第20回大学図書館研究集会
ビジネス情報サービス(抄録)
豊田恭子
1.学術情報と比べた場合、ビジネス情報サービスの特徴には以下の3点がある。
(1)取り扱うのが圧倒的にフロー情報である
(2)情報利用者の圧倒的多数はビジネスの素人である
(3)利用者は「バックアップ」を求めてくる
こうした利用者に対しては大学図書館が従来対象としてきた学術研究者とは違うアプローチが必要であり、図書館の伝統的なレファレンス・サービスのやり方を見直さなくてはならないケースも多い。
2.上記に照らし、ビジネス情報を扱う場合のライブラリアンの役割を整理すると、以下のようになる。
(1)書誌データの整っていないカレント情報を整理し提供する
(2)何を探したらいいのかさえ判らないような利用者の相談役となり、情報源へナビゲートする
(3)本人のやりたいこと、立証したいこと(目指すもの)を聞き、それを手助けする
3.ビジネスは扱う分野が広いので(というよりも、あらゆる分野がビジネスにはからんできてしまうので)、その幅の広さに臆してしまうことが多いが、ビジネスライブラリアンに必要なことは、
(1)分野の一般知識
(2)情報源の知識
であって、その分野の専門知識を身に付ける必要はない。何もビジネスのプロでなくとも充分務まるということだ。
4.分野の一般知識を身に付けるには、
(1)日々のレファレンスが一番の機会である
(2)利用者の輪に入り、そこから話題の「単語」を覚える
(3)利用者と一緒に情報源に目を通し、情報検索の過程を共有する
(4)わからなかったことをそのままにしない
といったことがあげられる。分野の専門家になる必要はないが、そこで今話題のこと、利用者が語った「単語」が、大まかにいってどこの分野に属すものなのかを推測できることが重要である。
5.情報源の知識を身に付けるには、
(1)参考図書となりうるような情報源を積極的に収集する
(2)重要な情報源の抄録(紹介文)を書けるようにする
(3)十進分類法から離れた独自分類を試みる
(4)情報源の評価をする
といったことが挙げられる。特に最後の「評価」はライブラリアンが苦手な部分だが、ビジネス情報源については最も重要な部分ではなかろうかと思う。そうした評価を出版社にもフィードバックし、一緒に情報源を作っていくような試みがもっとあっていいと思う。
6.ビジネス情報源の三種の神器
(1)レポート
全体像を把握するための、業界レポートや調査レポートといわれるもの。ものを調べるときの第一歩となるような資料。たとえば『業種別貸出審査辞典』(きんざい)『TDB業界動向』(帝国データバンク)、日本実業出版や東洋経済から出ている『業界地図』、教育社や日経文庫の『産業界』シリーズ、銀行・証券会社の業界レポート、市場調査会社による調査レポートなどが挙げられる。
(2)統計
ビジネスでは数値がないと何も語れない。官公庁の統計を集めた統計ポータルサイト(http://www.stat.go.jp)、民間団体の統計を集めた機械振興協会のサイト(http://www.eri.jspmi.or.jp/lonk/fdantai.htm)などを活用したい。上記のレポートを読んだあと、そこに引用されている統計を原出典にもどって引きなおすことを勧めたい。
(3)ニュース
フロー情報を扱う典型がニュースデータベースである。最低限「日経テレコン21」は使いこなしたい。ただいきなりデータベース検索を始めると、特に予備知識のない分野では回り道になることが多いので、まず最初に挙げたレポート類で大まかな全体像を把握してからデータベースに入ること。またニュース報道は間違いも多いので、キーとなるファクトについては、複数ソースで事実確認することを忘れてはいけない。
7.大切なこと
ビジネス情報サービスを提供するにあたって、最も大切なことは、
(1)サービス精神
であると思っている。利用者の関心事を共有することができれば、それだけで利用者の8割には満足してもらえるといっても過言ではない。レファレンスの「答え」を見つけること以上に、接客術のあり方を考えたい。そしてその上で、
(2)プロ意識
を持ちたい。ライブラリアンには謙虚な人が多いが、自信を持って判断し、情報源を利用者に推薦することができるようにならなくては、プロフェッショナルとはいえないと思う。
8.研修制度について
残念ながら、ビジネス情報サービスについてはいい教科書や研修がなかなかないのが実情だ。ただ、データベース検索技術は、情報科学技術協会のサーチャー試験や各ベンダーのセミナーで学ぶことができる。
日本能率協会マーケティングデータバンクでも、研修を開いている。
また公共図書館を主たる対象にしているものの、ビジネス支援図書館協議会でも年に1―2回、研修を開催しているので、参考にしていただきたい。