制に基づく措置を主務官庁が講じないとすることを指針等に明記することにより、図書館における著作物の利用に係る環境を整える措置を講ずることを求めるものである。


このページのトップに戻る