日本図書館協会図書館の自由委員会大会・セミナー等2016年東京大会

平成28年度(第102回)全国図書館大会 東京大会 第7分科会 図書館の自由


第7分科会/図書館の自由

テーマ:図書館におけるプライバシー保護の現在



大会への招待

 (『図書館雑誌』vol.110,no.9 2016.9 掲載原稿より)

第7分科会 図書館の自由  図書館におけるプライバシー保護の現在

2015年8月「図書館でのプライバシーに関するIFLA宣言」が採択され,図書館でのデータの安全保護,情報管理,過度なデータ収集への危惧など,図書館の原則を確認しています。また,同年12月には米国情報標準化機構(NISO)が「NISOプライバシー原則」を公表するなど世界的にも技術の急速な進歩に対応するための図書館のプライバシー保護について関心が高まっています。
 本分科会では,情報セキュリティ問題に造詣が深く,政府のIT総合戦略本部「パーソナルデータに関する検討会」委員として個人情報保護法改正にも関わった新潟大学の鈴木正朝氏を講師にお迎えし,個人情報とプライバシーの概念を整理し,さらに一歩進んだプライバシー保護について,図書館コンピュータシステムの中でのデータの利活用から派生する諸問題を含め考えます。

□基調報告:図書館の自由・この一年 西河内靖泰(JLA図書館の自由委員会委員長、広島女学院大学)

一年間の図書館の自由に関する事例をふりかえり,自由委員会の論議と対応を報告します。主な報告事例としては,神戸高校旧蔵書貸出記録流出について,神戸連続児童殺傷事件加害者手記『絶歌』をめぐるその後の状況,CCCの運営する図書館で問題になった資料収集についてなどを予定しています。

□基調講演:図書館と個人情報保護法−特別法は必要か? 鈴木正朝(新潟大学法学部教授)

2015年に個人情報保護法が改正され,個人情報の定義を明確化しつつ,特定個人がわからないよう情報を匿名化加工したものについて,適切な規律の下での有用性を確保することとしています。私立図書館はこの法,国立大学図書館は行政機関および独立行政法人等の個人情報保護法,公立図書館は各地方自治体条例と,設置主体によりばらばらの規律のもとで個人情報を取り扱うことになります。この中で匿名加工情報はどう扱われていくのか今後の動向に注目する必要があります。
 鈴木正朝氏には,図書館の保有する利用情報は,個人情報保護法体系に位置づけたままで良いのか,特別法検討の必要性についてもお話しいただきます。

<主な著書>
『ニッポンの個人情報「個人を特定する情報が個人情報である」と信じているすべての方へ』翔泳社 2015 共著
『プライバシー・個人情報保護の新課題』商事法務 2010 共著
『個人情報保護法の基礎知識 情報を集める時,使う時のルール』ダイヤモンド社 2010

□研究協議

 基調講演と報告をふまえて,図書館利用者のプライバシー保護に関して求められていることは何か,ガイドラインを作成するにあたっての留意点や考え方について意見交換をします。

□パネル展示

「図書館の自由」にかかわるさまざまな資料をわかりやすく提示するパネルを展示します。このパネルは,図書館員や利用者に「図書館の自由に関する宣言」などについて知っていただくことを目的としています。図書館の研修会などで利用の希望があれば貸出していますので,この機会にぜひご覧ください。

(伊沢ユキエ(いざわゆきえ) :JLA図書館の自由委員会,横浜市磯子図書館)

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報告資料

基調報告:図書館と個人情報保護法−特別法は必要か?

鈴木正朝(新潟大学法学部教授) 

当日投影資料(PDF 3840kb) (白黒のプリントをPDF化したため不鮮明な部分があります。後ほど鮮明な資料を掲載予定です。)

 平成27年に 個人情報保護法が改正され、私立の図書館の個人情報はその新たな規律に服することになる。また、本年5月20日には、行政機関及び独立行政法人等の個人情報保護法が改正され、行政機関及び国立大学図書館などがその規律に服することになる。
 しかし、多くの都道府県市区町村立の図書館は、それぞれの自治体の制定している個人情報保護条例の規律の下で個人情報を取り扱っていかなければならない。
 同じ図書館情報であっても、個人情報としての管理のあり方は、それぞればらばらの2000近くのルールによって規律されることになる。
 今後、匿名加工情報、非識別加工情報が個人情報保護条例にどこまで浸透していくのか、今後の改正の動向を見ていかざるを得ないが、はたして利用者情報が、どの程度、匿名加工やオープンデータ政策の対象情報としていけばいいのか、その前提となる一定のデータ量を蓄積することを含めて、その対応方針は固まっているのであろうか。
 利用者情報をこうした個人情報保護法体系の中に位置づけたままでいいかどうか、その特別法を検討する必要性などを検討してみたい。


報告:図書館の自由・この一年

西河内泰(JLA図書館の自由委員会委員長)

[配布資料に当日報告した内容をさらに付加した。]

2015年10月から2016年9月の事例について報告する。

1.資料収集をめぐる問題

■選書のあり方
2015年10月,CCCの管理運営する海老名市立図書館ではリニューアル開館の直前に市議会で不適切な蔵書があると指摘され,教育長が点検し蔵書をから排除することが報道された。また,2016年3月に開館した多賀城図書館について,不適切な選書がなされているとの批判が起きている。
選書の責任はどこにあるのか(図書館長,指定管理者,教育委員会,首長),適切な選書はどうあるべきか。
◎「CCCの運営する図書館(通称「TSUTAYA 図書館」)に関する問題についての声明」
2015年12月2日 図書館問題研究会常任委員会
◎図書館セミナー「図書館の運営を考える−武雄市図書館と海老名市立図書館の選書から見えること」
2016年2月13日 JLA政策企画委員会主催
◎[補記]「ツタヤ図書館問題全国連絡会」発足
 2016年3月25日、岡山県高梁市で、多賀城市や開館計画中の高梁市など6自治体の市民らが「ツタヤ図書館の在り方を考えるシンポジウム」を開催し、市民レベルで取り組む「ツタヤ図書館問題全国連絡会」が発足した。[以上、補記]

■神戸児童連続殺傷加害者手記『絶歌』その後
『絶歌』については,犯罪被害者遺族から「出版するな,販売するな,蔵書とするな」という要望に対し,各地の議会,教育委員会,図書館協議会で議題となり選書のあり方について論議が広がった。青少年条例の有害図書指定を求める請願や撤去を求める請願も出ている。
2015年12月21日,兵庫県三木市議会で「猟奇的殺人事件加害者による手記の撤去についての請願」が採択された。同市図書館は閉架の措置を取り予約者のみに提供することで閲覧を制限し,選書基準を改訂して犯罪被害者の求めない資料を収集しない資料とする,とした。
選書基準で収集しないものとして,わいせつ,青少年条例で指定されたもののほかに犯罪被害者の云々という条項が入ることについてどう考えるか。

2.資料提供をめぐる問題

■改定児童ポルノ法による所持の制限
児童買春・児童ポルノ禁止法で定める児童ポルノ単純所持への罰則規定が2015年7月15日に施行された。これを受けて,雑誌専門図書館の大宅壮一文庫では,利用制限(複写の制限)を開始した。

■蔵書への異議申立
学校図書館の蔵書について教員から人権上問題があると指摘された。福祉プラザ情報室で所蔵するまんが『ヘルプマン』について,子どもも閲覧できるとして利用者から抗議があった。公共図書館で郷土資料として収集した市内にある会社の社内報について,利用者から慶弔関係のお知らせに個人名が掲載されているが問題ではないかとの指摘があった。などの相談を委員会で受けた。
慰安婦について記述のある本の閉架を求める請願が6月に川崎市議会にあった。

3.資料回収・出版差止

[補記]出版社から図書館への回収を依頼するなら、事情の説明が必要。図書館として問題点がわからないと判断できない。[以上、補記]
・『日経ウーマン』2015年4月号 コーラン写真誤掲載
・学研まんがシリーズ『スポーツナビゲーターのひみつ』(学研,2014年9月) 2015年8月に「改訂版送付と旧版ご返送のお願い」を図書館に送付。誤り部分を明示し,改訂版を発行しているよい事例。
・『世界の音楽なんでも事典』(岩崎書店,2015年9月) 1月に回収・交換の依頼。複数の誤植。
・『宗教学大図鑑』(三省堂,2015年6月) 2月に回収と「切替処理」後再納品の依頼。編集上の不備。
・『やがて,警官は微睡る』(双葉社,単行本2013年2月,文庫2016年2月) 5月に回収と「切替処理」後再納品の依頼。職業名
・『日本会議の研究』(扶桑社,2016年4月) 日本会議が版元に出版停止を求める。
・『ダーリンは70歳・高須帝国の逆襲』(西原理恵子・高須克弥共著 小学館,2016年5月) 著者が書き直しを拒否して絶版,5月末に書店に回収依頼。
・『江戸諸国四十七景 名所絵を旅する』(講談社,2016年4月) 7月に回収交換の告知。
・「全国部落調査」復刻出版予告について、横浜地裁が3月に出版差止め仮処分決定。[補記]部落解放同盟が示現舎を相手に請求していた。[以上、補記]

4.図書館利用者のプライバシーについて

■神戸高校旧蔵書貸出記録流出
2015年10月5日,『神戸新聞』夕刊「村上春樹さん 早熟な読書家」の記事で,村上氏が在学していた県立高校の本から同氏の貸出記録が出てきたことが報じられた。
◎神戸高校旧蔵書貸出記録流出について(調査報告)
2016年11月30日 JLA図書館の自由委員会
◎村上春樹氏の高校時代の学校図書館貸出記録が神戸新聞に公表されたことに関する見解
2015年10月18日 学校図書館問題研究会

■『週刊少年ジャンプ』2015年11月16日号掲載の「斉木楠雄のΨ難 第170χ図書室のΨ難」における利用者のプライバシーにかかわる描写について
2015年12月21日 学校図書館問題研究会[補記]が、学校図書館の利用者のプライバシー保護にかかわる描写があるとして、学校図書館の現状を理解してもらうとともに、学図研の考えを伝えるため編集者と作者あてに文書を送付した。[以上、補記]

■諸外国のプライバシーに関する文書
・国際図書館連盟(IFLA)図書館におけるプライバシーに関する声明 2015年8月14日
・全米情報基準機構(NISO),図書館などにおける利用者のデジタルプライバシーについての原則 2015年12月10日
・国際図書館連盟(IFLA),「忘れられる権利」に関する声明 2016年2月25日
・アメリカ図書館協会(ALA)知的自由部 「電子環境における利用者データ保護に関する戦略を提供する新図書館プライバシー・ガイドライン」 2016年8月1日
・[補記]IFLA「図書館における公共アクセスの原則」2016年8月5日

■マイナンバーカードの図書館利用
マイナンバーカードの交付が開始され,いくつかの自治体で図書館カードとして利用している。将来カード発行が有料となることはないか,利用の抑制を招かないか,経費が他の図書館費目に影響しないか注視したい。
[補記]国は、マイナンバーの通知カードを身分証明書として使わないようレンタル業界にも求めていたが、ツタヤでは当初、通知カードと住所が確認できる書類で本人確認ができるとHPで説明していた。国からダメだと通知があっても現場では虫して使うところがある。本当に大丈夫だろうかと危惧がある。[以上、補記]
総務省から2016年9月16日付「マイナンバーカードを活用した住民サービスの向上と地域活性化の検討について(依頼)」が出ており,「マイキープラットフォーム」の実証実験が計画されているが,貸出履歴情報は保有しないことを前提としたうえでも,読書の秘密を侵害する恐れがないか,今後に注目する必要がある。

■読書通帳・読書手帳
データを印字するために利用者の貸出データを別のサーバに移転する方式がある。読書通帳を望まない利用者のデータ移転や保有する期間,そもそも移転してよいかなど,個人情報管理の観点から検討が必要である。[補足あり]

■リライトカード
氏名と利用資料が同時に表示され,返却しても次の貸出をしないとそのままの表示される事例がある。紛失時に読書の秘密が漏れることになる。[補足あり]

■国立国会図書館サーチ詳細画面urlに位置情報表示
国立国会図書館サーチをスマートフォン等で検索し,書誌詳細画面を開くと,urlに位置情報(緯度・経度)が含まれる場合があり,SNSやブログにこのurlを投稿すると,意図せずして検索した場所を公開することになることを,2016年10月にNDLが注意喚起した。カーリルで近隣図書館の所蔵と連携するための仕様だが,一時的に連携を停止している。

5 その他

■入館の制限について
障害者差別解消法が2016年4月に施行された。[補記]それに先立ち文科省は2015年」11月9日付で「文部科学省所管事業分野における障害を理由とする差別の解消の推進に関する対応指針」を告示した。日本図書館協会は、「図書館利用における障害者差別の解消に関する宣言」(2015年12月18日)をウケ、「図書館における障害を理由とする差別の解消の推進に関するガイドライン」を3月18日に公開した。
法施行以降も、公共図書館で精神障害者等の入館の制限について条例や利用規則に規定している自治体があるが、「・・・おそれのある場合」など、安易な拡大解釈を生む文言になっていないか点検してほしい。
障害者差別解消法[以上、補記]を待つまでもなく,地方自治法244条で「正当な理由がない限り,住民が公の施設を利用することを拒んではならない。」「不当な差別的取扱いをしてはならない。」と定めている。公共図書館で入館の制限について条例や利用規則に規定する自治体があるが,「・・・おそれのある場合」など,過大になっていないか点検してほしい。
『賃金と社会保障』1583号(2013年4月上旬)に,東京地方裁判所判決(平成24年11月2日)で「専ら原告が…精神障害者保健福祉手帳の交付を受けたことを理由としてインターネットカフェの入店拒否に及んだ行為は公序良俗に反する違法な差別行為であり,不法行為を構成する…として店舗を営業する会社および店長に対する損害賠償請求が認容された事案。」が所収されている。
[補記]2016年7月の相模原市障害者施設殺傷事件は、私たちの社会にある精神障害者等のマイノリティに対する偏見を露わに示したものとして世間を震撼させた。このような中での「図書館の自由」を再度問う必要がある。[以上、補記]

■[補記]2016年7月18日、福島県二本松市立二本松図書館で、市外在住のため貸出カードを作れないと告げられた男性が職員と利用者計4名にナイフで傷を負わせる事件があったが、図書館の危機管理の課題でもあるが、「切れやすい」現代の世相の中で「図書館の自由」を最高させられる事件だった。[以上、補記]

■登録申込書の記載事項について
多賀城市図書館に「利用申込書の性別欄廃止と図書館利用券に通称名使用の要望」が寄せられ,2016年2月市議会で質疑があり,現状どおりとするとの答弁であった。
[補記]地域事情にもよるが、性別欄を必須記入事項とせず登録時の通称名使用にも対応している図書館は多い。これらの必須化は[i以上、補記]在日外国人,夫婦別姓,性同一性障害などさまざまな立場の利用者を差別・排除することにならないか。

■北杜市立図書館で市民グループのチラシ配布拒否
山梨県北杜市の図書館が,市が推進する「中部横断自動車道」の建設反対派の「ニュース」掲示を拒否したとの報道があった(朝日新聞全国版8月18日)。[補記」市民団体「中部横断自動車道八ヶ岳南麓新ルート沿線住民の会」は前館長から今年度文の掲示許可を受けていたが、4月に着任した新館長が「建設反対という一方のスタンスに立ったものを配るのはどうか」として拒否したもので、8月17日の図書館協議会で、協議会会長は「資料のよしあしを判断するのは住民。図書館が置くかどうかを判断するのであれば、意見の分かれる憲法や平和などに波及しないか心配だ。両者でよく話し合って欲しい」と述べたと、朝日新聞は報じている。
自由宣言の「提供の自由」は施設の提供にも及ぶものであり、再考を求めたい。j[以上、補記]

■捜査機関等からの照会への対応
刑事訴訟法第197条第2項に基づく捜査関係事項照会で複写申込書の提供を求められたとき、個人情報保護条例で規定する「要注意情報」にあたるので外部提供はできない、と自治体法務部門が判断した事例がある。
弁護士法23条の2に基づく照会文書への対応についての相談があった。考え方は刑事訴訟法に基づく場合と同様で、正当な理由(図書館は利用者の秘密を守る)により提供を拒否することができる。

[以下、当日追加報告事項]

■東京多摩市立図書館HPで個人情報の不適切な扱い
2016年8月2日、多摩市立図書館ホームページに掲載の「多摩市読書活動振興計画」パブリックコメントへの意見提出者43人(うち41人分、2人は匿名)の住所、氏名、電話番号、メールアドレスを、文字等の上から黒塗り加工したが、文字等のデータが残っていたため、一定の操作により黒塗りの下の文字等が明らかになる状態だったとして、同館は8月4日に謝罪文を掲載した。

■岐阜県の図書館で同性愛関連図書の再盗難
2014年8月に盗難にあいその後再購入した同性愛関連図書が、再び紛失していることが2015年12月の蔵書点検で判明し、警察に盗難届を出している。

■秋田市立図書館でノートパソコン紛失
2016年10月、秋田市立図書館で16万人の利用者データを入れた移動図書館用ノートパソコンを紛失する事件が起きている。[補足あり]

(補足:村岡委員)
■読書通帳・読書手帳
学校図書館での論点整理は異なる部分を持つものになると想定するが、とりあえず公共図書館部分としてまとめたものである。読書通帳サービスの内,別サーバーを持つ読書通帳機に貸出データを転送し印字する方式では,個人情報管理上の課題が未整理である。図書館システムから別のサーバーに転送して二重に管理すること,読書通帳を使わない人も含めて全員の貸出データを転送すること,別サーバーにデータを置く期間など,当委員会として今後仕様を整理するポイントを示していく必要がある。また技術的には,学校図書館と公共図書館で一体運用が可能である。学校図書館では図書館カードを先生や図書館が管理する場合もあり,従来は想定してなかった課題が生じることもあろう。(参照:「いわゆる「読書通帳」サービスについて:「図書館の自由」の観点から」『』図書館の自由』93号(2016年8月))

(補足:村岡委員)
■秋田市立図書館ノートパソコン紛失
2016年10月7日の夜まで事務所内にあったパソコンが、10月9日の朝になくなっていると気づいたと10月11日に秋田市図書館のHPで公開され新聞報道された。委員会では10月14日に電話で事情を確認した。
紛失したのは移動図書館用に使っているノートパソコンで、10月7日時点の秋田市図書館全部の貸出データと個人情報の一部が入っていた。
秋田市ではどのサービスポイントでも貸出・返却・登録ができる。毎朝、ノートパソコンに前日までの貸出・登録データを入れて自動車図書館で運用、帰ってからデータを書き戻すが、消してはいなかった。システム内の貸出データと個人データを暗号化していなかった。ウインドウズのログオンIDとパスワードがあるが、ログオンさえすれば、あるいはハードディスクを他のパソコンにつなげれば、ファイル内容が見える状態だった。また、データ管理について、仕様書では暗号化するとなっていたが実際はされていなかった。
これは当該館の不祥事ということではなく、公共図書館全体の課題としてとらえなければならない。図書館システム構築の際に自由宣言の理念をどう具体化するのか、現場で主体的に取り組めるよう、当委員会としてガイドラインを策定する必要がある。

(補足:熊野副委員長)
■日常業務の中で読書の秘密を守ること
図書館利用者のプライバシーを守ることは自由委宣言の基本。人の名前と何を読んでいるかが同時に人の目に触れるという、読書の秘密を侵すことがいろんな場面で起こっているのではないか、再確認したい。
貸出のレシートに名前や書名などが書いてあり、それをはさんだまま次の人に貸し出されて、事件として報道されたことがあった。これを受けて、利用者の名前を書くのをやめる、あるいは利用者の番号だけにする、番号の何桁だけにする、と変更したところもある。
リライトカードが最近増えているが、氏名を印字してあるところや自分で記入するための枠が作ってあるところもあるが、「これには氏名を書かないで、家族で識別する必要があるときは、自分だけでわかるマークをつけて利用してください」という自治体もある。紛失時だけでなく、家族でも読書の秘密が漏れることがいやだと思う人もあるかもしれない。個人の名前と資料名が同時に見えることに対して、何ともないと思っているのか、きちんと検討しようと思っているのか、あるいは考えていないのか。図書館システムのベンダーから提案された例にあるからそのままということでなく、主体的に考えて決めてほしい。
予約本を棚に取りおいて自分で貸出手続きをする運用をする場合も、どんなやり方をすれば誰がどの資料を使っているかを人目に触れないようにできるか、主体的に考えてやっていただきたい。

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